朝日新聞の記事です。
「新型コロナウイルスのPCR検査を増やすことで自宅などで隔離療養する感染者を倍増できるなら、国民の接触機会は、国が求める「8割減」でなく「5割減」でも、感染は早期に収まるとする計算結果を、九州大学の小田垣孝名誉教授(社会物理学)がまとめました。経済活動と感染拡大防止の両立の「かぎ」はPCR検査にあることを定量的に示したもので、議論を呼びそうですね。
小田垣さんは、感染拡大防止のために国が施策の根拠の一つとして活用する「SIRモデル」を改良し、公表値を使って独自に計算しています。
SIRモデルは、まだ感染していない人(S)、感染者(I)、治癒あるいは死亡した人(R)の数が時間とともにどう推移するかを示す数式で、1927年、スペインかぜの流行を解析するために英国で発表された。疫学の専門家でなくても理解できる平易な数式で、1世紀を経た今回のコロナ禍でも国内外の多くの識者がこの数式を現実に則して改良しながら、さまざまな計算結果を導いています。
小田垣さんによると、このモデルの難点は、感染者を、他人にウイルスを感染させる存在として一律に扱っている点です。
だが、日本の現実の感染者は一律ではありません。
そこで、無症状や軽症のためPCR検査を受けずに通常の生活を続ける「市中感染者」と、PCR検査で陽性と判定されて自宅やホテルで隔離生活を送る「隔離感染者」の二つに感染者を分け、前者は周囲に感染させるが、後者は感染させないと仮定しました。
さらに、陽性と判定されたらすぐに隔離されると仮定し、検査が増えるほど隔離感染者が増えて感染が抑えられる効果を考慮してモデルを改良し、解き直しました。
「接触機会削減」と「検査・隔離の拡充」という二つの対策によって新規感染者数が10分の1に減るのにかかる日数を計算したところ、検査数を現状に据え置いたまま接触機会を8割削減すると23日、10割削減(ロックアウトに相当)でも18日かかります。
一方、検査数が倍増するなら接触機会が5割減でも14日ですみ、検査数が4倍増なら接触機会をまったく削減しなくても8日で達成するなど、接触機会削減より検査・隔離の拡充の方が対策として有効であることを数値ではじき出しました。
国は1日のPCR検査の能力を2万件まで拡充できるとしているが、実施数は最大9千件にとどまっています。
小田垣さんは「感染の兆候が一つでも表れた時点で隔離することが有効だろう。接触機会を減らす対策はひとえに市民生活と経済を犠牲にする一方、検査と隔離のしくみの構築は政府の責任。その努力をせずに8割削減ばかりを強調するなら、それは国の責任放棄に等しい」と指摘しています。
国がコロナ禍を乗り切る政策判断にあたって根拠とするシミュレーションは、厚生労働省クラスター対策班が担っています。
1日の専門家会議では、同班が算出した「実効再生産数」のグラフが初めて示されました。
実効再生産数は、「ひとりの感染者が周囲の何人に感染させるか」を示す数字で、政策判断の目安として注目されています。
シミュレーションは使うモデルやデータ、前提条件によって結果が大きく変わります。
国の公表する新規感染者数や検査数などのデータは、最新の結果を反映していなかったり、すべての感染者を網羅できていない可能性があったりするなど信頼性に難があります。
そのような中で、計算結果の正しさを主張するなら、計算手法や使う数値などの情報を公開すべきだが、これまで明らかにしていません。
PCR検査の件数がなかなか増えなかった日本では、市中感染者の実像を十分につかめていません。
4月7日に緊急事態宣言が出て以降、国は「行動自粛」によって時間をかせぎ、その間に検査を拡充して医療態勢を整備し、次の波に備える作戦を取ったようです。
全国民を巻き込む施策を続ける以上、政策判断が恣意的であってはありません。
西村康稔経済再生担当相が4日の会見で、今後の政策判断として「科学的根拠をもとに、データに基づいて」を強調したのはこうした理由からでしょうね。
国のシミュレーションはクラスター対策班が一手に握る。詳しいデータの早期公開を実現し、他の専門家の試算も交えながらオープンな議論を進めるべきです。
その過程を経ずして「科学」をかたってはならないことは当然です。
一日も早く詳細なデータを公開して他の専門家による議論を進めないと国民から信頼を得ることはできません。
PCR検査件数の増加と感染者の隔離を行い、早期に感染を終息させてほしい。
