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宮崎誉子『シロネズミ』その2

2012-06-08 04:48:00 | ノンジャンル
 メトロポリタン・オペラの'08年作品『ドクター・アトミック』をWOWOWライブで見ました。主役のオッペンハイマー博士役をジェラルド・フィンリー、作曲ジョン・アダムズ、指揮アラン・ギルバート、演出ペニー・ウールコック、台本ピーター・セラーズ。舞台自体も素晴らしいものでしたが、不協和音の連続の現代音楽を暗譜して歌う歌手の方々には驚嘆せざるを得ませんでした。

 さて、昨日の続きです。
 翌朝、早朝出勤する父親とともに家を出た僕は、車の中で父から「悩みがあるんだろ」と言われ、僕が「お父さんがそうしたように、お父さんの会社を僕も継ぎたいと思っている」と答えると、継がれるほどの会社ではないと父親は言い、経営者になるための大学進学を暗に勧めるのでした。
 今日は勤続30年の可愛いおばあちゃんであるお杉さんにつくことになり、お杉さんは、仕事は楽しく明るくするものだと教えてくれます。昼食に誘ってくれた溝口さんは、僕のシロネズミのためにチーズをくれ、以前同棲していた男のDVに耐えられず、ボクシングを習いだしたら、相手の男もボクシングを習い始め、結局暴力の倍返しをされた話をし、それを聞いた僕は笑ってしまい、溝口さんに叱られます。
 翌日の定休日、僕を公園に呼び出した優子は、ディズニーランドを奢ってくれと僕に言いますが、僕が無理と言うと、やりたいことも行きたいこともない僕らはすぐに別れ、まっすぐに帰宅します。おばあちゃんの食事の用意を手伝い、食事後に、おばあちゃんに紅茶を煎れてあげていると、シロネズミが現れます。いじめられも、苦労してもいない僕が不安に取り憑かれていることを、おばあちゃんに告白すると、涙があふれてきますが、おばあちゃんは、そんなシロネズミは自分が全部食べてやると言ってくれます。
 春休みの最終日、仕事に慣れてきた僕は、職場でシロネズミの気配を感じなくなっていました。父親も「健一は飲み込みが早い」と言ってくれます。溝口さんは定休日にも日雇いの派遣で働いていると言い、他の職場の劣悪な環境を味わうと、ここでの有り難みが感じられるので、そうしていると言います。
 シロネズミが耳の穴をかじる気がして、夜の公園に優子を呼び出すと、僕の話を聞いた優子は「ふ~ん」としか言いません。「先のことを考えすぎると不安になるのよ」としたり顔で言う彼女より、シロネズミがいる
方がまともな気がして、僕は前歯むき出しにして笑うのでした。

 ポンポンと会話がはずんで話が進んでいく文体は読んでいて気持ちよく、両親のことは「父親」「母親」と呼び、育ての親である祖父母のことは「おじいちゃん」「おばあちゃん」と呼ぶ僕の屈折した思い、無数のリストカットの跡がある溝口さんの置かれた厳しい仕事環境、祖父母や社員のお杉さんの優しさと明るさ、それぞれが簡潔な文章の中で分かりやすく描かれていて、気持ちよく一気に読めました。宮崎さん、もっと注目されていい作家さんだと思います。ということで、是非皆さんにも読んでもらいたい作品でした。