'09.05.13 「国宝 阿修羅展」@東京国立博物館 平成館
見たかった! でも、土日は混んでるだろうし、遅くまで開いてる金曜日もなかなか行けず・・・ 人間ドックの日に行けばいいんだと気付いたわけです(笑) しかし・・・。いつもチケット買ってるJR上野駅構内の窓口。ここに既に列ができてる。あまりないことなのでビックリ。しかも、50分待ちとのこと。まぁ、時間あるし、金曜の夜に来て入場規制では困るしってことで行ってきた。けっこう暑かったけど、お水のサービスや日傘の貸し出しもあって親切。メールしたり本を読んだりしながら待っていたけど、実際は50分まで待っていないように思う。まぁ、50分待ってたとしても絶対に見るべきというくらい素晴らしかったので全然OK。これはもう感動!
4つの章に分かれていたけど、最後の第4章は現在再建中の中金堂をバーチャルで再現したものと、今回のスーパースター阿修羅の映像展示なので、実際の展示物があるのは第3章まで。第1章の鎮壇具以外の第2~3章は仏像のみの展示。このいさぎよい展示が良かった。そして仏像が素晴らしい! もう本当にかっこいい。
【第1章:興福寺創建と中金堂鎮壇具】
入ってすぐ銀鋺や水晶念珠などの小さな展示品が並ぶ。みんなもあまり要領がつかめなかったため、ここが阿修羅の次に混む結果となってしまった(笑) 鎮壇具っていうのは地鎮法などの法会で堂塔伽藍の地下に埋葬されたもの。なので1つ1つは小さい。銀鋺は直径30cmくらいのものから10cmもないものまであるけど、驚くのはその形の正確さ。ろくろを使って作られたそうで、ろくろの跡が残っている。そして魚々子(小円文)という彫金の技法で細かい模様が彫られている。これが細かい! 細かすぎて見えないくらい。8世紀の作ということだから700年代。1300年くらい経つことになる。そんな昔に作られたものを、ほぼそのままの形で見ることができるなんてスゴイ! 興福寺はそもそも藤原鎌足の息子、不比等が建立したお寺。ここでは不比等が納めた鎮壇具を見ることができる。日本初のお金、和同開珎も納められている。708年に日本で初めて銅が採掘され、鋳造された銅銭。銅なので緑青が・・・。この年、元号も和同とされており、平和な時代だったのだそう。和同開珎は150枚ほど出土しているらしい。たしか、かなり昔不比等を埋葬した古墳が発見された気がする。ニュースで見て不比等ってホントにいたんだなぁと思った気がする(笑)
ここのもう一つの見ものは、水晶、瑪瑙、琥珀、そしてガラスなどの玉。丸だけじゃなく碁石形や面取形と呼ばれるいわゆる飴ちゃん形に加工されたもの。これがほんとにキレイ。機械など無かった時代、道具は使ったにせよ、手で加工したものとは思えないほど、いびつ感もなく粒や形が揃っている。特にガラスは黄緑色、青緑色、褐色の色がついている。西洋のステンドグラスの彩色ガラスも、不純物の混ざり具合などが作用しているため、現代では出せない色があるそうだけど、この色はどうなんだろう? とにかく1300年前の人々がガラスに色をつけ、碁石形に成形したのかと思うと愛しくなる。そして驚いたのが「水晶蓋付筒」 直径(?)1.5cm、高さ5cmくらいの六角形の水晶で作られた筒。これがスゴイ! よく見れば正六角形にはなっていないかもしれないけれど、こんな小さな筒を・・・。 しかも蓋つき。たしかに現代にはいろいろ便利なツールがあるけど、昔から人間は必要なものであれば、作り出して来たんだなと思う。そして、たとえ用途は日常的なものであっても、その中に美を表現して来たのだろう。
【第2章:国宝阿修羅とその世界】
タイトルどおり今回の目玉、仏像界のアイドル阿修羅像はこの章に展示されている。そもそも阿修羅は八部衆という仏教を守護する「天」で、もとはインドの神を仏教に取り入れ、守護神となった神の1人(?)なのだそう。今回はその八部衆像のうち6体を展示、2体をパネル展示している。
