24日夕方、霧ケ峰、蓼科を回った後は茅野に戻り、やってきたのは民芸館風の建物。
ここは「放浪美術館」というところ。妙な名前であるが、展示されているのは「放浪の天才画家、裸の大将」で知られる山下清の作品。なぜこの地に美術館があるかという話だが、山下清が夏の風物詩である花火が大好きで、諏訪湖の花火にも何度も見物に訪れたこと。ゆかりのある作品を地元に残し、その人生を後に語り継ごうというところから開館されたという。
どうしても芦屋雁之助のドラマ「裸の大将」のイメージが強く、「ボ、ボ、ボクは、お、お、おにぎりが、食べたいんだなあ」というセリフが先に出てしまうが、諏訪湖の花火をした数々の貼り絵、ペン画を見るとその繊細さにはうならされるばかりである。見る角度によって人物が「動いて」見えるような構図があったり、先述の花火にいたっては、打ちあがっていく花火は紙をこよりにして描くとともに、重ね貼りで幾層にも見えるように立体感を出したり、暗い色で花火が消えるところを描くなど、さまざまに工夫をこらした技法が見られる。描かれた日本の懐かしい風景とあいまって感心させられる。
山下清の「放浪」のことを書いた「日本ぶらりぶらり」「世界ぶらりぶらり」の文庫2冊を買い求め、改めて彼は放浪の中に何を見たのかを感じてみたいと思う。
さて、一度諏訪湖畔に出る。ここで訪れたのは原田泰治美術館。こちらは諏訪出身ということで、1982~1984年に朝日新聞に掲載された「原田泰治の世界」で描かれた「ふるさと」をテーマにした作品を中心に展示されている。
その時期に描かれた「ふるさと」。さて2010年の今となるとさまざまに開発が進められて、実際の景色はまた変わったと思われるところがあるが、それだけにより一層「懐かしさ」というものが現れるようだ。私が入館した時はちょうど団塊世代くらいの団体さんが見学していたが、口々に「こんなのあったね」「懐かしいね」と作品の一つ一つに見入っていた。
私にしても「懐かしさ」を感じるのだから、やはり日本人のDNAというのかな、原風景というのはある程度世代を越えて受け継がれるものかなと思う。
中でもうなったのは、「鉄道」が登場する作品。白糠線、南部縦貫鉄道、鹿島鉄道・・・・すでに今は廃線となったものばかりだが、やはり心動かされる。こういう景色には鉄道がよく似合う。高速道路ではこうは感じない・・・。絵葉書でもあれば記念に購入しようと思ったがあいにくと思うように揃わず、ならばということで全国の景色を揃えたコンパクトサイズの画集があったのでこちらを買い求める。
いや、これを見ているだけでもまたさまざまな土地を旅してみたくなりますわ・・・。
夕方となりレンタカーを茅野駅前で返却し、上諏訪に戻る。この日の夕食で向かったのは、駅前の居酒屋「信玄屋敷」。実は前日行った時は閉まっていたのだが「月曜定休」ということらしかった。
信州の郷土料理を味わおうということで、馬刺に始まり、鱒のたたき、信州味噌で煮込んだ豚の角煮など味わう。馬刺は前日の「庄や」でも注文したのだが、やはり味の深さも噛み応えも全く違う。
ここからが初体験メニュー。まずは鯰のフライ。鶏のささ身に似た食感だが、ほんのりと魚の匂いもする。
そして、注文しようかどうしようか結構迷ったのだが、エイヤッという感じで注文したのが、イナゴの佃煮。信州南部では貴重なたんぱく源として食された昆虫。その中でもイナゴは定番という。相手昆虫だし、どうも生きて跳ねているところを想像すると・・・というのがあったが、やはり信州にきたのだし。
で、出てきたのを一口。食感はエビを食べているようなもの。同じく節足動物ではあるし、なるほど、エビが食べれればイナゴも食えるかなという感じ。ただどうだろう、観光客も訪れるであろう居酒屋だから食べやすく色づけ、味付けをしているのかもしれない。地元で昔ながらのスタイルで・・・となるとやはりグロかったりして。
食後、再び諏訪湖畔に向かう。前日は気づかなかったのだが実は8月1日~9月3日までは「サマーナイトファイヤーフェスティバル」として、毎晩諏訪湖に花火が上がるのだという。それを見ようとやってくると、ホテルの浴衣姿の宿泊客も含め結構多くの人たちが思い思いの場所に陣取っていた。
そして20時30分、MCが打ち上げのコールをすると、音楽と共に湖の上に花火が打ちあがる。
いやいや、うなるばかり。残暑厳しいことを忘れさせる、夏の景色である。
15分ほどの打ち上げが終わり、周りの客からも大きな拍手が起こる。今回の旅の最後の夜を飾るにふさわしい、いいものを見させてもらった・・・・。(続く)