
台風が去ると、涼しい風が吹く。やり切れない暑さを、忘れることができる瞬間だ。昨日、立秋を迎えた。もう夏が去るのかとと思うと、何となくさびしい気もする。和歌にも、そんな瞬間をとらえた歌がたくさんあるが、中国の漢詩にも、その境地を詠んだ詩がある。古今東西、詩を作る人は、季節に敏感であった。
秋風の引 劉禹錫
何処よりか秋風至る
蕭蕭として雁群を送る
朝来庭樹に入るを
孤客最も先んじて聞く
劉禹錫は中唐の役人である。出世とは縁遠く、20年を超える左遷生活を送っている。詩のなかで孤客と自分を表現しているのは、長く都に帰れない淋しい境遇の故であろう。雁の群れが都のある南へ飛び立つのも、自分にはできない帰郷を、言外に表現している。
この左遷の地のさびしい境遇の詩人に配して、先日白馬岳に咲いていたシモツケソウを添えて見た。厳しい環境のなかで咲いているが、その美しには目を見張るものがある。逆境のなかにあっても、人はきよらかな生を実現することができる。