第2章最初の展示物は、藤原不比等の妻で、光明皇后の母である橘三千代の念持仏と言われている「阿弥陀三尊像及び厨子」 これは素晴らしい。螺旋状に伸びた蓮の上に坐す阿弥陀如来。両脇に立たれる勢至菩薩と観音菩薩。三尊はむしろシンプルに作られている。衣の表現や装身具などは美しくはあるけれど、華美ではない。如来は悟りを啓いたお姿なので、そもそも装身具は無いけれど、人々を救うため悟りを啓かずとどまっておられる菩薩は、装身具をつけておられる。でも、表現自体はシンプル。だけど、下に敷かれた蓮池、光背、後屏の装飾がスゴイ! 阿弥陀如来の頭に蓮の花が咲いたように見える光背の透かし彫りが細かい。後屏の蓮の上に坐すインド風の人物(?)や、化仏などの造形が素晴らしい! 花など植物のモチーフもどこかインドを思わせる。この贅沢な後屏がシンプルでやや無骨に見える三尊をより引き立てている。それが三尊を身近なものとしているように思う。
次の展示は「華原磬」 これは法事の際に使用する仏具。この装飾がスゴイ! 獅子の台座の上に、円形の鐘、両脇から4匹の龍が背中合わせに鐘を囲む。もちろん、この時代本物の獅子=ライオンを見たことはないわけで、この獅子は伝説上の動物。鬣はあるけど何か犬っぽい(笑) 円形の鐘の装飾もスゴイけれど、龍のうろこの細かさにビックリ! これはホント素晴らしい。仏が説法している時に波羅門が打った金鼓の音は、人々を悟りに導くのだそうで、「華原磬」の撥を持つ波羅門の像も展示されている。これはちとキモ・・・。イヤフォンガイドでは「華原磬」の音色を聴くことができる。てっきり銅鑼のような音がするのかと思っていたら、思いのほか高く美しい音色にビックリ。涼やかでキレイな音。ちなみに音声ガイドのナレーションは黒木瞳。落ち着いていて、発音がきれいで聞きやすかった。
次の展示会場に移ると、八部衆像と十大弟子像が向き合って展示されている。これらと前出の「華原磬」は橘三千代の一周忌法要の為作られたそうで、特に八部衆と十大弟子は1年で製作されたのだそう。脱活乾漆造という、粘土で作った像に、麻布を漆で何度も塗り重ねていき、乾いたら背中を開き中の粘土を取り出すという手法で作られている。だから中は空洞。手間がかかる上に、高価な漆を大量に使用することから、平安時代以降は作られなくなってしまったのだそう。
十大弟子は釈迦に随った十人の高弟のことで、それぞれ優れた能力があったのだそう。興福寺に現存するのは6体。現在はそれぞれ尊名がついているけれど、造られた当初の尊名については不明なのだそう。若いお顔や年老いたお顔、苦悩の表情を浮かべるお顔や、それを隠しておられるのか穏やかなお顔、さまざまなお姿が表現されている。衣もシンプルではあるけれど、当初は鮮やかに彩色されていたであろうものから、肩から衣を巻いただけのようなものまでさまざま。釈迦の代わりに説法したと言われる「舎利弗立像」はほっぺたスベスベでいいお顔。「目犍連立像」は、かなり昔あさげのCMに出演していた柳家小さん師匠に似ておられる(笑) なんて書くのは不遜なのかな? でも、誰かに似ていると思うと親しみがわいたりする。
十大弟子よりもどちらかといえば八部衆の方が好み。少年の相で表現されることが多いらしく、戦いの神阿修羅以外は鎧を身に着けておられる。もとはインドの神様だけど、中国経由で伝わったらしく、鎧は中国っぽい気がする。興福寺では阿修羅、迦楼羅、緊那羅、乾闥婆以外の尊名は明らかではないらしい。「乾闥婆立像」は音楽神。獅子の冠が頭を噛んでいる! 「緊那羅立像」は額に短い角がある。朝青龍似(笑) 「沙羯羅立像」は幼児の相で表されている。かわいい。「迦楼羅立像」は一目で分かる。お顔が鳥なので(笑) 蛇を食べる霊鳥だそうで、これはガルーダ。ガルーダ・インドネシア航空のガルーダ(笑) 目頭の輪郭を角ばって表現しているのは、怒りを表す仏像に用いられる手法なのだそう。目が印象的なのは瞳に別の素材を使っているからなのだとか。鶏冠がいい!
