これも公開時見逃してしまったのでDVDにて鑑賞。
「性同一性障害のブリーは完全に女性になる最後の手術を一週間後に控えていた。そんな時、NYの警察から男性だった頃にもうけた息子の身元引受人になって欲しいという連絡が入るが・・・」という話。ハリウッドで俳優になりたいという息子トビーを連れてLAに車で向かうことになるこれはロードームービー。
ロードムービーというのは見ず知らず、もしくは既知の人物達が旅を通してお互いを理解していく過程を描くものが多い。時に反目したり助け合ったりしながら、お互い大切な相手となっていくというパターンが多い。家族なら絆を、友人なら友情、恋人なら愛情を深めたりする。この映画が面白いのはそれらの全てを兼ね備えていること。女性として現れたブリーはトビーにとっては年の離れた恋人とも母親とも言えるし、もとは男性なのだから男同士の友情とも言えるし、実は父親なので家族でもある。その辺りの心情の変化がとても巧みに描かれている。旅をしているのだから車内など密室の場面が多く、お互いが向き合う密な時間が多くなる。それぞれの人生が波乱に満ちていればいるほど、困難なら困難なほど、その向き合い方も困難になる。でも分かり合えた時その相手はかけがえのない存在になる。ブリーの抱えているものも重いけど、トビーの生い立ちも辛い。そしてトビーの生い立ちを辛くしてしまった責任の一端はブリーにある。お互いがお互いに抱く複雑な気持ちや心境の変化は、描き方自体はそんなに目新しくないけれどとても丁寧で分かりやすい。
ブリーもトビーも自分達は社会では異端者だと思っている。自分が異端だと思っている人は他人から認められたいと切望しつつも、他人に心を開けないところがあると思う。自分の生活に他人が関わってくることを嫌うところがあるのではないか。他人との関わりを煩わしいと思うのは面倒なのもあるけれど、人と関わってその人を好きになった後、拒絶されて傷つくのが怖いから。若いトビーはその辺りの感情をコントロールしきれない。時に反抗したり怒りをぶつけるのはブリーに心を開きつつあり、そして甘えているから。それをブリーも戸惑いながらも受け入れ、トビーを父としてなのか母としてなのか、とにかく親として愛していく。トビーを子として受けれて愛するということは、自らを認めることでもある。人は人に愛してもらえないことも辛いけれど、自分を愛せないことは最も辛く悲しいことだと思う。なかなか難しいけど・・・。
とにかくブリーが魅力的。きちんとした教養とマナーを身につけている。もちろん男性が女性として振舞う時によく見られるやや大袈裟な仕草も見受けられるけど、それは間違いなく狙い。時に堅苦しすぎるように見えたりもするけどそれもいい。ロードムービーらしく旅する風景がいい。特に自然が美しくてトビーとヒッチハイクの青年が泳ぐ湖が美しい。
トビー役のケヴィン・セガーズはリバー・フェニックスの再来と言われているらしいけど、繊細な感じが良かった。私的には好みのタイプの顔ではないけれど、孤独で悲しげな瞳や表情はとても良かったし、トビーの複雑な感情を上手く表現していた。途中、2人が助けてもらいブリーに好意を持つカルヴィン役のグレアム・グリーンも良かった。トビーは彼により父性的な愛情を知る。
そして何といってもブリー役のフェリシティー・ハフマンが素晴らしい。何しろ彼女は女優。でも、これが男性にしか見えない。正確には女性になりつつある男性だけど・・・。もちろん前述の女性がする女性らしい仕草ではなく、男性がする女性的な仕草とか、声を低めにしたりとかそういった技術的な面ももちろんだけど、ブリーが元は男性だったのだと納得させる演技がスゴイ。もちろん男性だった時の写真が出てきたり、本人もしくは家族が過去を語るシーンがあるけれど、しっかりとそれが彼女の過去なのだと納得できる。いろいろ体当たり的なシーンもあるけれど本当に素晴らしいのは、画面には描かれていない過去の部分をきちんと感じさせることだと思う。そして心は女性である男性としての葛藤も、父親にはなれない苦悩も、でもトビーを愛していることもしっかりと伝わった。
