常住坐臥

ブログを始めて10年。
老いと向き合って、皆さまと楽しむ記事を
書き続けます。タイトルも晴耕雨読改め常住坐臥。

稲の花

2017年08月12日 | 日記


稲の花はおよそ目立たない花である。散歩の途中、出穂している稲をみて、なにか白いゴミのようなものが付いているくらいにしか思わない。稲を育てている農家の人を除けば、この花に注目する人はほとんどいないと言っていいだろう。私に稲の花の美しさを教えてくれたのは、小川紳介監督の映画「ニッポン国古屋敷村」である。小川監督は、三里塚で成田空港の建設に反対する農民運動を農民と生活を共にしながら映画に撮り、ドキュメンタリー映画「三里塚」を制作した。このシリーズの完成後、監督は上山市の東の山中にある古屋敷に、スタッフとともに移住し、農業を営みながら5年がかりで作り上げたのが、「ニッポン国古屋敷村」である。1882年のことである。

映画の完成後、山形市の映画館で、小川監督の舞台挨拶とともに封切られ、観ることができた。村の生活や歴史、祭りでの獅子舞や村の風習、養蚕、炭焼き、山から吹き下ろすヤマセ、そして稲の生育が丁寧に撮影され、稲の花が登場する。コマを早く回す工夫をしたためか、クローズアップされた花の開く様子が、アニメーションのように展開される。この花の美しさは、よほど衝撃的があったのだろう。この後、田んぼで稲の出穂が始まると、注意して花を見るのが習慣になった。カメラを趣味にするようになってからは、年に一度は必ず稲の花を撮影する。

小川監督はその4年後、映画「1000年刻みの日時計 牧野村物語」を発表、ベルリン映画祭国際批評家連盟賞を受賞する。また監督は山形市で「国際ドキュメンタリー映画祭」の開催を提言したことでも知られる。この映画祭は、いまなお継続され、日本有数の映画祭として知られることになった。小川監督は、1992年直腸がんを発症、肝不全のため56歳の若さで世を去った。

古屋敷には何かと縁がある。その奥の萱平には、山形岳風会の吟魂碑があり、年に一度は除草と清掃に出かける。その度に、古屋敷の村の中を通り、春の山菜取りにも何度も訪れている。
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