
今朝、放射冷却で気温がさがった。藪にある野ブドウの色も深みを増してきた。先ごろまでは、台風の接近で、真夏のような気温で、身体にだるさを感じたが、今朝から朝の挨拶は、「寒いですね」に変わった。台風の状態は、時々刻々と、テレビやネットで入ってくる。情報が先取りできる時代になっても、千葉のような大きな被害が出るのが台風。まして、19号は15号より規模も風速も大きいようだ。千葉と静岡に、近親者がいるので、なんとか海上の東へ、進路を変えて欲しいと願うばかり。
昔、映画に「タワーリング・インフェルノ」というのがあり、その後井上光晴の小説『明日』が書かれた。映画は、タワービルの大火災、『明日』は長崎に原爆が投下されたことがテーマになっている。映画も小説も、その惨劇が起きるまで、人々は、少しも惨劇を予想することなく、その瞬間を迎えている。人々の日常の楽しみや、営みを綿密の描くことによって惨劇の痛ましさの大きさを浮き彫りにした。
大岡昇平の『武蔵野夫人』は、昭和22年のキャスリーン台風が、その舞台になっている。終戦後の混乱した社会で、人々は台風の情報にも接することはできなかった。この小説のヒロインも、台風が迫っていることを知らずに、武蔵野の原を歩いていた。
「風が梢を鳴らし始めた。湖面はいつか一面の三角波に蔽われていた。その白い波頭をならすうに、湖心の風の脚が移っていくのが見えた。雨が頬に当たってた。二人は立ち上り、道まで引き返した。武蔵野はすでに煙り、雲が一面に低迷していた。貯水池の中央を区切る第二の堰堤を渡る時、二人は絶間のない強い風に吹かれた。(中略)横なぐりの濃い雨が急に襲ってきた。二人は急いで長い堰堤を渡り、袂の茶屋に駆け込んだ。」
キャスリーン台風は、マリアナ諸島付近で発生し、勢力を増しながら日本列島に接近、遠州灘の沖合から房総半島をかすめて、三陸沖へと去った。気圧960㍊、風速45mを記録している。房総へ接近してから、勢力を弱めたため大きな被害は出なかった。それでも、武蔵野を歩くカップルを驚かせるには、充分すぎる強さであった。19号の進路は、キャスリーン台風よりやや西より、しかも勢力範囲800㌔もの大型だ。19号は915hpa、最大風速55m、瞬間風速75m、が現在の勢力である。東海から関東に近づく週末のには、やや勢力を弱めるものの、いかに大きい台風かがわかる。一昨年は大阪で、今年は千葉で大きな傷あとを残した台風。19号の被害が少しで小さいことを祈る。