ためらいながら近づいてくる春。温かくなったと思ったら、寒中さながらの寒さが戻る。こんな現象を「冴え返る」と言っている。やるせない気持ちに打ちひしがれたり、もう少しで春と、気を強く持つ今日この頃である。
山がひの杉冴え返る谺かな 芥川龍之介
芥川はこの句の詞書に高野山としている。大正10年、中国へ旅行した後、神経衰弱に悩まされる。そのなかで一番苦しんだのは、不眠症である。睡眠薬を常用するようになり、中毒症状を起こす。幻覚、食欲不振、全身懈怠、めまいなど。しかし、その症状を抱えながら、小説や評論を実によく書いた。俳句もせっせと作り続けた。