ロードムービーは自分探しの象徴。ブリーは家族と向き合い、いろいろな事から逃げていた自分と向き合い、自分を認めることが出来たのだと思う。ラストシーンのブリーの表情が穏やかで印象的だった。
いい映画だった。
『トランスアメリカ』Official site

ロードムービーというのは見ず知らず、もしくは既知の人物達が旅を通してお互いを理解していく過程を描くものが多い。時に反目したり助け合ったりしながら、お互い大切な相手となっていくというパターンが多い。家族なら絆を、友人なら友情、恋人なら愛情を深めたりする。この映画が面白いのはそれらの全てを兼ね備えていること。女性として現れたブリーはトビーにとっては年の離れた恋人とも母親とも言えるし、もとは男性なのだから男同士の友情とも言えるし、実は父親なので家族でもある。その辺りの心情の変化がとても巧みに描かれている。旅をしているのだから車内など密室の場面が多く、お互いが向き合う密な時間が多くなる。それぞれの人生が波乱に満ちていればいるほど、困難なら困難なほど、その向き合い方も困難になる。でも分かり合えた時その相手はかけがえのない存在になる。ブリーの抱えているものも重いけど、トビーの生い立ちも辛い。そしてトビーの生い立ちを辛くしてしまった責任の一端はブリーにある。お互いがお互いに抱く複雑な気持ちや心境の変化は、描き方自体はそんなに目新しくないけれどとても丁寧で分かりやすい。
ブリーもトビーも自分達は社会では異端者だと思っている。自分が異端だと思っている人は他人から認められたいと切望しつつも、他人に心を開けないところがあると思う。自分の生活に他人が関わってくることを嫌うところがあるのではないか。他人との関わりを煩わしいと思うのは面倒なのもあるけれど、人と関わってその人を好きになった後、拒絶されて傷つくのが怖いから。若いトビーはその辺りの感情をコントロールしきれない。時に反抗したり怒りをぶつけるのはブリーに心を開きつつあり、そして甘えているから。それをブリーも戸惑いながらも受け入れ、トビーを父としてなのか母としてなのか、とにかく親として愛していく。トビーを子として受けれて愛するということは、自らを認めることでもある。人は人に愛してもらえないことも辛いけれど、自分を愛せないことは最も辛く悲しいことだと思う。なかなか難しいけど・・・。
とにかくブリーが魅力的。きちんとした教養とマナーを身につけている。もちろん男性が女性として振舞う時によく見られるやや大袈裟な仕草も見受けられるけど、それは間違いなく狙い。時に堅苦しすぎるように見えたりもするけどそれもいい。ロードムービーらしく旅する風景がいい。特に自然が美しくてトビーとヒッチハイクの青年が泳ぐ湖が美しい。
トビー役のケヴィン・セガーズはリバー・フェニックスの再来と言われているらしいけど、繊細な感じが良かった。私的には好みのタイプの顔ではないけれど、孤独で悲しげな瞳や表情はとても良かったし、トビーの複雑な感情を上手く表現していた。途中、2人が助けてもらいブリーに好意を持つカルヴィン役のグレアム・グリーンも良かった。トビーは彼により父性的な愛情を知る。
そして何といってもブリー役のフェリシティー・ハフマンが素晴らしい。何しろ彼女は女優。でも、これが男性にしか見えない。正確には女性になりつつある男性だけど・・・。もちろん前述の女性がする女性らしい仕草ではなく、男性がする女性的な仕草とか、声を低めにしたりとかそういった技術的な面ももちろんだけど、ブリーが元は男性だったのだと納得させる演技がスゴイ。もちろん男性だった時の写真が出てきたり、本人もしくは家族が過去を語るシーンがあるけれど、しっかりとそれが彼女の過去なのだと納得できる。いろいろ体当たり的なシーンもあるけれど本当に素晴らしいのは、画面には描かれていない過去の部分をきちんと感じさせることだと思う。そして心は女性である男性としての葛藤も、父親にはなれない苦悩も、でもトビーを愛していることもしっかりと伝わった。
ロードムービーは自分探しの象徴。ブリーは家族と向き合い、いろいろな事から逃げていた自分と向き合い、自分を認めることが出来たのだと思う。ラストシーンのブリーの表情が穏やかで印象的だった。
いい映画だった。
