
東根温泉は山形市から国道13号線を北上、約20㌔ほどの田園地帯にある。天童を過ぎ、東根と楯岡の境であるが、この辺りまで来ると雪が深くなるのが周りの景色を見ただけで分かる。西方に聳える葉山、月山が屏風の役目を果たして雪の降る地域が決まる。この辺りから南下していくと、積雪は次第に少なくなり街が形成されて行ったことが理解できる。
東根市のほぼ中央に東根小学校があり、校舎内にある大ケヤキは樹齢千年を超える国の特別天然記念物に指定されている。昨年12月に降った大雪で、大きな枝が折れたことがニュースになった。温泉からここを目指してウォーキングを試みたが、深い雪道で歩き切ることはできなかった。この学校の敷地は、かっての東根城の本丸跡で、戦国時代には小城下町として、8千石の領地であった。最上氏が勢力を伸ばす中で、ここの城主も破れ、最上氏が支配することになった。
東根温泉にはもう数え切れない位来ているが、この温泉が湧出したのは明治43年のことである。その年は干ばつに悩まされ、地主が灌漑用の掘り抜き井戸を掘っていたところ、温度43度の温泉が噴き出したという。その近辺は、温泉を目当てに掘削が行われ、翌年には50本の温泉が掘られ、田んぼのなかに突然温泉街が出現した。東根温泉から道を歩くと、どこまでも雪原が広がっている。雪の下は田である。

6、7日と東根温泉に泊まる。妻と二人だけで温泉に行くことは余りない。正月の二人暮らしで不都合はないが、家事抜きで温泉でゆっくりするのも、この年になれば、ちょっとした贅沢でもある。温泉に行っても、特別の話題ができるわけでもない。日常にはない、ゆっくりと流れる時間。いつでも入ることができる温泉。ここ20年ほど経験したことのない寒気。宿の室内では、冬の台風のような気候にも気を使う必要もない。
テレビから流れてくるのは、コロナの感染の拡大だ。感染者の数は、毎日最高を更新、日に1万人も視野に入っている。温泉は多分100人単位の客を受け入れる規模だが、この二日止まり客は、我々二人の夫婦のみ。偶然ではあるかも知れないが、二人だけの客にサービスの人たちが雪のなかを出勤してくるのは申し訳ないような気もする。大雪とコロナが、忘れることのできない温泉旅行を実現してくれた。