'10.07.18 『ぼくのエリ 200歳の少女』@銀座テアトルシネマ
『きな子』から、『くらげくん』まで時間があるので、急いでランチして京橋へ移動。『ぼくのエリ』鑑賞。ブロガーさん達の間でとっても評判がすごくいいので、とっても見たかった。
*ネタバレありです!
「学校でいじめにあっているオスカー。両親は離婚し、一緒に暮らす母親も、たまに遊びに行く父親も、かわいがってくれるけれど、それぞれ新しい恋人がいて、オスカーよりもそちらが大切な様子。孤独なオスカーは、ある夜エリという不思議な子供に出会う…」という話で、これはヴァンパイアと少年の哀しく美しい愛の話。そして"生きる"ことの切なさや辛さを描いている。これは、よかった。例えば『パンズ・ラビリンス』とかみたいに、見終わった後、その世界観にどっぷり浸って動けないというようなことはなかったけれど、その耽美な感じは好きだった。
スウェーデンの映画。スウェーデンといえば、イングマル・ベルイマンだけど、多分見たことはない。『処女の泉』は録画してあるけど、ビデオなので… ラッセ・ハレストレム監督もスウェーデン出身だけど、見た作品はほとんどがアメリカで撮られたもの。唯一見たスウェーデン時代の作品は『マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ』のみ。これは、ちょっぴり切なくてかわいくて好きだった。と、つらつら書いているけど、それくらいスウェーデン映画には馴染みがないということが言いたかった(笑) スウェーデンと言えば北欧。雪、白夜…というイメージ。スウェーデンの方がってことではなくて、北欧が寒くてちょっと暗いイメージ。あと、おとぎの国っぽい。メルヘンというよりも、もう少し妖精っぽいというか…
上手く言えないな(笑)とにかく、真っ白な雪の世界に、ちょっぴり野暮ったいかもしれないけれど、ニット帽やカラフルな防寒服を着て、頬を真っ赤にした子供達の姿が浮かぶ。家に帰ると暖炉の側でムーミンを読んじゃうような(笑)オスカーもエリも、そういう無邪気な明るさはないし、話の性質上、画的にも明るさはないものの、基本このイメージ。この雰囲気が好き!
ヴァンパイアものではあるのだけど、例えば『アンダーワールド』(←これは好き)とは全然違う。もっとひっそりとした存在。エリは永遠に13歳だけど、その妖しさはスゴイ。タイトルに少女とあるのに、あらすじで子供としたのはワケがある。知ってて見ても哀しい話しではあるけれど、エリの隠されている部分が分かった時に、よりエリとオスカーの哀しさが分かる。だから極力ネタバレは避けるけど、話したい部分がそこなので、触れないわけにも…
まぁ、無粋なぼかしが入ってしまっているので、分かりにくくなってしまっているけれど、エリのセリフに注意していれば分かるかと… で、この部分がエリと同居している初老の男性や、オスカーのその後の運命をより切なく、でも耽美なものにしている。これを書いてしまうと、分かってしまうかなと思うけれど、正直に言うとそちら系の映画はそんなに惹かれない。全然否定する気はないけど、題材としてはノーマルがいいかなと思うので… ただ、この映画に関しては、この設定じゃないとダメかなと思う。いい意味で独特の暗さや、単なる恋愛だけでない"生"とか"性(さが)"とかを感じさせる。上手く言えないけど…
ヴァンパイアものなんだけど、いい方にも悪い方にも美化して描いていないのが、ハリウッド映画とは違うところかな。エリは実際にヴァンパイア・パワーを発揮すると、それはもう野獣のような感じで、あんまり見たことないけど、サー・クリストファー・リーが遥か昔に演じていたように、美女の白い首筋に、黒マントに蝶ネクタイのドラキュラが牙をたてるというような優雅さは皆無。高架下を通り掛かったほろ酔いオヤヂの首めがけて、背中におぶさってガブガブ噛み付く。これはかなり衝撃的! で、なるべくそういう襲撃をせずに、ひっそり暮らすために、同居人のオッサンが必要になってくる。
この役名すら分からない地味な初老のおじさんこそ、重要なキーパーソン。エリが人を襲わなくてすむように、実はこのおじさんが人を殺し、その血をエリに飲ませているという仕組み。彼は夜になるとナイフ、じょうご、血をためるポリタンクなど、道具一式を持ってバスに乗って出かけ行く。詳しい描写は避けるけど、手順自体はよく考えられていて無駄がない。ただし、手際はよくない。そして失敗ばかり。最初はその感じを笑っていく映画なのかと思ってたけど、実はここがエリがオスカーに近いた理由の1つでもある。そして、多分おじさんが男性を狙うのも伏線なんだと思うけど、違うかな?もちろんエリはオスカーに惹かれているんだと思うけれど、それだけじゃないってところに、打算というにはもっと切羽詰まった、生きていくことや、性(さが)を感じた。勝手な解釈かもしれないけど…
