令和になって、最初の登山は山形神室である。心配された天気も、どうにかもち、午前中は霧、お昼ごろから日がさし、周囲の山々の眺望も得られた。その名も神室、特異な山容から、神の住む山という意味もあるらしい。新元号のもと、登山を趣味としている天皇陛下の即位にふさわしい記念すべき登山になった。
参加者は6名、笹谷峠の駐車場に8時集合と決めた。曇りの予報が、霧が上がるにつれて、陽ざしが見え始めた。関沢を越え、向うに見える山中に山桜が咲いていた。柔らかな緑の葉に交じって、点景のように咲いているのだが、全山に咲いているような印象を与える。山桜の多さ、その美しさを改めて知らされる。
しき島のやまと心を人問わば朝日ににほふ山桜花 宣長
山の雑木の芽吹きに先立って、咲き匂う山桜は、なるほど日本人の心にあるふる里の風景である。笹谷峠の駐車場の標高は900m、ここに車を置いて出発する。麓で見えていた青空も、ここまでくると深い霧がたちこめている。
目を木々に向ければ、枝に芽の小さな姿が見て取れる。日当たりにいい足元には、可憐なキクザキイチゲがぽつぽつと咲き、消えたばかりの雪の跡から、うす緑のフキノトウが顔を見せている。山に来るたびに思うのは、わずか1300ⅿの山でるのに、麓から高度を上がるにしたがって、初夏から春、そして雪解けと多彩な季節が混在することだ。
笹谷というだけに、登りはじめは道を覆うように笹が茂っている。刈り払いの前なのか、泥の中から立ち上がった葉が、容赦なく衣服を汚す。登り始めて小一時間、最初のピークハマグリ山に着く。この地点で後ろから、若い一組のカップルが登ってきた。若い二人が助け合って登る姿がほほえましい。霧はなお晴れる様子がない。霧雨のような霧で、衣服が濡れる。ここで雨具を着用。ハマグリを過ぎて、トンガリ山に向かうあたりから、登山道に雪解け水が流れれて小川のようになっている。一歩一歩、下を確かめながら、歩を進める。
トンガリ山を過ぎたあたりから、残雪が細尾根の道をふさいでいる。ここで、アイゼンを装着、慎重に細尾根を過ぎる。急な勾配の下り坂のところにも残雪。ここは尻セードで時間をかせぐ。次第に暖かい空気が吹き始める。急坂を登るのに加え、気温が上がったため、汗が流れる。雨具を脱ぎ、心地よい風を入れる。
雪解けと残雪、高山の花やフキノトウ、早春と冬の名残を同時に感じ取れる、令和最初の登山であった。頂上に着いたのは、駐車場を出て2時間10分、11時20分であった。
ここで、車座になって昼食。持参した弁当を分け合って食べる。次第に霧が晴れ、少しづつ辺りの景観が見えるようになる。10連休、会の予定表にない山行であったが、やはり山歩きは楽しい。西の空には、カーテンを半分だけ開けたように残雪の朝日連峰が見え始めた。目を正面に向けると、蔵王連峰。
東には仙台の街が見え、その向うには思いなしか、海が広がっているようでもある。
雪残る頂一つ国境 正岡 子規
下山は早い。休憩をとりながら、約2時間で駐車場につく。長い連休を、一日心地よい汗を流した山行となった。