まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

家族の闇配信

2018-05-06 | フランス、ベルギー映画
 お松の第2回イザベル・ユペール映画祭④
 「ハッピーエンド」
 フランス北部のカレー。13歳の少女エヴは、母親が薬物中毒で入院したため、母と離婚後に再婚した父トマの実家に引き取られる。そこでは年老いた家長ジョルジュ、その長女でトマの姉アンヌ、アンヌの息子ピエールらが、それぞれトラブルや心の闇を抱えながら、裕福なブルジョア生活を送っていた。そんな中、ジョルジュが自殺未遂のような事故を起こし…
 カンヌ映画祭パルムドールとアカデミー賞外国語映画賞のW受賞となった「愛、アムール」から5年、ミヒャエル・ハネケ監督の待ち望まれていた新作。出品されたカンヌ映画祭では珍しく無冠で、公開されてもハネケ監督といえばの賛否両論も特に起きず、あれ?ひょっとして失敗作?と思ってしまってたのですが、どうしてどうして。「「ピアニスト」や「愛、アムール」に比べると、確かに衝撃や毒は薄まってましたが、この作品もなかなかの胸ザワなイヤミス映画でした。

 それにしても。ハネケ監督って、ほんと冷酷で意地悪だな~と、この新作にも感じさせられました。いい人、いい話で感動を押し付けようとする映画や、毒にも薬にもならん無難な忖度映画ばかり蔓延している中、ハネケ監督の人の悪さ、アンチポリティカルコレクトネスな作風は貴重。世間に媚びないマイペースさには、他のフィルムメーカーには感じない気高さがあります。とにかく、人間は愚かだけど愛がある、なんて陳腐な理想を語っていないところが好きです。この映画でも、ブルジョア一家の偽善や心の闇を冷ややかに嘲笑うかのように描いてます。人間の醜さや歪みを、過激な演出や痛烈なメッセージでもって描くのではなく、常に何にも起きそうにない静けさ、冷ややかさが返って不気味で、観客を不安に陥れる。これがハネケ監督の独特さ、独壇場でしょうか。ドラマティックなシーンや展開なしだと、フツーなら睡魔に襲われるところですが、ハネケ監督は決して眠らせてはくれないんですよね~。例えて言うなら、整然としすぎた薄暗くひんやりとした誰もいない部屋に閉じ込められ、しばらくするとどこからかピアノの一番低いドの音だけをずっと叩く音や、黒板を指でひっかく音が聞こえてきたりする気持ち悪さ、不快さ。って、わけのわかんない例えですんませんとにかく、感動ではなく動揺を観客に与えるハネケ節は健在でした。

 ブルジョア一族の秘密や闇を暴露する、といった内容は、ともすれば家政婦は見た!的な俗悪な面白さになりそうだけど、この映画は生々しさがなく、あくまで上品でエレガント。アメリカや韓国の成金とは全然違うフランスのブルジョアの、冷たい優雅さに憧れます。金にあかせて建てた豪邸ではなく、歴史を感じさせる瀟洒な屋敷、というのもヨーロッパの洗練を感じました。庶民には羨ましいかぎりの身分、生活なのに、庶民も呆れるブルジョア一族の闇と歪みは、もはや笑うしかない滑稽さ。「ピアニスト」同様、この映画も屈折しすぎた喜劇のように思えました。トマと愛人が交わす、情熱的で変態なチャットとか。ジョルジュの迷惑すぎる執拗な自殺願望とか、皮肉な笑いを誘います。みっともなさ、みじめさを嗤うなんて、ハネケ監督ってほんと意地悪です。

 説明しすぎなシーンや台詞を排除し、謎めかし、ほのめかしが多く、え?何?どういうこと?と観客と当惑させ、想像に委ねる手法もハネケ監督ならでは。ピエールが訪ねた団地で男に殴られるシーンや、車いすのジョルジュが道で黒人たちに声をかけて何か頼んでるシーンとか、いっさい台詞なしで遠くから彼らを映してるだけ。たまに出てくるSNSに動画をアップしてる男の子とかも、いったい何なの?なキャラでした。建築現場の崩落とか、冒頭のハムスターとか、静かに不吉、不安を煽るシーンも、何なのこれ~と目が離せなくさせます。
 「愛、アムール」に続いて、ジャン・ルイ・トランティニャンとイザベル・ユペールが父娘役で出演しています。
 
