・*・ etoile ・*・

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【cinema / DVD】『トランスアメリカ』

2007-05-27 22:56:25 | cinema / DVD
これも公開時見逃してしまったのでDVDにて鑑賞。

「性同一性障害のブリーは完全に女性になる最後の手術を一週間後に控えていた。そんな時、NYの警察から男性だった頃にもうけた息子の身元引受人になって欲しいという連絡が入るが・・・」という話。ハリウッドで俳優になりたいという息子トビーを連れてLAに車で向かうことになるこれはロードームービー。

ロードムービーというのは見ず知らず、もしくは既知の人物達が旅を通してお互いを理解していく過程を描くものが多い。時に反目したり助け合ったりしながら、お互い大切な相手となっていくというパターンが多い。家族なら絆を、友人なら友情、恋人なら愛情を深めたりする。この映画が面白いのはそれらの全てを兼ね備えていること。女性として現れたブリーはトビーにとっては年の離れた恋人とも母親とも言えるし、もとは男性なのだから男同士の友情とも言えるし、実は父親なので家族でもある。その辺りの心情の変化がとても巧みに描かれている。旅をしているのだから車内など密室の場面が多く、お互いが向き合う密な時間が多くなる。それぞれの人生が波乱に満ちていればいるほど、困難なら困難なほど、その向き合い方も困難になる。でも分かり合えた時その相手はかけがえのない存在になる。ブリーの抱えているものも重いけど、トビーの生い立ちも辛い。そしてトビーの生い立ちを辛くしてしまった責任の一端はブリーにある。お互いがお互いに抱く複雑な気持ちや心境の変化は、描き方自体はそんなに目新しくないけれどとても丁寧で分かりやすい。

ブリーもトビーも自分達は社会では異端者だと思っている。自分が異端だと思っている人は他人から認められたいと切望しつつも、他人に心を開けないところがあると思う。自分の生活に他人が関わってくることを嫌うところがあるのではないか。他人との関わりを煩わしいと思うのは面倒なのもあるけれど、人と関わってその人を好きになった後、拒絶されて傷つくのが怖いから。若いトビーはその辺りの感情をコントロールしきれない。時に反抗したり怒りをぶつけるのはブリーに心を開きつつあり、そして甘えているから。それをブリーも戸惑いながらも受け入れ、トビーを父としてなのか母としてなのか、とにかく親として愛していく。トビーを子として受けれて愛するということは、自らを認めることでもある。人は人に愛してもらえないことも辛いけれど、自分を愛せないことは最も辛く悲しいことだと思う。なかなか難しいけど・・・。

とにかくブリーが魅力的。きちんとした教養とマナーを身につけている。もちろん男性が女性として振舞う時によく見られるやや大袈裟な仕草も見受けられるけど、それは間違いなく狙い。時に堅苦しすぎるように見えたりもするけどそれもいい。ロードムービーらしく旅する風景がいい。特に自然が美しくてトビーとヒッチハイクの青年が泳ぐ湖が美しい。

トビー役のケヴィン・セガーズはリバー・フェニックスの再来と言われているらしいけど、繊細な感じが良かった。私的には好みのタイプの顔ではないけれど、孤独で悲しげな瞳や表情はとても良かったし、トビーの複雑な感情を上手く表現していた。途中、2人が助けてもらいブリーに好意を持つカルヴィン役のグレアム・グリーンも良かった。トビーは彼により父性的な愛情を知る。

そして何といってもブリー役のフェリシティー・ハフマンが素晴らしい。何しろ彼女は女優。でも、これが男性にしか見えない。正確には女性になりつつある男性だけど・・・。もちろん前述の女性がする女性らしい仕草ではなく、男性がする女性的な仕草とか、声を低めにしたりとかそういった技術的な面ももちろんだけど、ブリーが元は男性だったのだと納得させる演技がスゴイ。もちろん男性だった時の写真が出てきたり、本人もしくは家族が過去を語るシーンがあるけれど、しっかりとそれが彼女の過去なのだと納得できる。いろいろ体当たり的なシーンもあるけれど本当に素晴らしいのは、画面には描かれていない過去の部分をきちんと感じさせることだと思う。そして心は女性である男性としての葛藤も、父親にはなれない苦悩も、でもトビーを愛していることもしっかりと伝わった。

