今年の優秀吟は和歌の部にエントリーした。課題吟は伊勢大輔「いにしへの」である。これは、かつて奈良の都に咲いていた「八重桜」が、いま宮中に届き咲き匂うという即興吟である。和歌の吟じ方では八重桜の余韻のひき方が一番難しい。今日は特訓で、この余韻を力強いなかにも、桜の柔らかな雰囲気を出すように何度も練習した。
いにしへの奈良の都の八重桜 今日九重ににほひぬるかな 伊勢大輔
奈良の都、平城京は710年に藤原京から遷都した。中国の都を模した作りの平城京で藤原京の倍もの規模を誇り、人口は20万もあったという。古代では最大の都である。だが、730年ごろ都には疫病が蔓延した。時の政権中枢の人物がこの疫病のため相次いで死亡している。そのため、遷都して20年ほどでそこを避けてさらに新しい都に移ることを余儀なくされる。奈良の都は荒れて、追憶の都として詠嘆されることが多い。
世間(よのなか)を常なきものと今ぞ知る 奈良の都のうつろふ見れば (万葉1045)
この時代、すでに仏教的な無常観が都に住む貴族に広がっていた。伊勢大輔はこの歌を踏んで詠んだように思う。さらに、小野老に奈良の都を詠った歌がある。
あをによし奈良の都は咲く花の にほふがごとく今盛りなり 小野老
こう見てくれば、伊勢大輔が万葉の歌にねれ親しんでいたことが知れる。万葉から新古今、百人一首へ、和歌の伝統は今日まで連綿として読み継がれていることにいまさらのように感銘を受ける。
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