
戦争の記憶は、日に日に遠くなっている。昭和20年8月15日、昭和天皇はラジオ放送を通して、戦争の終結を発表した。この放送を聞いた人は70台後半以上の人々である。私はその時、4歳を過ぎていたが、壊れかかったラジオの前に家族が集まっていたことは記憶しているが、その放送がどんな内容であったか、理解できなかったというのが本当のところだ。
徳川夢声は『夢声終戦日記』に、その放送の様子を克明に記している。「玉音が聞こえ始めた。その第一声を耳にした時、肉体的感動。全身の細胞ことごとく震えた。・・・朕深ク世界ノ大勢ト帝国ノ現状トニ鑑ミ非常の措置ヲ以テ時局ヲ収拾セムト欲シ・・・何と清らかな御声であるか。足元の畳に、大きな音をたてて、私の涙が落ちていった。」
この玉音放送を境として、日本社会の価値観に大転換が起こる。聖戦から戦争反対へ。戦争責任について国民的な論議が起こらぬままに、戦後の復興へと、人々の進む道が敷かれたように思う。終戦から72年、平和ボケという言葉を、気軽に使う人がいる。憲法を変えて、9条に自衛隊を明記すると、時の政権は声高に主張している。今こそじっくりと、戦後の日本が歩んで来た道を、見つめ直さなければいけない。あの悲惨な戦争への道は、どうしても避けなければいけない。