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「新型コロナウイルスのPCR検査を増やすことで自宅などで隔離療養する感染者を倍増できるなら、国民の接触機会は、国が求める「8割減」でなく「5割減」でも、感染は早期に収まるとする計算結果を、九州大学の小田垣孝名誉教授(社会物理学)がまとめました。経済活動と感染拡大防止の両立の「かぎ」はPCR検査にあることを定量的に示したもので、議論を呼びそうですね。
小田垣さんは、感染拡大防止のために国が施策の根拠の一つとして活用する「SIRモデル」を改良し、公表値を使って独自に計算しています。
SIRモデルは、まだ感染していない人(S)、感染者(I)、治癒あるいは死亡した人(R)の数が時間とともにどう推移するかを示す数式で、1927年、スペインかぜの流行を解析するために英国で発表された。疫学の専門家でなくても理解できる平易な数式で、1世紀を経た今回のコロナ禍でも国内外の多くの識者がこの数式を現実に則して改良しながら、さまざまな計算結果を導いています。
小田垣さんによると、このモデルの難点は、感染者を、他人にウイルスを感染させる存在として一律に扱っている点です。
だが、日本の現実の感染者は一律ではありません。
そこで、無症状や軽症のためPCR検査を受けずに通常の生活を続ける「市中感染者」と、PCR検査で陽性と判定されて自宅やホテルで隔離生活を送る「隔離感染者」の二つに感染者を分け、前者は周囲に感染させるが、後者は感染させないと仮定しました。
さらに、陽性と判定されたらすぐに隔離されると仮定し、検査が増えるほど隔離感染者が増えて感染が抑えられる効果を考慮してモデルを改良し、解き直しました。
「接触機会削減」と「検査・隔離の拡充」という二つの対策によって新規感染者数が10分の1に減るのにかかる日数を計算したところ、検査数を現状に据え置いたまま接触機会を8割削減すると23日、10割削減(ロックアウトに相当)でも18日かかります。
一方、検査数が倍増するなら接触機会が5割減でも14日ですみ、検査数が4倍増なら接触機会をまったく削減しなくても8日で達成するなど、接触機会削減より検査・隔離の拡充の方が対策として有効であることを数値ではじき出しました。
国は1日のPCR検査の能力を2万件まで拡充できるとしているが、実施数は最大9千件にとどまっています。
小田垣さんは「感染の兆候が一つでも表れた時点で隔離することが有効だろう。接触機会を減らす対策はひとえに市民生活と経済を犠牲にする一方、検査と隔離のしくみの構築は政府の責任。その努力をせずに8割削減ばかりを強調するなら、それは国の責任放棄に等しい」と指摘しています。
国がコロナ禍を乗り切る政策判断にあたって根拠とするシミュレーションは、厚生労働省クラスター対策班が担っています。
1日の専門家会議では、同班が算出した「実効再生産数」のグラフが初めて示されました。
実効再生産数は、「ひとりの感染者が周囲の何人に感染させるか」を示す数字で、政策判断の目安として注目されています。
シミュレーションは使うモデルやデータ、前提条件によって結果が大きく変わります。
国の公表する新規感染者数や検査数などのデータは、最新の結果を反映していなかったり、すべての感染者を網羅できていない可能性があったりするなど信頼性に難があります。
そのような中で、計算結果の正しさを主張するなら、計算手法や使う数値などの情報を公開すべきだが、これまで明らかにしていません。
PCR検査の件数がなかなか増えなかった日本では、市中感染者の実像を十分につかめていません。
4月7日に緊急事態宣言が出て以降、国は「行動自粛」によって時間をかせぎ、その間に検査を拡充して医療態勢を整備し、次の波に備える作戦を取ったようです。
全国民を巻き込む施策を続ける以上、政策判断が恣意的であってはありません。
西村康稔経済再生担当相が4日の会見で、今後の政策判断として「科学的根拠をもとに、データに基づいて」を強調したのはこうした理由からでしょうね。
国のシミュレーションはクラスター対策班が一手に握る。詳しいデータの早期公開を実現し、他の専門家の試算も交えながらオープンな議論を進めるべきです。
その過程を経ずして「科学」をかたってはならないことは当然です。
一日も早く詳細なデータを公開して他の専門家による議論を進めないと国民から信頼を得ることはできません。
PCR検査件数の増加と感染者の隔離を行い、早期に感染を終息させてほしい。
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