常住坐臥

ブログを始めて10年。
老いと向き合って、皆さまと楽しむ記事を
書き続けます。タイトルも晴耕雨読改め常住坐臥。

漱石の漢詩

2019年05月29日 | 詩吟

詩吟の教室は毎週火曜日である。先週に続いて、教室で詩吟を教わっている内に雨が降ってきた。畑で待ち望んでいる雨が、この日に降るのはいいことである。教わった吟題は夏目漱石の「春日偶成」である。明治45年の作品である。この題名で、漱石詩集には5言絶句10首が収められている。教室でのものは、其の一である。

道う莫れ風塵に老いゆと

軒に當りて野趣新たなり

竹深くして鶯乱れ囀り

清昼臥して春を聴く

年譜を見ると、寺田寅彦から頼まれた漢詩、湯浅廉孫から絵を頼まれていたが、湯浅にも漢詩を送っているから、5月24日に作った漢詩は10首の内のものを送ったらしい。吉川幸次郎氏の考察によれば、この10首が一日できたものとは思われない、とされる。風塵はうき世の塵。當軒はベランダに出てみれば。野趣は自然の素朴で健康なおもむき。聴春は吉川博士は、従前の詩人の用例はないと解説している。

この年漱石は46歳、老いという言葉がふさわしい年代ではないが、明治43年の8月には、宿泊中の修善寺で胃から大吐血する大病となり生死の境をさまよった。こんな体験が、この言葉を使わせたのかも知れない。この大病のあたりから、漱石は漢詩を多く作るようになっている。若い時代に親しんだ俳句を離れ、小説の執筆を終えると、半日ゆっくりと漢詩の推敲に時間をかける日が続いた。

詩意に難しいところはない。詩の流れは、漱石の心境をよく映し出しているように感じられる。外は雨だが、初夏のよそおいで玄関先に、ニゲラの可憐な花が咲いていた。

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