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三崎亜記『手のひらの幻獣』

2015-10-28 07:51:00 | ノンジャンル
 三崎亜記さんの’15年作品『手のひらの幻獣』を読みました。『小説すばる』2011年11月号に初出の中編『研究所』と、『小説すばる』2013年12月号~2014年2月号に初出の中編『遊園地』を収めた本です。
 『研究所』 「ここは、檻に囲まれた場所だ。」という文で始まるこの中編は、表出という能力を持つ若い女性である私が、自分の身に起こることを第一人称で語る物語です。私は、その能力を使って、檻の中にいる自分の姿を、念じた動物の姿に変え、観客に見せる仕事をしています。戦前には、この能力を持つ者、すなわち“表出者”はすべて軍の管理下に置かれ、本土決戦における隠し玉として育成されていましたが、戦後になって、民間の5つの会社が独占的に組織化し、表出が暴走しないようにマニュアル化した上で利用していました。私は、この5つの会社の1つに属し、高い表出の能力を持つ社長と“交わった”経験を持っていました。社長の妻の玲子さんは、ライバル会社の社長でもあり、本気で私の会社をつぶしにかかっているように見えます。新しくできた研究所では、戦時中に軍部が利用しようとして、そのあまりの能力の高さから封印せざるを得なかった表出者、つまり表出実体を、コントロール下に置いて再び目覚めさせる実験がなされていて、多くの来賓を招待し、表出実体を目覚めさせる開所式の日に、私は外部からの表出波を防ぐため、表出による『天蓋』で研究所を守る仕事を与えられます。開所日の前に現れた表出実体は、伝説として語り継がれる、美しいナナイロ・ウツツオボエでした。その夜、私は久しぶりに社長と“交わり”ますが、社長の内部は予想をはるかに超えて空虚でした。それは表出の能力を何度も使うことによって生じた結果であり、もし今度また強い表出を行えば、社長は廃人になってしまうかもしれません。開所式の当日、私は研究所の隣の敷地で、禁じられている並列表出を玲子さんが行ない、研究所の中にもう一つのナナイロ・ウツツオボエを出現させようとしているのを発見します。並列表出とは、複数の同じ表出を同方向に同時に行うことにより、非常に強い表出を現出させる方法でした。ナナイロ・ウツツオボエは縄張り意識が強く、同種の表出体を前にすると、暴走します。私は社長が望んでいた、強い表出者との戦いを、玲子さんが実現させようとしているのだと気づきますが、時すでに遅く、枷を外された表出実体は、自分を利用していた者に対する怒りに燃えて、そのあらん限りの力で社長と渡り合い、周囲に衝撃が走ります。その後、ナナイロ・ウツツオボエは一段と輝きを増し、光そのものとなって上昇し、秩序の戻った研究所に、社長の姿はなかったのでした。
 『遊園地』 「六体の相似形の生物が、正六角形の配列で立ち並ぶ。」という文で始まるこの中編は、『研究所』の後日譚です。研究所の事件から12年経ち、39歳になった私は、たくや君と組んで表出を行う仕事をしています。4年前、「子ども夢文化創造事業」により、次世代遊園地が全国5カ所につくられ、子どもだけが入場できる「子どもの王国」の日にはそこに幽霊が出るという噂がありました。たくや君は仕事の帰り、遊園地で誰かが呼んでいると言い、私たちは調査に向かいます。遊園地はドームで覆われ、周囲から隔離されていました。子どもたちは完璧に守られている。違う見方をすれば、厳重な監視下に置かれているわけです。子どもは親に干渉されずに自由に遊ぶことができ、親にとっても、子どもの手を離して息抜きができるとあって、子育て世代からは、おおむね好評をもって受け入れられていました。私たちが排気口から遊園地に入ろうとすると、そこは表出波防御システムによって警備されていて、入ることはできません。翌日、私たちは玲子さんに会いました。玲子さんは自分の会社と私の会社を合併させ、その会社の社長代行をしていて、自分が本当は私がいた会社の社長の実の姉であったことを、私に打ち明けてくれていました。玲子さんらの父親である先代の社長の最期の言葉は、「表出実体を解放しない限り、表出者にとっての戦後は終わらない」というものだったそうです。昨夜のことを玲子さんに報告すると、玲子さんは早速調べてみるとのことでした……。

 『遊園地』の真ん中の辺りから、先を読み進めるのが苦痛になってきて、何とか最後までたどりつきました。細かく書き綴られた架空の話のエピソードと、登場人物の心の動きになかなかついて行けなかったことが、その原因なのかな、とも思います。また、ここまで作りこまれると、逆に息苦しくなってしまうようにも感じたのですが、みなさんはどうお考えになるのでしょうか? なお、上記以降のあらすじに関しましては、私のサイト「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/)の「Favorite Novels」の「三崎亜記」の場所にアップしておきますので、興味のある方は是非ご覧ください。

 →Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/