2008年1月1日(火)「しんぶん赤旗」
新春響き合い対談 3-3
経済界の中から理性の声
9条をもつ国の経済探求
日本共産党委員長 志位 和夫さん
経済同友会終身幹事 品川 正治さん
志位 大企業に社会的責任を
品川 国民がほんとに怒る年
巨額の国債――原因と解決の道は
品川 とくに小泉首相が「改革なければ成長なし」といってから、大きく変わってしまった。すべてが大企業のために規制緩和をするという格好になった。決して、権力からの規制緩和ではありません。大企業がもっと権力に近づくためのものです。
税制の改正でも、すべてそうでしょう。日本は大きな政府でもなんでもないです。国際的にみたら、先進国の中でも国家公務員、地方公務員の数は、アメリカと最低を争っているのが日本の現状です。
志位 だいたいフランス、イギリスの半分程度ですね。
品川 実際には、「大きな政府」というのは一つだけあって、それは政府の国債額、政府の債務が世界一大きいんですよね。しかし、それは誰のために、誰から借りたのかというと、家計部門から企業部門にお金を移すために、政府が国債という格好で借りている。
志位 結局、膨大な国債がどこからつくられたかといえば、もちろん公務員のせいではない。社会保障のせいではない。消費税をつくり、消費税を上げて、消費税で家計から吸い上げたが、社会保障は改悪の連続です。庶民から吸い上げたお金を、まず公共投資に途方もない規模でつぎ込んだ。軍事費はまったくの聖域にして年間五兆円規模の出費をつづけてきた。さらに大銀行の不良債権の処理と称して、税金を湯水のごとくつぎ込んだ。くわえて大企業にたいする減税のばらまきをおこなってきた。こうして借金を増やしたという構図ですね。
品川 ほんとうなら史上最高の利益を上げ続けている企業は、そうやって国民から借りたのなら、企業の責任で返すのが当たり前ですね。ところが、企業の法人税は下げる。そしてさらに大きな成長をという格好です。自分の責任でつくった借金を返すのを、「財政危機問題」と称して、また家計部門の金だけで手当てしようとしているのが、いまの消費税値上げであり、年金の問題であり、健康保険の問題です。
志位 こんなやり方が長続きする道理はありません。空前のもうけをあげている大企業には、ちゃんと借金を返済する責任を負ってもらう。社会保障や暮らしの財源という点でも社会的責任を負ってもらうというのが筋ですね。
品川 国民が直撃されているわけですから、今年は国民がほんとうに怒る年になるだろうと思いますね。
地球環境問題――人類の生存のためのたたかい
志位 さきほど品川さんが、市場に任せてはいけない分野がある、福祉、教育、農業、環境などがそうだといわれましたね。これらの分野というのは、「利潤第一」の市場にまかせてはならない。このことは私も強くいいたいと思います。
品川 その通りです。
志位 二〇〇八年には、環境の問題というのは、いよいよ抜き差しならない大きな争点になってくると思っています。去年COP13(国連気候変動枠組み条約第十三回締約国会議)がインドネシアのバリ島でおこなわれ、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)という世界の科学者が最新の知見でまとめた報告書をふまえて、二〇〇九年を交渉期限として先進国と途上国が温室効果ガス削減目標と対策を検討するという合意をつくりました。IPCCの報告書を読んでみると、恐るべきことが書いてあります。「今後十年から十五年のあいだに、温暖化ガス排出量を減少に転じないと、取り返しがつかなくなる」、つまり手遅れになるということです。
品川 温暖化の暴走がはじまるということですね。
志位 そうです。そういうもとで、ともかく二〇〇九年までに、新しい枠組みをつくろうという合意がされたのは前進ですが、採択文書の草案にあった「世界全体で排出量を二〇五〇年までに半減する」という数値目標は、もり込まれませんでした。数値目標にあくまで抵抗した一番の犯人は、アメリカと日本なんですね。現地の新聞「ジャカルタ・ポスト」が掲載した国際NGOの意見広告では、日米とカナダの三カ国が、いわば「戦犯」として指弾されました。
アメリカは京都議定書から離脱し、国際的な努力に背をむける姿勢をとってきました。日本も議定書で約束した二酸化炭素6%削減の目標は達成どころか、逆に6・4%も増やしています。財界の「自主性」にまかせ、協定をむすんで削減を義務づけないという姿勢です。逆に欧州諸国は、ドイツ、イギリスなどがのきなみ、京都議定書の目標を達成し、さらにもっと削減をやろうとしている。ここには、明らかに、違った型の資本主義があると思うんですね。「ルールなき資本主義」、とくに新自由主義のもとで大企業が“あとは野となれ、山となれ”式の利潤追求競争をおこなっている日米と、大企業にも一定の社会的責任を果たさせるルールのある経済社会をつくりあげてきた欧州と、著しいコントラストがあると思います。