ロードムービーは自分探しの象徴。ブリーは家族と向き合い、いろいろな事から逃げていた自分と向き合い、自分を認めることが出来たのだと思う。ラストシーンのブリーの表情が穏やかで印象的だった。

いい映画だった。


『トランスアメリカ』Official site

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【cinema】『バベル』

2007-05-13 02:57:26 | cinema
'07.05.09 『バベル』@日比谷スカラ座

「モロッコを旅行中のアメリカ人夫婦。バスで移動中、ヤギ飼の少年兄弟が戯れに撃った銃弾が妻に当たってしまう。銃の持ち主の娘で聾唖の女子高生チエコは孤独をつのらせていた・・・」という話で、アメリカ人夫婦の2人の子供とメキシコ人ベビーシッターのアメリアも加えて、夫婦・兄弟・チエコ・アメリアの4つのエピソードが同時、もしくは時間を少しずらして描かれる。でも混乱はしない。非常にしっかりと考えて描かれているので良く分かる。そもそも、事件自体を描きたいわけではないし。

「バベル」というのは旧約聖書に出てくるバベルの塔のあった都市。ノアの洪水の後、人々は天に向かって塔を築いた。それに怒った神は人間の言葉を分けてしまう。結果、人々は各地に散らばって住むことになり、未だに言葉が分かたれたままである。言葉が分からないということはコンタクトできないということ。映画の主題もそこにある。

登場人物たちは全員心に傷を持ち、人とコンタクトを取ることに対して臆病になっている。でも、やっぱり人と関わりたい、分かって欲しいと思う。でも上手くいかない。彼らは何かしらの形でコンタクトを取った相手に拒絶される。話を聞いてもらえない。ある者は言葉の違いによって、ある者は言葉自体が聞こえない。ある者は聞くことすら拒絶される。言葉を聞いてもらえない、理解されないのは辛い。それは心が通じないということだから。心が通じていないと思ってしまうと上手く話せなくなる。素直になれなくなる。心が拒絶されるのは一番辛い。

いわゆる悪人は出てこない。アメリアが「悪いことはしていない。愚かなことをしただけ」と言うけど、正にその通り。みな愚かなことをする。メインキャストだけでなく、モロッコの警察や同じツアーの客など正しい事をしていると思っている者ですら愚かな事をしている。それはコンタクトが成立していないから。ブラピとガイドとも心が通じたかに見えたが、彼の感謝の気持ちはお金を払うということ。それも拒否される。でも皮肉な描き方ではない。ブラピにしてみればそれしかできない、ガイドにしてみれば当然のことをしたまで。

アメリカ人夫婦はブラッド・ピットとケイト・ブランシェット。ケイト・ブランシェットは相変わらず上手い。離れかけた心を重症を負ったことにより再び夫に寄り添わせていく感じを、ほぼ身動きのできない状況で見事に演じた。ブラピは普通。アメリア役のアドリアナ・バラッザが良かった。アメリアは愚かだったけれども、彼女を責める気にはならない。荒野を彷徨う姿は素晴らしい。お調子者でキレやすい現代っ子サンチャゴ役のガエル・ガルシア・ベルナルも良かった。ガエルは好き。

ヤギ飼いの兄弟達のエピソードも良かった。何もない土地で父親に命じられるままヤギを放牧している。退屈で刺激のない生活。図らずも狙撃犯になってしまったけれど悪人ではない。父親役の俳優は良かった。彼も愚かだったけれど悪い人物ではない。生活に追われ問題が見えていなかったけれど家族を愛している。でも・・・。少年達の演技は正直上手くはない。でも弟の決死の覚悟には涙が止まらなかった。