オスカーは孤独な少年。離婚した両親は、彼らなりにオスカーを愛しているし、可愛がってもいる。でも、オスカーよりも自分を優先してしまうところがある。オスカーは繊細で、感受性の豊かなタイプ。だから、そういう両親の気持ちも、敏感に感じ取ってしまう。そして、その寂しさや悲しさを自分の中におさめてしまう。どうして父親は、たまに息子が遊びに来たときくらい、恋人に遠慮してほしいと言えないのか(怒)と思うけど、誰もが親に向いているわけではない。この父親の"恋人"も伏線なんだと思う。恋人だという描写はないけど、なんとなく分かるように撮っているのが上手い。孤独で"不思議なもの"に 興味のあるオスカーは、会った瞬間からエリに惹かれていく。オスカーはエリの正体を盗み見るけど、彼の気持ちは揺らがない。オスカーがもともとそういうタイプだったのかは分からないけど、子供の頃には憧れることはある。オカルト的な不思議な世界にも、もうひとつの事実についても。後者については、いろんな憧れ方があると思うけれど… でも、まさにあの瞬間に彼の運命は決まったのでしょう。きっと彼も人生の最期には、あの初老の男性のように幸福を感じながら逝くんだと思う。そういう運命を案じさせるラストがよかった。
キャストは誰一人分からなかった…(笑)大人も出てくるけど、あくまで脇役。そしてオスカー、もしくはエリがそれぞれ大人と一緒にいるシーンはあるけど、2人一緒にいる時に第三者が絡むことはほとんどなし。まぁ、当然と言えば当然だけど(笑)でも、それぞれが2人以外の人と関わる時は、たいてい陰欝な感じ。そして、たいてい辛くてやるせない。2人でいるシーンも決して明るかったり、楽しかったりするわけではないのだけど、2人は心や気持ちが通じ合っている感じは分かる。2人だけの独自の世界が出来上がる。それがいい。その世界が毒を含んでいるのもいい。主演の2人がよかった。オスカーは髪も眉毛もプラチナブロンドで、肌も抜けるように白い。おかっぱ頭の写真を見た時は、彼がエリなんだと思っていた。それくらい少女っぽい美しさ。でも、実際に動く彼は、完全な文系男子ではあるけど、やっぱり男の子なんだよね。その感じがよかった。少女っぽい美少年の… って感じではなくて、普通のちょっと不思議なモノに興味のある男の子が運命的な出会いをする。その相手がエリ。邦題では"200歳の少女"となっているけど、劇中では特に200歳であるとの記述はなかった気がするけれど… エリはヴァンパイアなので、永遠に13歳の姿。多分、演じているのは女の子だれど、いわゆるヴァンパイア=近寄りがたい美しさ、気高さというようなものは全くない。ホントに普通の子供。あ、もちろんかわいいのですが(笑) いつも孤独で、寂しくて、人を殺さなければならない運命を、受け入れきれもせず、抵抗できもせずという感じ。それがエリの"普通の子供の容姿"により、オスカーや初老の男性だけでなく、見ている側も守ってあげたいと思わせる。いつも自信がなさそうに悲しげ、でも一度ヴァンパイア・パワーのスイッチが入るとスゴイ殺傷能力を発揮する。でも、その後のエリの心細げな姿を見ると切なくて、許してあげたくなる。プールはやり過ぎだけど…(笑)とにかく、オスカーのカーレ・ヘーデブラント、エリのリーナ・リアンデションが演技とは思えないほどピッタリはまっている。彼らの不安や恐怖感が相乗効果で作品自体にも、不安感を与えている。このキャスティングは素晴らしい。
作品自体も映像も暗くて、静かなトーンで進む。特に言及はなかったけれど、カーがルービックキューブで遊んでいるので、1970~80年なのかな。なぜこの時代なのかは不明。原作がそうなのかな? スウェーデンは社会主義ではなかったと思うけど、冷戦時代のヨーロッパの暗く不安な感じを生む効果がある。ケータイやネットがないので、情報が広がりにくいので、エリが今まで生きて(?)これたのも納得。エリがなぜヴァンパイアになったのか特に説明はない。でも、エリは生きていくために、オスカーを選んだ。その感じが切なくて耽美。その切なさは北欧の感じと合っている。洗練され過ぎていないけれど、どこかスタイリッシュ。
その洗練され過ぎないスタイリッシュさは、作品全体に言えること。全体の雰囲気や映像がいい。そしてラスト! エリの全てを受け入れて、列車にのるオスカー。レトロな車両の座席に座り、窓の外を優雅に眺めるオスカー。足元に大きな荷物。そして… このラストが素晴らしい! ヴィスコンティの映画のように優雅で美しい。そしてデカダンス。今まで見た中で10本の指に入る美しさ。
エリの殺傷能力がすごいので、けっこうグロいシーンもあるけれど、これは映画館で見て欲しい。どっぷりその世界に浸って見た方がいいと思うので… いわゆるヴァンパイアものとは違うので、そちらを期待して行くと全然違うので注意!