 イザベル・ユペールは、同じハネケ監督の「ピアニスト」や、オスカーにノミネートされた「エル ELLE」に比べると、拍子抜けするほどフツーです。彼女といえばのギョっとする怪演はありません。エレガントで冷徹なマダム、そしてバカ息子に手を焼いているママン、な役は「エル」と同じで笑えた。シックなファッションが相変わらず素敵でした。
 ジャン・ルイ・トランティニャンは、すっかりヨボヨボのお爺さんになってしまいましたね~。でも、ただでは老いさらばえないのが名優。まだらボケ言動で家族と観客を惑わせイラつかせるトランティニャン御大の、憐れみや嘲笑をはねつける情の剛さと威は、映画の中で最も不安と不吉を撒き散らしていました。それにしてもトランティニャン御大、かなりしんどそうだった。これが最後の出演作になるかも…?
 トマ役のマチュー・カソヴィッツは、穏やかな感じのおじさんになりましたね~。アンヌの恋人役の英国俳優トビー・ジョーンズは、冴えない小男だけど有能なエリート、な役が似合う珍しい俳優。彼とのシーンだけ、みんな英語を喋ってました。
 この作品の真の主役であるエヴ役、ファンティーヌ・アルドゥアンの好演も高く評価したいです。

 フランスの女の子って、アメリカンギャルと違って、見た目は幼いけどすごくクールで賢そうなところがトレビアン。ディナーやパーティーシーンでの清楚で可愛いワンピースも素敵でした。孤独なエヴとジョルジュが心を通わせる、といったハートウォーミング物語じゃなく、死にとり憑かれた老人と少女の闇すぎる共鳴が、ヤバくてスリリングでした。やっぱそれもSNSに上げるんかい!なラストも、皮肉すぎて笑えました。ちなみにエヴは、日本で起きた事件から監督がインスピレーションを得て創造したキャラなんだとか。無機質なスマホ画面やSNSの文字が、人と人が直接対峙するよりもコミュニケーションを成り立たせている、という現代社会の異常事態にもゾっとさせられました。
 この映画、日本のNHKあたりでTVドラマリメイクされるとしたら、理想キャストはこうだ!
 
 アンヌ … 吉田羊
 トマ … 大森南朋
 トマの妻 … 石橋杏奈  
 アンヌの恋人 … 菅広文
 アンヌの息子 … 白洲迅
     ・
 ジョルジュ … 片岡仁左衛門 

 こんなん出ましたけどぉ~?
 エヴは無名の新人美少女がいいです。ニザさまにヨボヨボだけど因業な迷惑爺さんを演じてほしいです。
 これにて第2回イザベル・ユペール映画祭終了(^^♪お目汚しメルシーボクウ!

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9 コメント

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Unknown (えびすこ)
2018-05-06 23:00:26
ロザンの菅さんをリストアップしていますね。
関東だとあまりテレビでお目にかかれないのですが、次の朝ドラに出たりして。
相方はクイズ番組で全国区になりましたが。
あるいはアメトーークに「~芸人」として登場するのもいいですが、菅さんは何か趣味とかありますか?
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フロントドア (松たけ子)
2018-05-07 23:01:15
えびすこさん、こんばんは!
私もフロントドアでしか菅さんに会えないです。全国区のバラエティとかあまり出ないですよね。ドラマに出てほしいですね。菅さんの趣味って何だろ?彼のこと、何も知らない💦
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じいちゃん俳優万歳! (フキン)
2018-05-08 18:32:51
白洲君がキャスティングされてますね!
彼は今、舞台で吉田鋼太郎と共演してるみたいです。
「正義のセ」にも出てるみたい・・・(私見てない)

「男と女」のジャン・ルイ・トランティニャン渋いですよね・・・好きな映画です。
87歳か・・・
そう言えば、「ケディ家の身代金」のクリストファー・プラマーも88歳だそうです。
すごいですよね・・・第一線で現役とは!!