注目の菊地凛子。良かったと思う。彼女のエピソードが実は一番辛い。彼女のキャラクターは感情移入しずらく、嫌悪感を抱く人もいるかもしれない。でも、彼女の痛いほどの孤独はとても伝わる。母親の死が心の傷になっていて、それ以来人とコンタクトを取るのが極端に苦手になっている。実の父親に対しても素直になれない。分かって欲しい、愛して欲しいと思えば思うほど、拒絶されることの恐怖が大きくなる。それで逆に敏感になり過ぎてしまい、自分を傷つけることになる。耳のことに対して相手は戸惑っただけかもしれない。でも彼女は「バケモノ扱いされた」と感じてしまう。理解できない人もいるだろうけど、私には気持ちが良く分かった。誰かに決定的に拒絶された経験のある者にはとっても良く分かる。彼女の行動は常軌を逸していく。それは心の叫び。「誰か助けて欲しい」という気持ちが痛いほど伝わる。でも、相手には受け止めきれない。



真宮という刑事の前に裸身を晒す。あまりの孤独に自分を必要として貰うには体を差し出すしかないと思っている。やせ過ぎの体は魅力的ではない。それが逆に痛々しい。真宮役の二階堂智が良いのでこのシーンはホントに心が痛い。ほんの数分会っただけの真宮にはチエコを受け止めることは無理。でも突き放すことも出来ない。でも優しくしては罪だ。優しくして欲しいけど、救ってくれないなら優しくしないで欲しいというのは矛盾しているようだけど真理だと思う。チエコの心にそれがきちんと落ちてるかは分からないけど。そして真宮はチエコの父とコンタクトを取り拒絶され傷を負うことになる。この辺りはホントに辛くて、彼らに感情移入したとかいうことではなく、自分の記憶や心を揺さぶられて気付いたら泣いていた。

アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥの作品は『21g』もそうだったけど、人間の本質的な罪や傷をえぐる。見ていていい気持ちはしないし、見終わった後もずっしり重くて感動どころではない。でも心を揺さぶられる。映像も美しい。東京もキレイに撮りすぎることもなく、作りすぎることもないのが良かった。上映前にメッセージが出るけど途中画面がチカチカするので気持ち悪くなる人が出たらしい。それほど映像にこだわったみたいだけど、チエコの父のハンティング写真はちょっと・・・(笑)

手放しでオススメという映画ではない。でも、数ヶ月前心に傷を負った私はこの映画を見たことにより、整理がつかなかった気持ちに説明がついた。心が通じなかったことが一番辛かったのだ。「届け心」というのはめずらしくいいキャッチコピーだと思う。ラストで少し救われた。その画が美しい。


『バベル』official site

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【cinema】『スパイダーマン3』

2007-05-06 02:02:56 | cinema
'07.05.04 『スパイダーマン3』@TOHOシネマズ olinas

待望のスパイダーマンシリーズ最新作! スパイダーマン大好き。サム・ライミの自分が撮りたければ多少の無理も押し通す感じが最高。『スパイダーマン2』ではNYのど真ん中で核融合実験とか、スパイディーが体を張って止めた電車の終着点部分とか。やりたい放題(笑) でも、そのバカさ加減が大好き。そもそもスパイダーマンはNYの犯罪しか解決しないし、最終的にはMJを助けることのみだし(笑)

「今やNYのヒーローになったスパイダーマン。恋人MJとの仲も順調かに見えたが・・・」という話。とにかく楽しかった。タイトルバックが毎回凝ってて大好き。ダニー・エルフマンの曲もすごくいいし、スパイディーのコスチュームカラーの赤地にクモの巣をデザインした画もすごくいい。そこに時にアメコミタッチの絵を交えて前2作のシーンをカット割りで見せる。本編では人物相関図的な説明はほとんどないので、前2作を未見だと厳しいけど、見たことがあるならほぼ思い出せる。そもそも、そんなに複雑な話じゃないし(笑) 大ファンの私としてはこのタイトルバックからニヤニヤ。そのこだわりがホント好き。