『ぼくのエリ 200歳の少女』Official site
『きな子』から、『くらげくん』まで時間があるので、急いでランチして京橋へ移動。『ぼくのエリ』鑑賞。ブロガーさん達の間でとっても評判がすごくいいので、とっても見たかった。
*ネタバレありです!

スウェーデンの映画。スウェーデンといえば、イングマル・ベルイマンだけど、多分見たことはない。『処女の泉』は録画してあるけど、ビデオなので… ラッセ・ハレストレム監督もスウェーデン出身だけど、見た作品はほとんどがアメリカで撮られたもの。唯一見たスウェーデン時代の作品は『マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ』のみ。これは、ちょっぴり切なくてかわいくて好きだった。と、つらつら書いているけど、それくらいスウェーデン映画には馴染みがないということが言いたかった(笑) スウェーデンと言えば北欧。雪、白夜…というイメージ。スウェーデンの方がってことではなくて、北欧が寒くてちょっと暗いイメージ。あと、おとぎの国っぽい。メルヘンというよりも、もう少し妖精っぽいというか…

ヴァンパイアものではあるのだけど、例えば『アンダーワールド』(←これは好き)とは全然違う。もっとひっそりとした存在。エリは永遠に13歳だけど、その妖しさはスゴイ。タイトルに少女とあるのに、あらすじで子供としたのはワケがある。知ってて見ても哀しい話しではあるけれど、エリの隠されている部分が分かった時に、よりエリとオスカーの哀しさが分かる。だから極力ネタバレは避けるけど、話したい部分がそこなので、触れないわけにも…

ヴァンパイアものなんだけど、いい方にも悪い方にも美化して描いていないのが、ハリウッド映画とは違うところかな。エリは実際にヴァンパイア・パワーを発揮すると、それはもう野獣のような感じで、あんまり見たことないけど、サー・クリストファー・リーが遥か昔に演じていたように、美女の白い首筋に、黒マントに蝶ネクタイのドラキュラが牙をたてるというような優雅さは皆無。高架下を通り掛かったほろ酔いオヤヂの首めがけて、背中におぶさってガブガブ噛み付く。これはかなり衝撃的! で、なるべくそういう襲撃をせずに、ひっそり暮らすために、同居人のオッサンが必要になってくる。
この役名すら分からない地味な初老のおじさんこそ、重要なキーパーソン。エリが人を襲わなくてすむように、実はこのおじさんが人を殺し、その血をエリに飲ませているという仕組み。彼は夜になるとナイフ、じょうご、血をためるポリタンクなど、道具一式を持ってバスに乗って出かけ行く。詳しい描写は避けるけど、手順自体はよく考えられていて無駄がない。ただし、手際はよくない。そして失敗ばかり。最初はその感じを笑っていく映画なのかと思ってたけど、実はここがエリがオスカーに近いた理由の1つでもある。そして、多分おじさんが男性を狙うのも伏線なんだと思うけど、違うかな?もちろんエリはオスカーに惹かれているんだと思うけれど、それだけじゃないってところに、打算というにはもっと切羽詰まった、生きていくことや、性(さが)を感じた。勝手な解釈かもしれないけど…
オスカーは孤独な少年。離婚した両親は、彼らなりにオスカーを愛しているし、可愛がってもいる。でも、オスカーよりも自分を優先してしまうところがある。オスカーは繊細で、感受性の豊かなタイプ。だから、そういう両親の気持ちも、敏感に感じ取ってしまう。そして、その寂しさや悲しさを自分の中におさめてしまう。どうして父親は、たまに息子が遊びに来たときくらい、恋人に遠慮してほしいと言えないのか(怒)と思うけど、誰もが親に向いているわけではない。この父親の"恋人"も伏線なんだと思う。恋人だという描写はないけど、なんとなく分かるように撮っているのが上手い。孤独で"不思議なもの"に 興味のあるオスカーは、会った瞬間からエリに惹かれていく。オスカーはエリの正体を盗み見るけど、彼の気持ちは揺らがない。オスカーがもともとそういうタイプだったのかは分からないけど、子供の頃には憧れることはある。オカルト的な不思議な世界にも、もうひとつの事実についても。後者については、いろんな憧れ方があると思うけれど… でも、まさにあの瞬間に彼の運命は決まったのでしょう。きっと彼も人生の最期には、あの初老の男性のように幸福を感じながら逝くんだと思う。そういう運命を案じさせるラストがよかった。