夕べ、とんねるずのタカさん〔あんまりすきちゃうけど見た〕の「たいむとんねる」とか言う番組で柳沢真悟が若山富三郎と共演した時に絡まれた時のことを再現してて腹抱えました笑
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ぎゃー! (すねこすり)
2018-05-08 22:12:58
たけ子さん、こんばんにゃ再び!
間違えて途中で送信ボタン押してしまいました!
ごめんなさい!! 先ほどのは削除してください。
レビュー拝読し、唸ってしまいました。
「整然としすぎた薄暗くひんやりとした誰もいない部屋に閉じ込められ、〜」とか、まさに!! さすがたけ子さん☆
でも、やっぱり私は猛毒にやられてのたうち回りたいわ〜。なので、本作はお行儀良すぎでもの足りません
先日、モーリス4Kリマスターをスクリーンで見て来ましたよ! ヒューグラント、今の皺くちゃが嘘みたいに美しかった!
今週は、きみの名前で〜を見に行く予定です。たけ子さんのレビュー拝読して以来、見たくて。楽しみです♪
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幸せな結末 (松たけ子)
2018-05-09 00:26:17
フキンさん、こんばんは!
え!白洲くん、コータローおじさまと舞台で共演中やて?!観たい!正義のセは、まったく観たいと思える要素がないドラマ!原作が阿川何とかというだけで、もうあきまへん。
男と女のJLT、めっちゃシブくて男前やったな~。当時のJLTが、今のキムタクとか山口メンバーとそんなに年かわんないというのが信じがたいです。
プラマー爺さんご壮健そうだけど、JLT爺さんはちょっとヤバい感じがします。訃報、まだ聞きたくないですよね~…
若山富三郎も、よい役者どしたな~。勝新より若富のほうが好き。

すねこすりさん、こんばんは!
D'accord!了解しやした~。ほんま、寒いですね~。冬物の寝間着を引っ張りだして着てます~。
今回のハネケ映画、毒が薄かったですね~。私も猛毒、劇薬映画が観たいわ~。ポリティカルコレクトネス映画、忖度映画にはうんざり!ハネケ監督の次回作に期待(^^♪
おおっ!モーリス4K!私も大きなスクリーンで観たい!世知辛い毎日からちょっとした逃避になる、美しい映画ですよね~。美青年のハイソなBLなんて、スターウォーズとかハリポタとかよりよっぽどファンタジーだわ。
すねこすりさんの君名僕のご感想、ろくろ首で待ってます!私も観に行かねば☆彡
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Unknown (pu-ko)
2018-05-12 03:46:57
ハネケ久々の新作でしたか。
それでもSNSを取り上げるとは、まだまだお若い。
トランティニャンは心配・・
ユペール様のフツーもそれはそれで気になるわけで
DVDを楽しみに待ちます。
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エヴァ (松たけ子)
2018-05-12 21:17:31
pu-koさん、こんばんは!
5年ぶりの新作みたいです。ずいぶん時間がかかったのですね~。
いまだにガラケーで、SNSとかよく理解してない私などより、よっぽど感覚や感性が若いハネケ監督です。
JLT御大は、そろそろ…?フツーでも、やっぱ凡百な女優とは違うオーラ、エレガンスがさすがのイサベル・ユペールでした。pu-koさんのハッピーエンドご感想、楽しみに待ってます(^^♪
イザベル・ユペールの新作「エヴァ」が、7月日本公開決定👏またまた冷酷な毒塾女の役みたいです(^^♪
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見逃し中~ (くうこ)
2018-05-16 06:21:57
たけ子さんまたまた失礼します~

これも観たかったのに見逃し中です・・・が!!最後の砦的な劇場が拾ってくださっているので、なんとか観に行きたいです~!!

ユペりん・・・普通なんだ・・・
もう『エル』の印象が・・・!!
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エルの次はエヴァ (松たけ子)
2018-05-17 00:29:37
くうこさん、こんばんは!
お!ハッピーエンド、劇場で観られるのですね!それは重畳重畳!およろこび申し上げまする(^^♪ご感想、首キリンで待ってますえ~!
ハッピーエンドのユペりんは、ピアニストやエルに比べるとフツーですが、大女優にしかないオーラとエレガンスは相変わらず魅惑的でしたよ~。大阪では夏に新作「エヴァ」が観られるのかな。いいなあ~。くうこさん、エヴァはいち早くチェックお願いします~(^^♪エヴァといっても、エヴァンゲリオンとは関係ないみたいです😊
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