木瓜は木の爪と書くが、これは木に棘を持っているからであろうか。緋木瓜、白木瓜、更紗木瓜などの種類は多いが、一番よく見かけるのは緋木瓜で、その真紅の色が印象的。この花が咲くと思い出すの夏目漱石の句だ。
木瓜咲くや漱石拙をを守るべく
陶淵明の詩に「拙を守りて田園に帰る」という句があるが、守拙は漱石の生き方の基本であった。世渡りの下手なことを気にせず、あえて節を曲げない愚直な生き方である。博士号を与えようとした文部省の申し出を断り、自説を貫いたことも漱石の生き方の一端であった。
梅が散り、桜が咲くと、人はその花のもとに集まるが、庭の片隅にひっそりとさく木瓜はそんなはなやかさはない。『草枕』にこんな文がある。「木瓜は面白い花である。枝は頑固で、かって曲がったことがない。そんなら真直かと云ふと決して真直でもない。評して見ると木瓜は花のうちで、愚かにして悟ったものであろう。世間には拙を守ると云ふ人がある。此人が来世に生れ変ると屹度木瓜になる。」漱石は木瓜の花を見て、こんなことを考えていた。