キャストは誰一人分からなかった…(笑)大人も出てくるけど、あくまで脇役。そしてオスカー、もしくはエリがそれぞれ大人と一緒にいるシーンはあるけど、2人一緒にいる時に第三者が絡むことはほとんどなし。まぁ、当然と言えば当然だけど(笑)でも、それぞれが2人以外の人と関わる時は、たいてい陰欝な感じ。そして、たいてい辛くてやるせない。2人でいるシーンも決して明るかったり、楽しかったりするわけではないのだけど、2人は心や気持ちが通じ合っている感じは分かる。2人だけの独自の世界が出来上がる。それがいい。その世界が毒を含んでいるのもいい。主演の2人がよかった。オスカーは髪も眉毛もプラチナブロンドで、肌も抜けるように白い。おかっぱ頭の写真を見た時は、彼がエリなんだと思っていた。それくらい少女っぽい美しさ。でも、実際に動く彼は、完全な文系男子ではあるけど、やっぱり男の子なんだよね。その感じがよかった。少女っぽい美少年の… って感じではなくて、普通のちょっと不思議なモノに興味のある男の子が運命的な出会いをする。その相手がエリ。邦題では"200歳の少女"となっているけど、劇中では特に200歳であるとの記述はなかった気がするけれど… エリはヴァンパイアなので、永遠に13歳の姿。多分、演じているのは女の子だれど、いわゆるヴァンパイア=近寄りがたい美しさ、気高さというようなものは全くない。ホントに普通の子供。あ、もちろんかわいいのですが(笑) いつも孤独で、寂しくて、人を殺さなければならない運命を、受け入れきれもせず、抵抗できもせずという感じ。それがエリの"普通の子供の容姿"により、オスカーや初老の男性だけでなく、見ている側も守ってあげたいと思わせる。いつも自信がなさそうに悲しげ、でも一度ヴァンパイア・パワーのスイッチが入るとスゴイ殺傷能力を発揮する。でも、その後のエリの心細げな姿を見ると切なくて、許してあげたくなる。プールはやり過ぎだけど…(笑)とにかく、オスカーのカーレ・ヘーデブラント、エリのリーナ・リアンデションが演技とは思えないほどピッタリはまっている。彼らの不安や恐怖感が相乗効果で作品自体にも、不安感を与えている。このキャスティングは素晴らしい。
作品自体も映像も暗くて、静かなトーンで進む。特に言及はなかったけれど、カーがルービックキューブで遊んでいるので、1970~80年なのかな。なぜこの時代なのかは不明。原作がそうなのかな? スウェーデンは社会主義ではなかったと思うけど、冷戦時代のヨーロッパの暗く不安な感じを生む効果がある。ケータイやネットがないので、情報が広がりにくいので、エリが今まで生きて(?)これたのも納得。エリがなぜヴァンパイアになったのか特に説明はない。でも、エリは生きていくために、オスカーを選んだ。その感じが切なくて耽美。その切なさは北欧の感じと合っている。洗練され過ぎていないけれど、どこかスタイリッシュ。
その洗練され過ぎないスタイリッシュさは、作品全体に言えること。全体の雰囲気や映像がいい。そしてラスト! エリの全てを受け入れて、列車にのるオスカー。レトロな車両の座席に座り、窓の外を優雅に眺めるオスカー。足元に大きな荷物。そして… このラストが素晴らしい! ヴィスコンティの映画のように優雅で美しい。そしてデカダンス。今まで見た中で10本の指に入る美しさ。
エリの殺傷能力がすごいので、けっこうグロいシーンもあるけれど、これは映画館で見て欲しい。どっぷりその世界に浸って見た方がいいと思うので… いわゆるヴァンパイアものとは違うので、そちらを期待して行くと全然違うので注意!