この会場を出て、渡り廊下の様なところを抜けると、バルコニー状になった場所に出る。一段低くなった会場の中央に「阿修羅立像」が立ち、その周りを人々が一周して見るという展示。一応、入場規制しているけれど、基本的にみんな動かないので激混み。多分、じっくり見たい人はバルコニーから見て欲しいって事なんだろうと思うけれど、実際自分が中に入ってみると分かるんだけど、ぎゅうぎゅう詰めになってしまって動くに動けない。一応、ライヴで鍛えた割り込まれた感を人に与えずに、スルリと前に行くという手法で最前をゲット。しかし辛い。完全にモッシュ状態。おばさまが人数と時間を区切って入替え制にすればいいとおっしゃっていたけど、正におっしゃるとおり! もう少し考えて欲しかったかも。トータル鑑賞時間としては結構見たけれど、ぎゅうぎゅう押されて気分的には全くゆったり鑑賞できず、見た気がしない(涙)
阿修羅(アーシュラ)はインドの戦いの神。常に怒り、帝釈天(インドラ)に歯向かったため、阿修羅道を彷徨っているのだとか。歯向かったのは、娘を帝釈天に奪われたからだと言われているそうで、3つの顔と6本の腕を持ち、怒りを表す赤い顔で表現される。興福寺の阿修羅は何故か少年の相で、穏やかなお顔をしている。これは釈迦の説法に耳を傾けるうち、心穏やかになったことを現しているのではないかとの事。他の八部衆と違い鎧は身に着けておらず、普段着のような質素なお姿。足元も板金剛と呼ばれる、裏に麻の代わりに板を張った草履を履かれている。戦いの神にしてはそぐわないお姿だけれど、苦悩の末釈迦の説法に出会い心穏やかになったので、鎧などの装身具は必要なくなったということを表現しているのかなと思う。
いいお顔をされている。正面は厳しいお顔。眉根を寄せて目元も涙袋をたたえ、瞳が潤んで見える。固く結んだ口元が印象的。ホントに美しい。左は下唇を噛み締めて悔しさを表しているよう。このお顔が1番人間ぽいかもしれない。右のお顔も眉をひそめておられるけれど、厳しさは無くむしろ戸惑っておられるよう。少々椎名桔平似。悔しさや戸惑いを抱えながら、正面を向いておられるのだろう。そう考えると涙目なのも分かる気がする。2本の腕は胸の前でゆるく合わせていらっしゃる。2本の腕は何かを抱こうとしているかのよう。ちょっとバレエのポーズに似ている。そして残りの2本は天を支えているかのような形。その腕は細く華奢。全体的にほっそりと華奢で、少年の相をされていることが、内面の苦悩をより際立たせる。やっぱりこれは素晴らしい! "天平の美少年"にお会いできてホントに幸せ! 普段モッシュ・ピットには近づかないけど、頑張って最前を取ったかいがあった!
