先月に紀伊国屋書店の鉄道書コーナーをのぞいたところ、その前面にあったのが「国鉄スワローズ」の文字。
交通新聞社の新書シリーズは鉄道の技術面、文化面など一風変わった側面から鉄道のことを取り上げておりこれまでに何冊か購入したのだが、ここに来て「国鉄スワローズ」か。鉄道に興味があり、また一方でプロ野球ファンとなればこれは即決で「買い」である。
プロ野球の歴史の中での「国鉄」の位置づけは、まさしくこのサブタイトルにあるような「愛すべき万年Bクラス球団」である。その後サンケイ、アトムズなどを経て現在の東京ヤクルトスワローズに通じるわけだが、こう書けばヤクルトファンには失礼かもしれないが、どこか弱弱しい感じだがさわやかで、シャープな野球・・・それが伝統のチームカラーかな。
本書は「全国の国鉄職員の士気高揚」として国鉄球団が設立された経緯、資金面に余裕のない中での選手獲得に始まり、歴代選手の活躍や素顔についてまとめたもの。これまでプロ野球の各球団をテーマにした書物はたくさんあるが、「国鉄」について、その本局の動きを絡めて取り上げた作品というのは滅多にない。
合間には引用史料として「国鉄スポーツ」なる新聞が登場したり、球団の全試合の結果や各年度の在籍メンバーの一覧までを紹介したのは資料的な価値がある。これらの球場名を見ると、かつては本当にさまざまな地方、球場で試合をしていたことがわかる。逆に現在の球場がフランチャイズ制や「地域密着経営」が定着しすぎて、本拠地の固定された球場でしかほとんど試合をしなくなったのは惜しまれる。ドサ回りではないが、もっとさまざまな球場で興行を行えばいいと思うのだけど(あ、それは球場めぐりのファンの思いでしかないか)。
「国鉄」といえばもう一つの特徴が、「金田正一のチーム」であること。球団創立のシーズン途中で入団していきなり8勝、その後国鉄で354勝を挙げることになる。シーズンの勝ち星の半分近くが金田だった年もあり。
その金田は国鉄球団の最終年、産経新聞に経営を譲渡した1964年限りで退団するのだが、本書の取材では「ホンマにいい球団だったのよ。弱かったけどな。国鉄総裁をはじめ本社の幹部も、現場の職員も、労働組合も、国鉄一家あげて応援してくれた。温かい球団だった」と振り返っている。自分は「国鉄の金田」という思いが今でも強いのだろう。
ちなみにこの1964年というのは東海道新幹線が開業した年。それと同時に国鉄が初めて赤字に転落した年。そして国鉄スワローズが消滅した年。その意味で鉄道にとっての転換点となった年と言えるだろう。
その金田の言葉通り、国鉄のファンというのは弱かったけどこのチームを「オレのチーム」として応援していたのだと思う。著者は「真面目な人の多い鉄道マンらしい」と表現していたが、そうさせるものがあるのだろうか。じゃあ私鉄はどうなんだか。
一方ではもう一つの国鉄野球として、各鉄道管理局から現在はJRの社会人野球につながる野球部の歴史についても触れている。
JRの野球部といえば昨今めざましい活躍を見せるのがJR九州。厳しい練習で知られる吉田監督の下、昨年の日本選手権では優勝、そして今年の都市対抗野球ではあと一歩のところで東芝に涙を呑んだが見事に準優勝。悲願の黒獅子旗を獲る日もそう遠くないであろう。私個人としては社会人野球に毎年顔を出している企業に所属しているために表立った応援はできないが、何とか栄冠をものにしてほしいと思う。
そしてもう一人、NPBで「日本一」を目指す元国鉄マンがいる。ロッテの西村監督である。鹿児島鉄道管理局の出身で(鹿児島駅の駅員さんをやっていたそうな)、ロッテ一筋で今年からはとうとう監督に就任、開幕から好調を維持して終盤までAクラスと、チームの立て直しに成功したのは周知のとおり。こちらも、私個人としてはオリックス・・・・まあ、いいか。
そんな歴史を追いかけた著者である、堤哲・毎日新聞編集員は最後にこう結ぶ。「日本野球史上、国鉄ほど愚直に野球を愛した会社はない」・・・・。
「愚直」。かつての「国鉄」にはこういう言葉が似合っていたかもしれないな。
鉄道ファンにも、野球ファンにもぜひ「歴史」を感じてほしい一冊である。