



歯科医の妻で高校生の娘と息子の母親でもあるベヴァリーは、明るく善良な良妻賢母。しかし彼女は、非常識な連中や愛する家族の平和を乱す者たちを次々に殺す連続殺人鬼だった。逮捕され裁判にかけられたベヴァリーは、いつしか全米の人気者となり…

ヤバいエグいブラックコメディが大好きです。特にお気に入りなのは「殺したい女」「ワンダとダイヤと優しい奴ら」「ふたりにクギづけ」「トロピック・サンダー」でしょうか。ポリコレ無縁な傑作の中でもmy bestといえばやはり何といっても、怪作の巨匠ジョン・ウォーターズ監督のこの作品です。これ、気分が落ち込んでる時にすご~く観たくなるんですよね~。真っ黒でノーテンキな笑いが、沈んだ心を元気づけてくれます。人間の偽善や欺瞞、身勝手さや悪意を暴いて嘲笑う内容なのに、まるで澄んだ青空を見てるような爽快感を得られるのです。

それは、この映画同様に私たちも非常識で利己的な連中や理不尽な出来事に囲まれ、日々ストレスに苛まれてるからでしょう。まるでゴキブリを退治するかのように不愉快な人々、迷惑な人々を抹殺していくママがとにかくスカっと愉快痛快です。ママに殺される人たち、確かにヤな連中なのですが、殺されて当然とは言えない、基本的には善人ばかりなところがこの映画の面白いところ。みんな無神経で自分本位なだけの善人。でも、そういう人たちのほうが真の悪人より怖い。

私たちを破滅させたり死に追いやるような極悪人とはそんなに関わることはないけど、無神経で自分本位な善人は身近にたくさんいて、被害を被ることは日常茶飯事ですから。大したことじゃないのに、こいつ殺したい!死ねばいいのに!でも些細なことなので感情的になるほうが間違っているから我慢…という鬱憤を、ヒロインであるシリアルママを通して解消の疑似体験ができる…のが、この映画の魅力でしょうか。

それにしても。ママに抹殺されてしまう人たち、いなくなってせいせいはするけど、すごい大したことない理由で殺されちゃうのが可哀想で笑えます。シートベルトしない、リサイクルしない、レンタルビデオ(死語?)を巻き戻さないで返す、駐車場の横入りetc.最も残虐な罰が下されるのは、家族の平和を乱す奴ら。息子を精神病扱いする教師、パパの休日を台無しにする患者夫婦、娘のスケコマシ彼氏のむごたらしい殺され方は、ホラー映画も真っ青なグロさ、かつ滑稽さでかなり笑撃的です。

爆笑シーンのオンパレード、爆笑展開のつるべ打ちですが、中でも私にツボだったのは隣家のおばはんへのイタズラ電話。二人の下品すぎる応酬、何度観ても腹がよじれます。自ら検察側の証人たちを陥れ斥けて無罪を主張するママの弁護人ぶりも、珍妙で痛快です。下品な英語の勉強にもなる映画です。パワフルでノーテンキなアメリカ人が大好きになると同時に、彼らとアメリカ社会の歪みや醜さも炙りだしてるところが、凡百おバカ映画と違う点。よくできた社会派映画でもあります。ママに私の周囲にいるイラっとするムカっとする連中を抹殺してほしい!けど、もしママが近くにいたら、真っ先に殺されるのは私かも


ママ役のキャスリーン・ターナー、迫力満点、圧巻の怪演です。かつては妖艶な美女として魅力を振りまいていた彼女が、すっかり貫禄もお肉もたっぷりなおばさんに。おばさんにはなってますが、美人であることは不変です。ご機嫌な時の朗らかなノーテンキさと、怒髪天の大魔神と化す時のギャップが強烈。お仕置きシーンも下品な台詞もノリノリで楽しそう。こういう役、演技って女優なら一度はやってみたいのでは。日本の女優はでもキレイカワイイが優先だから、キャスリーンおばさまみたいな過激で豪快なお笑い演技は無理でしょう。