【第3章:中金堂再建と仏像】
この章はホントに素晴らしい! いつもだったら今回のお目当て「阿修羅立像」の感想を特別扱いで最後に書いているところだけど、今回私の心を捉えたのはこの章だった。なので結果順番どおりの記述となった。まぁ、別にどうでもいいことだけど(笑)
中金堂は計7回焼失しているそうで、享保2年(1717年)の焼失以後、再建はされず、仮金堂が建てられ現在に至っているのだそう。現在2017年の完成を目指し、再建計画が進んでいるそうで、今回この章で展示されている仏像は完成した中金堂に納められるのだそう。
まずは運慶の父、康慶作の四天王像。これはスゴイ! 今回一番心打たれたのは実はこの四天王像。カッコイイ! 何という躍動感。何という迫力! 四天王は憤怒の表情をされている。康慶の四天王も怒りを湛えているけれど、実は表情自体はそんなに厳しくない。でも、中国っぽい鎧を身に着けた下の隆々たる筋肉も感じられる見事な体のラインの表現と、それぞれが踏みつける邪鬼の表情が素晴らしく、それが四天王の迫力と躍動感を生んでいるように思う。
四天王は四方を守る護法神で、持国天が東、増長天が南、広目天が西、多聞天が北を守る。須弥壇の四方に安置されるため「持国天立像」「多聞天立像」は左下、「増長天立像」「広目天立像」は右下を睨んでいる。その眼光は鋭い。とにかく4人ともカッコイイけれど、個人的には腰をくねらせた「増長天立像」が好き。邪鬼は全部いい! 特におしりを見て欲しい。すごくかわいい。個人的には「多聞天立像」の邪鬼がかわいくて好き。
四天王の間を抜けると正面にドーンと「薬王菩薩立像」と「薬上菩薩立像」が立っておられる。3m超! スゴイ迫力! お2人は兄弟とのことで、どちらが兄なのか不明。たしか右の方が偉いと思うので薬王菩薩? この場合どっちが右なんだろう・・・。お2人は脇侍なので本来中央にはご本尊の如来が坐しておられるハズだから、如来様から見て右側? まぁ、ちょっとよく分からないということで(笑) お2人わりとお顔が大きくて、ちょっとスタイルが・・・。腰をくねらせ、片方の膝を曲げる三曲法で立っておられるけど、去年見た薬師寺の日光・月光菩薩のセクシーさにはかなわない。でも、なんともいいお顔をされている。金箔がかなり残っている。中金堂7回の焼失で、この大きなお2人が毎回救出されていることを考えると、信仰の意味を考えさせられる。女性は薬王菩薩を信仰し、修行すれば阿弥陀仏の安楽世界へ行けるのだそうで、しっかり拝んでおいた。まぁ、そんないい加減なことではダメだと思いますが・・・。そういわれて見てみると、薬王菩薩の方が大らかなお顔かも。薬上菩薩の方が少年っぽいというか、美川憲一似(笑)
実質、最後の展示は運慶作「釈迦如来像頭部」とその腕である「仏手」、光背に配されていたであろう「化仏」と「飛天」 とにかく飛天1つが30~40cmくらいあるのだから、釈迦如来の大きさが分かるというもの。残念ながら頭部と一部欠損した仏手しか残っていないけれど、その大きさはスゴイ! この「釈迦如来像頭部」の作者は長い間不明とされていたけれど、2007年に運慶作であることが判明したそうで、運慶作としては2番目に古い作品なのだそう。とにかく美しい! ふくよかなお顔。スッと通った鼻筋。半眼に開かれた目。口角がキュッと上がった上唇は、少しめくれたような感じでセクシー。螺髪はだいぶ取れてしまっているけれど、実は1つ1つ差し込まれているのだということが判明! これはスゴイ。ちょっと気が遠くなるような作業。だけど、そういう仕事が人々の心を打つんだと思う。
とにかく! 50分並んで見たかいがあった! 今回も長々書いたけれど、私なんかの拙い文章じゃ全然この素晴らしさは表現しきれない。そのくらい素晴らしい! これはもう感動! 10月17日から興福寺の仮金堂で特別公開があるらしい。行きたい!
