
朝の時間を充実させてくれるもの、それは山の端から登る太陽の光と、食卓の一椀のみそ汁だ。朝起きて、先ず四方の窓を開ける。寒い朝でも、朝の空気が部屋に入ってくると気持ちがいい。見なれた山々の姿を見ると、今日も一日元気で過ごせそうな気がする。部屋中に掃除機をかける。一膳のご飯、野菜を少々、明太子とみそ汁で一日が始まる。
貧しいなながらも、子どもの頃に飲んだみそ汁の味が忘れられない。戦後の食糧難の時代であったが、味噌だけは自家製であった。畑で収穫した大豆を茹でて豆つぶしの機械でつぶして、樽の中で塩と混ぜ合わせて保存する。一年ほど経つと食べられるが、二年位置いたものの方が味がよかった。煮干しの出汁だが、どんな具にもマッチして、ご飯をおいしくしてくれた。
俳人の楠本憲吉に『みそ汁礼賛』という本がある。楠本も母の作ったおふくろの味が忘れられないらしい。日本の味のシンボルとしてみそ汁をあげている。四季の旬の食材を具にして、四季のそれぞれの味を楽しんでいる。味噌をすり鉢ですったり、カツオ節を削ったり昆布だしをとったり、おいしいみそ汁をつくる方法が紹介されている。
わが家では手間のかかることはもう一切しない。味噌も出汁も、お隣のスーパーに美味しいものが手軽に買える。具にはそれこそ旬の野菜、豆腐やワカメなど選択するのが大変なほど豊富だ。我が家のプチ贅沢は、一粒の牡蠣と数粒の銀杏が入っていることだ。冷凍になっているのを買うので一年を通して欠かすことはない。銀杏は親戚の家にある大きなイチョウの木なったものだ。これも鬼皮を剥いて、生のままで冷凍してある。たまには、山で見つけたナメコが入れば最高の贅沢になる。