もう大好きだから逆に書くべきこともまとまらないし、書こうとするとネタバレばかりになってしまう気がする・・・。とにかくこのシリーズの良さは、主人公が普通よりむしろややダサめな青年なこと。優等生でいい子だけどオタク。好きな女の子には何も言えず見つめるだけ。いわゆるヒーローとはかけ離れた人物なのがいい。スーパーヒーローとしてなら簡単にできることが、自分自身としては上手くできないみたいな感じは、きっと誰もが共感できるんじゃないかと思う。誰もが自分に自信があるわけでもないし、人生は誰にとっても大変なものだ・・・。そしてきっと多少なりとも大変でない人生はつまらないのだとも思う。何スパイダーマンを見て熱くなってるんだと思うけど(笑) でも、まさしく映画だけでなく『スパイダーマン』の魅力は苦悩する主人公や登場人物達にあると思う。ヒーローをヒーローとしてやっているのではなくて迷いながらやっている感じ。実生活では冴えないって設定はよくあるけど、ピーター・パーカーほど冴えないのは珍しい。他の冴えないヒーローはあえて冴えなくしてたりして、正体を知らずにバカにしている他の出演者に対して、見てる側がバカにする視点を持たせて笑いを取る場合が多い。例えば『水戸●門』とか『浅見●彦シリーズ』とか。それも面白いけど、この作品はそうしないのが持ち味。スパイディーとピーターの間にそんなに違和感がない。それがいい。

MJも、ハリーも、メイおばさんも登場人物たちは常に悩んだり、寂しかったり、迷ったりしている。その等身大の感じがいい。おばさん世代にも悩みはある。もちろんヒーローモノなのだから悪役と戦ったり、人々を危機から救ったりするシーンが見せ場に決まっているけど、本当に描きたいのはピーターや登場人物達の成長なのではないかと思う。前2作ではそこがしっかり描けていた。前作まではスパイダーマンである自分を受け入れるところまでだったけど、本作はその後が描かれる。少々うかれ気味のところから始まる。スパイディーは今ではNYの人気者で、私生活ではMJと順調。そのうかれ具合も分かりやすい(笑) ネタバレになるので詳しく書けないけど今回ピーターは復讐にとらわれ自分を見失う。それは今回の敵であるベノムによるところもあるのだけど、その見失いっぷりが笑える。JAZZ BARのシーンなんて完全にやり過ぎだから! あれでMJがピーターを嫌いにならないんだからMJは本当にピーターを愛しているんだな・・・。まぁ映画ですけど(笑)

そして、何といっても悪役がいい。今回はベノムとサンドマンとニューゴブリン(ハリー)(←反転)。まずデザインがいい。今回はサンドマンがよかったけど、デザインのバカさではドック・オクを抜けないかな。あれは見事なくらいバカだった。ドック・オクは大好き。アルフレッド・モリーナも含めて大好き。そして何より、悪役がいいのは哀しい人であること。ベノムにはあんまり同情できなかったけど、サンドマンとニューゴブリンは哀しい。もちろん悪役なので悪に堕ちた理由も身勝手だったりするのだけど・・・。サンドマンのラストの表情がいい。そしてニューゴブリン(涙) となりの席の初老の紳士は泣いておりました。伏線となるセリフがあったのもまた哀しい。

CGの質はますます上がりスピード感がスゴイ! お得意の車飛ばし、空中戦などが目白押し。ただ、狙いだと思うけど画面が揺れる。混んでて前の方の席しか取れなかったので画面が近いし、揺れるしかなり酔った。キャラデザインとかもろもろバカでホントいい。サンドマンはデカすぎだろう(笑) あと、ピーターの部屋とか、MJの部屋のデザインとか街並みとかもどこかレトロな感じがするのもいい。