★国宝 阿修羅展:2009年3月31日~6月17日 東京国立博物館 平成館
「国宝 阿修羅展」東京国立博物館HP
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図録 表紙が布張りで豪華! 内容も充実
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みうらじゅんマガジンButuzo&阿修羅ファンクラブ公式ソングCD
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写経! 写経紙は永久保存、蓮弁紙は再建時に散華される
見たかった! でも、土日は混んでるだろうし、遅くまで開いてる金曜日もなかなか行けず・・・ 人間ドックの日に行けばいいんだと気付いたわけです(笑) しかし・・・。いつもチケット買ってるJR上野駅構内の窓口。ここに既に列ができてる。あまりないことなのでビックリ。しかも、50分待ちとのこと。まぁ、時間あるし、金曜の夜に来て入場規制では困るしってことで行ってきた。けっこう暑かったけど、お水のサービスや日傘の貸し出しもあって親切。メールしたり本を読んだりしながら待っていたけど、実際は50分まで待っていないように思う。まぁ、50分待ってたとしても絶対に見るべきというくらい素晴らしかったので全然OK。これはもう感動!
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【第1章:興福寺創建と中金堂鎮壇具】
入ってすぐ銀鋺や水晶念珠などの小さな展示品が並ぶ。みんなもあまり要領がつかめなかったため、ここが阿修羅の次に混む結果となってしまった(笑) 鎮壇具っていうのは地鎮法などの法会で堂塔伽藍の地下に埋葬されたもの。なので1つ1つは小さい。銀鋺は直径30cmくらいのものから10cmもないものまであるけど、驚くのはその形の正確さ。ろくろを使って作られたそうで、ろくろの跡が残っている。そして魚々子(小円文)という彫金の技法で細かい模様が彫られている。これが細かい! 細かすぎて見えないくらい。8世紀の作ということだから700年代。1300年くらい経つことになる。そんな昔に作られたものを、ほぼそのままの形で見ることができるなんてスゴイ! 興福寺はそもそも藤原鎌足の息子、不比等が建立したお寺。ここでは不比等が納めた鎮壇具を見ることができる。日本初のお金、和同開珎も納められている。708年に日本で初めて銅が採掘され、鋳造された銅銭。銅なので緑青が・・・。この年、元号も和同とされており、平和な時代だったのだそう。和同開珎は150枚ほど出土しているらしい。たしか、かなり昔不比等を埋葬した古墳が発見された気がする。ニュースで見て不比等ってホントにいたんだなぁと思った気がする(笑)
ここのもう一つの見ものは、水晶、瑪瑙、琥珀、そしてガラスなどの玉。丸だけじゃなく碁石形や面取形と呼ばれるいわゆる飴ちゃん形に加工されたもの。これがほんとにキレイ。機械など無かった時代、道具は使ったにせよ、手で加工したものとは思えないほど、いびつ感もなく粒や形が揃っている。特にガラスは黄緑色、青緑色、褐色の色がついている。西洋のステンドグラスの彩色ガラスも、不純物の混ざり具合などが作用しているため、現代では出せない色があるそうだけど、この色はどうなんだろう? とにかく1300年前の人々がガラスに色をつけ、碁石形に成形したのかと思うと愛しくなる。そして驚いたのが「水晶蓋付筒」 直径(?)1.5cm、高さ5cmくらいの六角形の水晶で作られた筒。これがスゴイ! よく見れば正六角形にはなっていないかもしれないけれど、こんな小さな筒を・・・。 しかも蓋つき。たしかに現代にはいろいろ便利なツールがあるけど、昔から人間は必要なものであれば、作り出して来たんだなと思う。そして、たとえ用途は日常的なものであっても、その中に美を表現して来たのだろう。
【第2章:国宝阿修羅とその世界】
