猩紅という漢語がある。昨日の朝みた朝焼けの色は、猩紅という言葉にふさわしい濃い赤であった。漢和辞典を引くと、猩々は想像上の動物で、猿の一種とある。猩々の血は、真紅であると語り継がれてきた。真夏の朝の空が赤く焼けることで、日中の暑さを予告する色でもある。東方に居座っていた、オホーツク高気圧が勢力を弱め、やっと真夏が訪れる予兆でもある。横にたなびく雲の姿が、朝焼けのアクセントになっている。
屋上にみし朝焼のながからず 加藤 楸邨
朝の目覚めが早い老いの身であっても、こんなに赤い朝焼けはめったにみることはできない。老いるということは、かって感動したものごとを再認識することである。それらは老いた身には、さらに深みを持ち、姿をかえて立ち現れてくる。一つの景色、読書の感動、人とのつながり、どれもがかつて見たものとは違って見える。一期一会という言葉の重みは、一日を送るごとにその重みを増していく。