トビー・マグワイアは当たり役。頑張れば頑張るほど不細工になるのもツボ。もちろん褒めている。MJが不細工なのもよし。今回かなり老けている。でも、よし。MJは隣りのかわい子ちゃんだから。今回ハリーが良かった。繊細で。サンドマンのトーマス・ヘイデン・チャーチもいい。そしてメイおばさんのローズマリー・ハリスがいい。品が良くて優しくて、そして正しい。

サム・ライミのオタクぶりが満載。JAZZ BARのシーンとかもミュージカルを撮りたかったんだろうし。そういう遊びがたくさんある。悪役が複数だったのでスピード感はあったけど、登場人物達の内面の掘り下げは前作の方が良かったかなとは思う。ただ、今回のテーマ「許し」はとっても心に響いた。許すということは相手だけでなく自分も許すということなのだと納得。


『スパイダーマン3』Official site
『スパイダーマン3』公式blog

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【cinema / DVD】『エトワール』

2007-05-06 00:50:21 | cinema / DVD
『エトワール』をDVDにて鑑賞。

300年の歴史を誇るパリ・オペラ座バレエ団に3ヶ月密着したドキュメンタリー。世界最高峰といわれるこのバレエ団は5つの階級に分けられている。タイトルのエトワール(etoile)は星を意味し、最高位の踊り手たちを言う。ちなみに、このblogのタイトルetoileはバレリーナを描いたドガの有名な絵画「エトワール」から取っている。ちと横道にそれましたが・・・。下からカドリーユ、コリフェ、スジェ、プルミエ・ダンスーズそしてエトワール。エトワールのみ任命制で、月収は35,000フラン('99年当時) カドリーユの基本給は13,000フランとのこと。

趣味で週1回美容バレエを習っている。オペラ座のダンサー達とは比べようもないけれど、レッスンの大変さや踊る楽しさは少しは分かる。こんな私でさえ2~3週間が開くと体がきつい。元エトワールで現在はバレエ団講師の女性は、引退してからレッスンを全て止めてしまった。その結果、筋肉は緩み2年間で2cm身長が縮んだそう。体調も悪くなったらしい。もちろん体を酷使する職業なのでケガはつきもの。腰痛などをかかえるダンサーは多い。でも、鍛え上げられた肉体は毎日の鍛錬を止めると、それはそれで拒否反応を示すらしい。ビックリ。

小学生くらいの頃から付属のバレエ学校で学んだ人が多い。その年齢から周りの団員は仲間でありながらライバル。エトワールであるということの重圧と孤独は計り知れない。中には団員と親友同士だというダンサーもいるけど、大方はやはり孤独な職業だと答える。夜遊びなどはありえないストイックな生活。肉体的にも精神的にも強くなくてはやっていけない。ある人は孤独の中で自分を見つめ、ある人は家庭を築き子供を持つことで成長したと語る。それもまた興味深い。いずれにしても何かに全人生をかけて生きている人は美しい。

バレエ団の定年は女性が40歳で男性が45歳。年金が出るみたいだけどなかなか厳しい。エトワールのエリザベット・プラテルはバレエ学校を含めると在籍25年。定年退職を迎える。まだ若く美しい彼女が定年で引退するなんて信じられないけど、26歳でエトワールのオーレリー・デュポンはケガをしても15歳の時とは違うと言う。ケガの直りも遅いし、腰もこわばってくると語る。26歳で・・・。でも、50歳を超えて現役の森下洋子や70を過ぎても踊っていた(もちろん全幕ではないけど)マイヤ・プリセツカヤもいるけど・・・。オペラ座のエトワールとしては限界ということだろう。

ダンサー達はまるで友人に語るかのように時に楽しげに、時に悩みを打ち明けるかのように包み隠さず語る。カメラもエトワールだけでなくカドリーユにも向けられる。バレエシーンも美しい。バレエを習っている身としては練習風景がたくさん見れたのはうれしい。ダンサー達の姿をモノクロ写真のように静止画にするのもドガの絵画のように美しい。

ドキュメンタリーとしてすばらしいので、特にバレエが好きでなくても見ごたえがあると思う。バレエ好きなら必見!