タイトルどおり今回の目玉、仏像界のアイドル阿修羅像はこの章に展示されている。そもそも阿修羅は八部衆という仏教を守護する「天」で、もとはインドの神を仏教に取り入れ、守護神となった神の1人(?)なのだそう。今回はその八部衆像のうち6体を展示、2体をパネル展示している。
第2章最初の展示物は、藤原不比等の妻で、光明皇后の母である橘三千代の念持仏と言われている「阿弥陀三尊像及び厨子」 これは素晴らしい。螺旋状に伸びた蓮の上に坐す阿弥陀如来。両脇に立たれる勢至菩薩と観音菩薩。三尊はむしろシンプルに作られている。衣の表現や装身具などは美しくはあるけれど、華美ではない。如来は悟りを啓いたお姿なので、そもそも装身具は無いけれど、人々を救うため悟りを啓かずとどまっておられる菩薩は、装身具をつけておられる。でも、表現自体はシンプル。だけど、下に敷かれた蓮池、光背、後屏の装飾がスゴイ! 阿弥陀如来の頭に蓮の花が咲いたように見える光背の透かし彫りが細かい。後屏の蓮の上に坐すインド風の人物(?)や、化仏などの造形が素晴らしい! 花など植物のモチーフもどこかインドを思わせる。この贅沢な後屏がシンプルでやや無骨に見える三尊をより引き立てている。それが三尊を身近なものとしているように思う。
次の展示は「華原磬」 これは法事の際に使用する仏具。この装飾がスゴイ! 獅子の台座の上に、円形の鐘、両脇から4匹の龍が背中合わせに鐘を囲む。もちろん、この時代本物の獅子=ライオンを見たことはないわけで、この獅子は伝説上の動物。鬣はあるけど何か犬っぽい(笑) 円形の鐘の装飾もスゴイけれど、龍のうろこの細かさにビックリ! これはホント素晴らしい。仏が説法している時に波羅門が打った金鼓の音は、人々を悟りに導くのだそうで、「華原磬」の撥を持つ波羅門の像も展示されている。これはちとキモ・・・。イヤフォンガイドでは「華原磬」の音色を聴くことができる。てっきり銅鑼のような音がするのかと思っていたら、思いのほか高く美しい音色にビックリ。涼やかでキレイな音。ちなみに音声ガイドのナレーションは黒木瞳。落ち着いていて、発音がきれいで聞きやすかった。
次の展示会場に移ると、八部衆像と十大弟子像が向き合って展示されている。これらと前出の「華原磬」は橘三千代の一周忌法要の為作られたそうで、特に八部衆と十大弟子は1年で製作されたのだそう。脱活乾漆造という、粘土で作った像に、麻布を漆で何度も塗り重ねていき、乾いたら背中を開き中の粘土を取り出すという手法で作られている。だから中は空洞。手間がかかる上に、高価な漆を大量に使用することから、平安時代以降は作られなくなってしまったのだそう。
十大弟子は釈迦に随った十人の高弟のことで、それぞれ優れた能力があったのだそう。興福寺に現存するのは6体。現在はそれぞれ尊名がついているけれど、造られた当初の尊名については不明なのだそう。若いお顔や年老いたお顔、苦悩の表情を浮かべるお顔や、それを隠しておられるのか穏やかなお顔、さまざまなお姿が表現されている。衣もシンプルではあるけれど、当初は鮮やかに彩色されていたであろうものから、肩から衣を巻いただけのようなものまでさまざま。釈迦の代わりに説法したと言われる「舎利弗立像」はほっぺたスベスベでいいお顔。「目犍連立像」は、かなり昔あさげのCMに出演していた柳家小さん師匠に似ておられる(笑) なんて書くのは不遜なのかな? でも、誰かに似ていると思うと親しみがわいたりする。
十大弟子よりもどちらかといえば八部衆の方が好み。少年の相で表現されることが多いらしく、戦いの神阿修羅以外は鎧を身に着けておられる。もとはインドの神様だけど、中国経由で伝わったらしく、鎧は中国っぽい気がする。興福寺では阿修羅、迦楼羅、緊那羅、乾闥婆以外の尊名は明らかではないらしい。「乾闥婆立像」は音楽神。獅子の冠が頭を噛んでいる! 「緊那羅立像」は額に短い角がある。朝青龍似(笑) 「沙羯羅立像」は幼児の相で表されている。かわいい。「迦楼羅立像」は一目で分かる。お顔が鳥なので(笑) 蛇を食べる霊鳥だそうで、これはガルーダ。ガルーダ・インドネシア航空のガルーダ(笑) 目頭の輪郭を角ばって表現しているのは、怒りを表す仏像に用いられる手法なのだそう。目が印象的なのは瞳に別の素材を使っているからなのだとか。鶏冠がいい!
