桜、花桃に続いて花をつけるのは、実のなる木。リンゴ、サクランボが名乗りをあげる。リンゴの花は美しく、アメリカでは実をとるより、鑑賞用として栽培されることがあるらしい。リンゴには子どもの頃の思い出がある。北海道に生まれ育ったのだが、近所のにはリンゴを栽培する農家があった。酪農、ジャガイモ、リンゴなど、開拓に入った農家は思い思いの農業を行った。小さな農村であったが、稲は栽培できず、その農村がひとつの特徴を持つのではなく、それぞれ違う作物を収穫していた。
リンゴは花が終わると、間もなく実がつく。摘果して一つ枝にほどよく実を生らせると、次の作業は袋かけである。10㌢×7㌢ほどの新聞紙でできた袋に、針金をつけ、実全体覆うと枝のところで止める。虫がつくののを防ぐためである。この作業が始まると、小学生であった私にも手助けの依頼が来た。たしか、袋一枚が10銭とかだったと思うが、学校から帰って半日で小遣い稼ぎができた。学校の近くにあったお店で、鉛筆や消しゴム、飴玉など買うことができたのでうれしかった。
リンゴ農家には、青森や秋田から泊りがけで来る出稼ぎの人たちがいた。作業をしながら、大きな声で民謡を聞かせてくれた。小学校の子どもには、まだ意味のよく分からない歌詞があり、大人の世界を覗くような気がしてどきどきした。「わたしや、この町の梅の花。あなたあの町のウグイスよ。花の咲くのを待ちかねて、つぼみのうちからかようてくる」。お国訛りがひどくて、何を言っているのか分からないが、こんな民謡から、男と女の世界を学んだような気する。
夢のいろのうす紅や花りんご 及川 貞