『エトワール』official site

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【cinema / DVD】『キンキーブーツ』

2007-05-05 23:02:11 | cinema / DVD
『キンキーブーツ』をDVDにて鑑賞。

これは公開時もちょっと気になってた。キンキー(変態)ブーツっていうのは、膝上まであるロングブーツ。派手な色やデザインとピンヒールで、よくドラッグクィーンや夜のお仕事の女性がはいているアレ。そして、これは実話。テレビのドキュメンタリー番組を見た関係者が映画化したもの。実際の工場は縮小されたものの今もキンキーブーツを作っているそう。

「婚約者に引きずられるようにしてロンドンで暮らし始めたチャーリーは、父の急死により傾きかけた靴工場を継ぐことになるが・・・」という話。日本でもそうだけどイギリスでも昔ながらの工場などは経営が苦しくて次々閉鎖されているらしい。『フルモンティ』や『リトルダンサー』でも、いわゆる労働者階級の生活の厳しさが描かれていた。この映画の主人公チャーリーは経営者の立場なので労働者ではないけれど、倒産しかけた靴工場の経営者では苦しさは同じ。むしろ彼らをリストラしなくてはならないという辛い立場。みんながみな非情になれるわけではない。

会社存続のため奔走する中、ドラッグ・クィーンのローラと出会う。ローラは体格のいい黒人男性。彼女はきつい女性用の靴をムリして履いていた。リストラ候補だった女性社員ローレンとの会話で一念発起したチャーリーは、ローラの靴を思い出し、紳士用の靴から一転キンキーブーツを作ることになる。この辺りはコメディータッチで描かれていて、つまらなそうな硬い表情のチャーリーが空回りしつつも頑張る姿がおかしい。チャーリー役のジョエル・エドガートンが上手く演じている。

チャーリーは父親と婚約者に頭が上がらない。特に何かしたいことがあるわけでもなく、流されるように生きてきた。そんな彼が社長になり、部下や工場の事を考えて夢中になっていく。そんな感じはこの手の映画にはありがちな気はするけど、やっぱり引き込まれる。主人公のモデルになった人物が実際はどんな人なのかは知らないけど、普通に呑気に暮らしていても、何かしら責任や守るべきものを持った時、人は空回りするくらい頑張るハズだ。普通の人であれば・・・。そして、そういう事から逃げていては自分も大きくなれない。

ローラ役のキウェテル・イジョフォーが良かった。K1の選手なんじゃというくらいの体格なのに、派手なメイクと衣装に身を包み、しなを作りながら野太い声で歌う姿はおかしい。でも、実はとっても繊細で傷つきやすい感じも良かった。人は見たいことしか見ないので、がたいの良い黒人のドラッグ・クィーンには何を言っても平気だろうと思っているけど、実は誰よりも繊細で傷つきやすい場合だってあるのだ。チャーリーにもそんな部分があるので共感するところがあったのだろう。決して工場のためだけではなかったはず。

プライス社の工場はトリッカーズ社の実際の工場を使っている。これが古くて機械的過ぎずとっても良い。昔ながらの職人達が良く似合って、少し古臭いけどきちんとした紳士靴が出来上がっていく感じはすごく良い。その同じ工場でド派手なキンキーブーツが作られる。映画化したいと思ったのは、昔ながらの渋い職人が生真面目にキンキーブーツを作っている姿がとても良かったからだったそう。靴に対して彼はどこまでも真摯な態度だったと。そういう職人さんがたくさん出てくる。

かっこはいいけど心のこもらない使い捨ての靴と、古臭いけど一生モノのプライス社の靴。何でもある大都会ロンドンと何もないノーザンプトンの街。垢抜けていて都会的な婚約者と少し野暮ったいけど温かいローレル。いろんな対比がある。でも、良くある古き良きもや、田舎万歳な感じでもないのが良かった。

感動! って感じではないけれど、ほのぼのとしたいい感じの映画だった。


『キンキーブーツ』Official site

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