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吉田喜重監督『エロス+虐殺』

2008-09-16 18:40:58 | ノンジャンル
 スカパーの707チャンネル「日本映画専門チャンネル」で、吉田喜重監督の'70年作品「エロス+虐殺」を見ました。
 大正12年(1923年)、関東大震災の混乱に乗じて、社会主義者・大杉栄(細川俊之)とその愛人・伊藤野枝(岡田茉莉子)は官憲によって虐殺されます。野枝は28才の生涯の間に3回結婚し、7人の子供を産んでいます。18才で家を出て単身上京し、女性解放運動の創始者・平賀哀鳥(平塚雷鳥のこと)を訪ね、彼女の元で運動に参加しますが、やがて最後の夫である辻と離婚しないまま、以前に平賀の同志であった正岡を愛人とする大杉と同棲を始め、正岡と大杉との三角関係を生きます。大杉は革命の名のもとに一夫一婦制を旧制として切って捨て、フリーセックス主義を唱え、正岡と野枝と同時に付き合う自分を正当化します。そして嫉妬に狂った正岡が大塚に短刀で斬り付ける事件が起き、大塚は傷を負っただけで済みますが、関東大震災の時に官憲によって野枝と野枝の甥とともに絞殺されます。
 一方、1969年には、性に奔放な永子が、性に対して臆病な青年(原田大二郎)とともに野枝たちのことを調べています。その間にも永子は興味本意で売春をし、死にたいという友人に男を紹介したりします。そして最後には青年を誘惑し、自分を抱かせるのでした。

 関東大震災の混乱に乗じて警察が社会主義者の大杉栄とその愛人の伊藤野枝を虐殺した1923年と、この映画が撮られた1969年の出来事が交互に描かれ、最後には混ざりあって終わります。その前にも現代の風景の中に野枝らがいるシーンもあり、時制は意識的に混乱するように撮られています。一つ一つのシーンの意味は非常に難解で、特に1969年の永子と青年を中心としたシーンは断片的であり、意味を捕らえるのが困難で、いわゆる芸術映画的になっています。
 最初に社会主義者とその愛人が虐殺されたと語られるので、その政治的意味を期待していると見事にはぐらかされることになり、実は男女の愛情を描いた映画であることに気付きます。伊藤野枝も正岡も大塚を愛する一人の女性であり、社会主義のいう名のもとに自己を正当化する大塚に正岡と野枝が振り回されるドラマが展開されています。
 1969年のシーンにおいても、抽象的な言葉を抜きにして見ていれば、性の悦楽を享受する永子と、性に臆病な青年のドラマと見ることもでき、そう見れば分かりやすくもなるのでしょう。
 野枝も28年の生涯の間に3回結婚し、7人もの子供を産んでいる恋多き女性なので、その点で永子と共通するところがあるのだと思います。
 そしてこの映画で特筆すべきなのは、その音楽の素晴らしさです。吉田喜重監督の「秋津温泉」でも音楽が効果的に使われていましたが、この映画でも同じことが言えます。音楽を聞くだけのためにでも見る価値のある映画だと思います。