すぐ先でなくなってしまうかもしれない。
それはとても大きくて、確固としていて、揺るぎのない事実なのだけど、なぜだかすぐに忘れてしまう。
例えばある日唐突に、
両親から、「おとうさんとおかあさん、やっぱり別れることにしたよ」とか、
妻から、「ごめんね、もうあなたと一緒に暮らしてはいけないの。頑張ったんだけどできないの」とか、
生徒から、「長らくお世話になりましたが、一身上の都合でやめさせていただきます」とか言われて、びっくりしたりがっかりしたりする。
好きで通ってた映画館やお店がいきなり閉店したり、
相性がバッチリ合うばかりか、腕のいい医者が急にどこかに引っ越したり、
手垢がつくぐらい慣れ親しんで使っていた道具が、なんの予兆も無しにいきなり壊れたりする。
生きている物も生きていない物も、この世に存在する物はすべて、永遠を約束されてはいない。
「まうみ、ピンキーね、もう長くないのよ」
「えっ?」
ピンキーは、うちの家の左側と地つなぎに庭がある、『いつでも入りにおいで~プール』の持ち主。
そりゃもう穏やかで、そうかと思うと勝ち気でおもしろいアイディアの持ち主でもある、とてもすてきな女性。
旦那さんのポールと仲睦まじく、時々お孫さんの世話などをしながら、ゆったりと暮らしている。
「もうね、リンパと内臓のほとんどと、それから胸にもガンが広がってて……お医者さまから、多分半年余り、長くて1年と知らされたのよ」
話してくれたポーラはわたしが教えている兄弟の母親で、彼女はポールとピンキーの娘さんと幼馴染み。
うちに息子達を送り、その足で、彼らのプールに泳ぎに行ったりしていた。
ポーラもわたしも涙ぐんでしまって言葉が出ない。
旦那は彼らのことを、もう80才代のご夫婦だと言っていたけれど、ポーラの話では70代に入ったばかりなんだそうだ。
ピンキーは、病院の中の最新鋭の医療ではなく、最愛の夫ポールのそばで、ゆったりと死んでいきたいと決めた。
ポールはとてもショックを受けていて、そのために彼もかなり体調を崩してしまったらしい。
わたしと旦那にできることはなにか。それを今夜、ふたりで考えよう。
旦那はきっと、彼の鍼が役立てるよう、分厚い本を取り出して、必死で調べ始めるだろう。
わたしは……彼女が好きなピアノの曲を、窓をいつもより少し大きく開けて弾こう。
家で死を迎える彼女に、一日でも長く、けれども痛みや苦しみに襲われることのない日が続くよう祈ろう。
こんな日でもお腹は空くのだ。
誰もがみんな、いつかは別れる日を迎える。
けれどもその日まで、いつもと変わらず、いつものように、食べて動いて眠る。
久しぶりにカイロプラティックに行った旦那。近くのお気に入りのレストラン通りに行って、お土産に買ってきてくれたタコスと生メロンジュース。
とっても美味しゅうございました。
それはとても大きくて、確固としていて、揺るぎのない事実なのだけど、なぜだかすぐに忘れてしまう。
例えばある日唐突に、
両親から、「おとうさんとおかあさん、やっぱり別れることにしたよ」とか、
妻から、「ごめんね、もうあなたと一緒に暮らしてはいけないの。頑張ったんだけどできないの」とか、
生徒から、「長らくお世話になりましたが、一身上の都合でやめさせていただきます」とか言われて、びっくりしたりがっかりしたりする。
好きで通ってた映画館やお店がいきなり閉店したり、
相性がバッチリ合うばかりか、腕のいい医者が急にどこかに引っ越したり、
手垢がつくぐらい慣れ親しんで使っていた道具が、なんの予兆も無しにいきなり壊れたりする。
生きている物も生きていない物も、この世に存在する物はすべて、永遠を約束されてはいない。
「まうみ、ピンキーね、もう長くないのよ」
「えっ?」
ピンキーは、うちの家の左側と地つなぎに庭がある、『いつでも入りにおいで~プール』の持ち主。
そりゃもう穏やかで、そうかと思うと勝ち気でおもしろいアイディアの持ち主でもある、とてもすてきな女性。
旦那さんのポールと仲睦まじく、時々お孫さんの世話などをしながら、ゆったりと暮らしている。
「もうね、リンパと内臓のほとんどと、それから胸にもガンが広がってて……お医者さまから、多分半年余り、長くて1年と知らされたのよ」
話してくれたポーラはわたしが教えている兄弟の母親で、彼女はポールとピンキーの娘さんと幼馴染み。
うちに息子達を送り、その足で、彼らのプールに泳ぎに行ったりしていた。
ポーラもわたしも涙ぐんでしまって言葉が出ない。
旦那は彼らのことを、もう80才代のご夫婦だと言っていたけれど、ポーラの話では70代に入ったばかりなんだそうだ。
ピンキーは、病院の中の最新鋭の医療ではなく、最愛の夫ポールのそばで、ゆったりと死んでいきたいと決めた。
ポールはとてもショックを受けていて、そのために彼もかなり体調を崩してしまったらしい。
わたしと旦那にできることはなにか。それを今夜、ふたりで考えよう。
旦那はきっと、彼の鍼が役立てるよう、分厚い本を取り出して、必死で調べ始めるだろう。
わたしは……彼女が好きなピアノの曲を、窓をいつもより少し大きく開けて弾こう。
家で死を迎える彼女に、一日でも長く、けれども痛みや苦しみに襲われることのない日が続くよう祈ろう。
こんな日でもお腹は空くのだ。
誰もがみんな、いつかは別れる日を迎える。
けれどもその日まで、いつもと変わらず、いつものように、食べて動いて眠る。
久しぶりにカイロプラティックに行った旦那。近くのお気に入りのレストラン通りに行って、お土産に買ってきてくれたタコスと生メロンジュース。
とっても美味しゅうございました。