今日、全国的に真夏を思わせる夏日。ここ山形でも、29℃を記録した。新緑を求めて、旧会津街道の檜原峠へ。予想を上回る気温の上昇のなか、新緑のすばらしさと、山中の冷気を堪能した。旧会津街道は、伊達輝宗、政宗、蘆名盛高、穴沢守俊など戦国大名の名をとどめる歴史の道である。後にこの道を通る大峠や栗子隧道の完成によって、物流の道として、この街道は人々に忘れられる存在となるが、戦国から江戸にかけて、道は距離が短いことが何よりも優先された。急峻な道をものともしない兵が、この峠道を越えて、覇権を競ったのである。江戸時代には、金山が発見されてこの地は栄え、檜原宿が賑わいを見せた。
峠道は、平成になって完成した綱木ダムの上流、綱木川の渓谷に沿って、かすかにその跡をとどめている。長持岩、おたすけ茶屋、小峠、大峠など歴史を語る目印が目につく。渓流を渡渉すること5度、さしたる危険もなく街道らしい山道に着く。沢筋には、二輪草やゼンマイなどの山菜のほか猛毒を持つトリカブトも群生していた。山中は静かで、今日の山行仲間(11名)、話し声や笑い声だけが聞こえる。鳥の鳴き声も小さい。所々にクマの糞が、乾燥して落ちている。快晴、青空のなかの新緑はどこまでも目にやさしい。
万緑をかへりみるべし山毛欅峠 石田 波郷
この時期、沢筋を歩くもう一つの楽しみは山菜である。この日見つけて、家づとにした山菜は、アイコ、クワダイ、コゴミ、ミズ、ササタケ。どの山菜も、隣には勢いよく伸び、ちょっと見にはおいしそうに思える猛毒のトリカブトが群生している。細心の注意が必要だ。そして、沢筋に咲く高山の花もひっそりと、高貴なたたずまいを見せる。サンカヨウの白い花に交じって、エンレイソウのエンジ色の花もかわいい。キクザキイチゲや二輪草も随所に咲いていて見ごたえがある。
歩き始めて、約2時間。終点の境塚に至る。戦国の兵士たちを弔った塚でもあろうか。林道のような峠道はこれから先は、福島県になる。
峠にたつとき
すぎ来しみちはなつかしく
ひらけくるみちはたのしい
詩人の真壁仁は「峠」でこう書いているが、戦国の世の人々は、この道に立ってどのようなことを感じたのであろうか。こんなことを考えながら歩く、峠歩きは楽しい。