この会場を出て、渡り廊下の様なところを抜けると、バルコニー状になった場所に出る。一段低くなった会場の中央に「阿修羅立像」が立ち、その周りを人々が一周して見るという展示。一応、入場規制しているけれど、基本的にみんな動かないので激混み。多分、じっくり見たい人はバルコニーから見て欲しいって事なんだろうと思うけれど、実際自分が中に入ってみると分かるんだけど、ぎゅうぎゅう詰めになってしまって動くに動けない。一応、ライヴで鍛えた割り込まれた感を人に与えずに、スルリと前に行くという手法で最前をゲット。しかし辛い。完全にモッシュ状態。おばさまが人数と時間を区切って入替え制にすればいいとおっしゃっていたけど、正におっしゃるとおり! もう少し考えて欲しかったかも。トータル鑑賞時間としては結構見たけれど、ぎゅうぎゅう押されて気分的には全くゆったり鑑賞できず、見た気がしない(涙)
阿修羅(アーシュラ)はインドの戦いの神。常に怒り、帝釈天(インドラ)に歯向かったため、阿修羅道を彷徨っているのだとか。歯向かったのは、娘を帝釈天に奪われたからだと言われているそうで、3つの顔と6本の腕を持ち、怒りを表す赤い顔で表現される。興福寺の阿修羅は何故か少年の相で、穏やかなお顔をしている。これは釈迦の説法に耳を傾けるうち、心穏やかになったことを現しているのではないかとの事。他の八部衆と違い鎧は身に着けておらず、普段着のような質素なお姿。足元も板金剛と呼ばれる、裏に麻の代わりに板を張った草履を履かれている。戦いの神にしてはそぐわないお姿だけれど、苦悩の末釈迦の説法に出会い心穏やかになったので、鎧などの装身具は必要なくなったということを表現しているのかなと思う。
いいお顔をされている。正面は厳しいお顔。眉根を寄せて目元も涙袋をたたえ、瞳が潤んで見える。固く結んだ口元が印象的。ホントに美しい。左は下唇を噛み締めて悔しさを表しているよう。このお顔が1番人間ぽいかもしれない。右のお顔も眉をひそめておられるけれど、厳しさは無くむしろ戸惑っておられるよう。少々椎名桔平似。悔しさや戸惑いを抱えながら、正面を向いておられるのだろう。そう考えると涙目なのも分かる気がする。2本の腕は胸の前でゆるく合わせていらっしゃる。2本の腕は何かを抱こうとしているかのよう。ちょっとバレエのポーズに似ている。そして残りの2本は天を支えているかのような形。その腕は細く華奢。全体的にほっそりと華奢で、少年の相をされていることが、内面の苦悩をより際立たせる。やっぱりこれは素晴らしい! "天平の美少年"にお会いできてホントに幸せ! 普段モッシュ・ピットには近づかないけど、頑張って最前を取ったかいがあった!
