ウィンザー通信

アメリカ東海岸の小さな町で、米国人鍼灸師の夫&空ちゃん海ちゃんと暮らすピアノ弾き&教師の、日々の思いをつづります。

当たり前だと思っている日常が

2010年09月01日 | ひとりごと
すぐ先でなくなってしまうかもしれない。

それはとても大きくて、確固としていて、揺るぎのない事実なのだけど、なぜだかすぐに忘れてしまう。

例えばある日唐突に、

両親から、「おとうさんとおかあさん、やっぱり別れることにしたよ」とか、

妻から、「ごめんね、もうあなたと一緒に暮らしてはいけないの。頑張ったんだけどできないの」とか、

生徒から、「長らくお世話になりましたが、一身上の都合でやめさせていただきます」とか言われて、びっくりしたりがっかりしたりする。

好きで通ってた映画館やお店がいきなり閉店したり、
相性がバッチリ合うばかりか、腕のいい医者が急にどこかに引っ越したり、
手垢がつくぐらい慣れ親しんで使っていた道具が、なんの予兆も無しにいきなり壊れたりする。

生きている物も生きていない物も、この世に存在する物はすべて、永遠を約束されてはいない。


「まうみ、ピンキーね、もう長くないのよ」
「えっ?」

ピンキーは、うちの家の左側と地つなぎに庭がある、『いつでも入りにおいで~プール』の持ち主。
そりゃもう穏やかで、そうかと思うと勝ち気でおもしろいアイディアの持ち主でもある、とてもすてきな女性。
旦那さんのポールと仲睦まじく、時々お孫さんの世話などをしながら、ゆったりと暮らしている。

「もうね、リンパと内臓のほとんどと、それから胸にもガンが広がってて……お医者さまから、多分半年余り、長くて1年と知らされたのよ」

話してくれたポーラはわたしが教えている兄弟の母親で、彼女はポールとピンキーの娘さんと幼馴染み。
うちに息子達を送り、その足で、彼らのプールに泳ぎに行ったりしていた。

ポーラもわたしも涙ぐんでしまって言葉が出ない。
旦那は彼らのことを、もう80才代のご夫婦だと言っていたけれど、ポーラの話では70代に入ったばかりなんだそうだ。

ピンキーは、病院の中の最新鋭の医療ではなく、最愛の夫ポールのそばで、ゆったりと死んでいきたいと決めた。
ポールはとてもショックを受けていて、そのために彼もかなり体調を崩してしまったらしい。

わたしと旦那にできることはなにか。それを今夜、ふたりで考えよう。
旦那はきっと、彼の鍼が役立てるよう、分厚い本を取り出して、必死で調べ始めるだろう。
わたしは……彼女が好きなピアノの曲を、窓をいつもより少し大きく開けて弾こう。

家で死を迎える彼女に、一日でも長く、けれども痛みや苦しみに襲われることのない日が続くよう祈ろう。



こんな日でもお腹は空くのだ。
誰もがみんな、いつかは別れる日を迎える。
けれどもその日まで、いつもと変わらず、いつものように、食べて動いて眠る。



久しぶりにカイロプラティックに行った旦那。近くのお気に入りのレストラン通りに行って、お土産に買ってきてくれたタコスと生メロンジュース。
とっても美味しゅうございました。
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若者たち

2010年09月01日 | ひとりごと
若者たち ザ・ブロードサイド・フォー



「おかあさん、あのさ、ちょっと……」
「どないしたん?」
「頼みあんねん」

昨日の夜、残業で遅くまで会社でいるTから、電話がかかってきた。

日曜の朝にうちから出発。マンハッタンからバスに乗り、ナイアガラの滝見物旅行に出かけた、はずのD君。
駅のプラットホームで、見送るわたしに爽やかに手を振り、「じゃ、行ってきまぁ~す!」とニコニコしてたD君。
「楽しんでおいで~。また木曜に」とわたしも手を振って見送った。

ところが……。
なんとD君、ナイアガラの滝どころか、カナダに入国できなかったらしい……

いくら陸続きだとはいえ、アメリカとカナダは国が違う。当たり前だけど……。
もちろんD君にも、その認識はあった、はず。
が、パスポートだけで大丈夫、だと思っていたのか、それともうっかり置き忘れてきてしまったのか、
そう、ビザです、ビザの証明を持っていなかったので、税関を通してもらえなかったのだった。
多分、彼の乗った観光バスの中では彼ひとりだけ……。

きっと彼は必死で懇願しただろう。
なんとか許してもらえまいかと。
日本からわざわざ来たんです、とか言ったかもしれない。
けれども、ああいう場所で働いている人達は一様にカタい。頭も意思も。仕事柄、それはしょうがないし大事だけれど。

というわけでD君、ひとりスゴスゴと退散してきた。
いったいどういうふうにここまでマンハッタンまで戻ってきたかは不明。
だって、昨日家に戻ってきた時はすでに夜中だったし、今朝もわたしが生徒を教えている時に起きてきて、教えてる最中に「二日早くお世話になりましたぁ~ありがとうございましたぁ~!」と、直立不動で元気に礼を言って家を出て行ってしまった。

幻のナイアガラに、語学学校が終わる11月までに行けたらいいねD君。
そんときゃまたおいで。いつでも歓迎するからね。


コメント (4)
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