立春を過ぎて、室内ではクンシランの蕾が開き始めた。しかし、寒気の残る外は雪。札幌の友人たちは、この冬の寒さを嘆いている。寒いことなど馴れっこのはずの人たちが、寒いというのはよほどこの冬の寒さが特別なのだろう。折からインフルエンザの流行の兆しも見えている。外出して帰宅した嗽、手洗いを励行して注意するに越したことはない。
立春の雪のふかささよ手毬唄 石橋 秀野
中国の古書に、立春の日には卵が立つ、いう記事があり、中国の外交官がそれを試みたところ実際に10個もの卵が立ったので、世界中のマスコミを賑わせたことがあった。卵が立った様子を写真入りで紹介すると、ニューヨークでそれを試みて成功した様子が報じられた。日本の朝日新聞にもその記事が掲載された。1945年、太平洋戦争も終わりに近づいた頃である。
コロンブスの卵という話がある。これは、コロンブスが卵は立つと主張し、大勢の人が試みたが誰も立てることができない。コロンブスはおもむろに卵の先を、すこし割ってつぶして立てた。できないと思っても発想を転換させればできるという話で、見知らぬ世界を見つけたコロンブスの発想はすごいと広まったものだ。それほど、卵が平面に立つはずがないと常識的に考えられていた。
立春の卵のニュースが世界をあまり騒がせたので、この謎に挑んだのはわが国の物理学者中谷宇吉郎である。北大で長く教授を勤め、雪の研究の権威でもある。そもそも立春に関係なく卵は立つと考え、自宅の卵を取り出して試みたみた。出勤前に試みてみたが、時間がなく失敗した。ゆっくり時間のとれるときに試したところ10分ほど立たせることができた。次に卵を茹でて立てたところ、これはすぐに立った。顕微鏡で卵の表面を観察すると、筋状の凹凸があり、波形をしていた。その間隔が8/10mmということがわかった。この間隔があれば、0.5mm程度の精度で中心をとれば卵は立てることができる。これが中谷教授の結論であった。