【第3章:中金堂再建と仏像】
この章はホントに素晴らしい! いつもだったら今回のお目当て「阿修羅立像」の感想を特別扱いで最後に書いているところだけど、今回私の心を捉えたのはこの章だった。なので結果順番どおりの記述となった。まぁ、別にどうでもいいことだけど(笑)
中金堂は計7回焼失しているそうで、享保2年(1717年)の焼失以後、再建はされず、仮金堂が建てられ現在に至っているのだそう。現在2017年の完成を目指し、再建計画が進んでいるそうで、今回この章で展示されている仏像は完成した中金堂に納められるのだそう。
まずは運慶の父、康慶作の四天王像。これはスゴイ! 今回一番心打たれたのは実はこの四天王像。カッコイイ! 何という躍動感。何という迫力! 四天王は憤怒の表情をされている。康慶の四天王も怒りを湛えているけれど、実は表情自体はそんなに厳しくない。でも、中国っぽい鎧を身に着けた下の隆々たる筋肉も感じられる見事な体のラインの表現と、それぞれが踏みつける邪鬼の表情が素晴らしく、それが四天王の迫力と躍動感を生んでいるように思う。
四天王は四方を守る護法神で、持国天が東、増長天が南、広目天が西、多聞天が北を守る。須弥壇の四方に安置されるため「持国天立像」「多聞天立像」は左下、「増長天立像」「広目天立像」は右下を睨んでいる。その眼光は鋭い。とにかく4人ともカッコイイけれど、個人的には腰をくねらせた「増長天立像」が好き。邪鬼は全部いい! 特におしりを見て欲しい。すごくかわいい。個人的には「多聞天立像」の邪鬼がかわいくて好き。
四天王の間を抜けると正面にドーンと「薬王菩薩立像」と「薬上菩薩立像」が立っておられる。3m超! スゴイ迫力! お2人は兄弟とのことで、どちらが兄なのか不明。たしか右の方が偉いと思うので薬王菩薩? この場合どっちが右なんだろう・・・。お2人は脇侍なので本来中央にはご本尊の如来が坐しておられるハズだから、如来様から見て右側? まぁ、ちょっとよく分からないということで(笑) お2人わりとお顔が大きくて、ちょっとスタイルが・・・。腰をくねらせ、片方の膝を曲げる三曲法で立っておられるけど、去年見た薬師寺の日光・月光菩薩のセクシーさにはかなわない。でも、なんともいいお顔をされている。金箔がかなり残っている。中金堂7回の焼失で、この大きなお2人が毎回救出されていることを考えると、信仰の意味を考えさせられる。女性は薬王菩薩を信仰し、修行すれば阿弥陀仏の安楽世界へ行けるのだそうで、しっかり拝んでおいた。まぁ、そんないい加減なことではダメだと思いますが・・・。そういわれて見てみると、薬王菩薩の方が大らかなお顔かも。薬上菩薩の方が少年っぽいというか、美川憲一似(笑)
実質、最後の展示は運慶作「釈迦如来像頭部」とその腕である「仏手」、光背に配されていたであろう「化仏」と「飛天」 とにかく飛天1つが30~40cmくらいあるのだから、釈迦如来の大きさが分かるというもの。残念ながら頭部と一部欠損した仏手しか残っていないけれど、その大きさはスゴイ! この「釈迦如来像頭部」の作者は長い間不明とされていたけれど、2007年に運慶作であることが判明したそうで、運慶作としては2番目に古い作品なのだそう。とにかく美しい! ふくよかなお顔。スッと通った鼻筋。半眼に開かれた目。口角がキュッと上がった上唇は、少しめくれたような感じでセクシー。螺髪はだいぶ取れてしまっているけれど、実は1つ1つ差し込まれているのだということが判明! これはスゴイ。ちょっと気が遠くなるような作業。だけど、そういう仕事が人々の心を打つんだと思う。
とにかく! 50分並んで見たかいがあった! 今回も長々書いたけれど、私なんかの拙い文章じゃ全然この素晴らしさは表現しきれない。そのくらい素晴らしい! これはもう感動! 10月17日から興福寺の仮金堂で特別公開があるらしい。行きたい!
★国宝 阿修羅展:2009年3月31日~6月17日 東京国立博物館 平成館
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図録 表紙が布張りで豪華! 内容も充実
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写経! 写経紙は永久保存、蓮弁紙は再建時に散華される
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