品川 皮肉なことに今年は、北海道洞爺湖サミットがありますからね。(笑い)
志位 このときに、「日米環境破壊同盟」でいいのかと。(笑い)
品川 これは、しばらく待ってくれなんていえる問題ではありませんね。
志位 そうです。ほんとうに待ったなしの課題になっている。人類の生存条件を守るためのたたかいに、今年は新たな英知と力をそそがねばと決意しています。
この問題では、COP13を見ますと、中国を含めて途上国が、温暖化ガスの削減の枠組みづくりに参加し、行動を開始する方向にかじを切った。その発展段階におうじて、責任を果たすという方向に踏み出してきました。途上国も努力をはじめようというときに、日米が一番悪い役割を果たしている。人類社会が生存していくという点でも、いまの日米型の「ルールなき資本主義」、新自由主義型のやり方では、もはや立ち行きません。ここでも社会のあり方の転換が必要となっていることを痛感しています。
品川 これまでの話の総括みたいですけど、貧困の問題にしろ、マネー資本主義あるいは投機資本主義の問題にしろ、地球環境の問題にしろ、日本の資本主義として、いまの路線をそのまま続けていけば、それを克服するどころか、取り返しのつかない事態を招く暴走がはじまりますよというところまできているということですね。
志位 そういうことですね。この道では、どちらを向いても、人間の社会全体の未来がなくなるということだと思います。
ルールある経済社会、そして新しい社会主義
品川 日本の資本主義のまずい姿というのは、はっきりとここらで転換すべきだということでしょうね。
志位 一言でいうと、「ルールなき資本主義」から「民主的なルールある経済社会」に切り替えていくことが求められていると思います。
品川 資本主義よ、人間の目でみてがんばれよというのが(笑い)、私なんかの見方なんですよ。
志位 人間が人間らしく生きられる、そういう経済社会へ。まず資本主義の枠の中でも、大転換が必要だと思います。
品川 同時に、もう資本主義のシステムも行き着くところまで来ているという感じです。私なんかも日常使わない言葉ですが、「新しい社会主義」ということを考えざるをえなくなるんですね。しかもそれは日本共産党のいうようにソ連型ではないものが。そのことを考えることが、ものすごく必要じゃないかと思いますね。
志位 「新しい社会主義」という言葉まで、お聞きできるとは思いませんでした(笑い)。しかし、二十一世紀を展望して、人類の生存と発展を長期の目で考えたら、そこに行き着かざるをえなくなっている。ラテンアメリカで、左翼政権がつぎつぎとつくられていますが、一連の国々で、つぎは社会主義という議論と探求がはじまっています。私たちは、二十一世紀を、資本主義をのりこえた新しい社会への世紀にしていくことも大きく展望しながら、がんばりたいと思っています。
二〇〇八年を新しい前進の年に
志位 今年は、総選挙含みでの政局展開になるでしょう。日本共産党の活動も、そしてご一緒させていただいている革新懇の運動も、大きな前進を刻む年にしたいと決意しています。
目の前の国民の切実な要求を実現する活動に献身しながら、アメリカいいなりから抜け出すこと、大企業から国民生活へと経済政策の軸足を転換させること、この二つの大問題で、骨太でかつ現実にマッチした政策を展開しながら、国民のみなさんの気持ちをつかむ努力をしたいと思います。
品川 ほとんどの問題が二〇〇七年に出つくして、今年はその解決のため英知を傾けて取り組む年だと思います。ご期待申し上げます。私自身もなんとかがんばりますから、一つよろしくお願いします。
志位 お体を大事にされますように。品川さんは私どもからすると百万の援軍という感じがします。革新懇もさらに盛り上げるためにお力をお貸しください。今日は、本当にありがとうございました。
品川 どうもありがとうございました。
日本共産党委員長 志位和夫さん
しい・かずお=1954年千葉県四街道市生まれ。現在、日本共産党幹部会委員長、衆院議員(5期目)。全国革新懇代表世話人。東大工学部物理工学科卒業。党東京都委員会、中央委員会勤務を経て、書記局長などに就任。著書に『日本共産党とはどんな党か』『希望ある流れと日本共産党』『歴史の激動ときりむすんで―日本改革への挑戦』など。
経済同友会終身幹事 品川正治さん
しながわ・まさじ=1924年神戸市生まれ。現在、経済同友会終身幹事、財団法人国際開発センター会長、全国革新懇代表世話人。東京大学法学部卒業。日本興亜損保(旧日本火災)社長・会長、経済同友会副代表幹事・専務理事を歴任。著書に『これからの日本の座標軸』『9条がつくる脱アメリカ型国家』『戦争のほんとうの恐さを知る財界人の直言』など。