新潟県三条市と加茂市の間に位置する粟ヶ岳は、この地区に住む人にとっては一番の山だ。山形の蔵王、酒田の鳥海、静岡の富士山というところである。日曜日のこの日、大勢の登山者がこの山の頂上を目指した。登山口へ朝8時に着いたのだが、すでにこの山に入った人の車が数十台停車している。どこに車を置くか、それが一番目の問題であった。登山口にダムでせき止められた貯水池がある。先ず、その水に映る新緑と青空、ウツギの花が映えて目をみはる美しさだ。
新潟の山には大きな特徴がある。それは登山口が、非常に低い標高にあることだ。背後に日本海が広がり、海抜の低いところからの出発となる。今回の粟ヶ岳では、200mの標高が登山口だ。粟ヶ岳は1,296mというさほど高いとは言えない山だが、この低い登山口のため、標高差1000mの登高を強いられる。山形の瀧山は標高1362mだが、蔵王温泉から登るとすでに900mの標高があり、その標高差は約400mだ。山を登るという意味では、粟ヶ岳は瀧山の2倍半のタスクを必要とする。
標高が低いということは、登山口付近の景観がすばらしい。しっかりした登山道の両脇はしたたるような新緑だ。こんな景観を求めて地元の登山愛好家が集う。登山を愛する人と言えば、中高年ということになるが、この山では違った。もちろん、中高年の登山者もいるが、若い登山者多いというのがこの山の特徴のような気がする、山の本で紹介されているファッションに身を包んだ若い女性が我々を追い越して言った。思わず「山ガール」と言うと、満面の笑みで「はい」と答えて、ずんずんと登っていった。日曜日とあって、小学校の子を連れた家族が二組、小さな身体をきびきびとこなして登って行った。
新緑の中を歩くと足取りが軽くなる。同じ道を下って初めて気がつくが、こん急な道を登ったのかと驚くほどの道を、さして気にするほどもなく歩いている。新緑の上にには、青空が心地よく広がっている。そんな非のいちろこどもないような山道で、ヤシオツツジあう感動は言葉に尽くせない。けがれのない美しさ。すぐ近くに残雪があるので、カタクリの花の群落、イワカガミの鮮やかなピンクの花など早春の花が見られる。登り口の初夏の新緑から、1000mを越えての早春と二つの季節を同時に楽しめるのも登山の魅力だ。
粟ヶ岳の頂上が見えるのは、北峰に登ってからだ。北斜面に残雪が残り、新緑とのコントラストがすばらしい。頂上には登頂を終えた人の姿が小さく認められる。下山してくる人たちに聞くと、大層な賑わいらしい。これも登山を愛好する新潟県の県民性のなせるわざか。行き会う人たちのマナーもすばらしく、ここを訪れてよかったと思う。我がチームは6名、内二人が女性だ。マイペースでゆっくり登ったため、登山口を出て頂上に着いたのは1時であった。頂上からは360℃の展望が得られる。雪をいただく越後の山々、飯豊連峰、そして会津磐梯山を盟主とする会津の山々。ここに来て、周りを数え切れない山々に囲まれているを実感する。澄み切った青空、汗をかいた肌を撫でる冷風、登山の醍醐味を満喫した一日であった。