リンゴの花を見ると、昭和の名曲「リンゴ追分」が思い出される。昭和27年ラジオ東京の開局記念番組として『リンゴ園の少女』が放送された。「リンゴ追分」はこのドラマの挿入歌として歌われた。昭和27年といえば、敗戦がなお色濃く残る社会であった。そこに出現した天才少女歌手の歌声が、人々の心に沁みわたった。美空ひばりが、名実ともに歌手として、映画の女優として確固たる地位を築いたのは、この名曲の大ヒットによると言っても過言ではない。
リンゴの花びらが 風に散ったよな
月夜に 月夜に そっと えええ……
津軽娘は ないたとさ
つらい別れを ないたとさ
リンゴの花びらが
風に散ったよな あああ……
台詞
「お岩木山のてっぺんを綿みてえな白い
雲が、ポッカリポッカリ流れてゆき、
桃の花が咲き、桜が咲き、そっから
早咲きのリンゴの花ッコが咲く頃は、
おら達のいちばん楽しい季節だなやー。
だどもじっぱり無情の雨コさ降って白え
花びらを散らすころ、おらあ、あのころ
東京さで死んだお母ちゃんのことを
思い出すて……おらあ……、おらあ……」
津軽娘は ないたとさ
つらい別れを ないたとさ
リンゴの花びらが
風に散ったよな あああ……
ラジオのドラマの主題歌として、また映画化された『リンゴ園の少女』の挿入歌として「リンゴ追分は空前の大ヒットとなった。発売後まもなく70万枚、最終的には130万枚の売り上げをあげた。昭和27年の4月28日、ひばりはこの歌を引っさげて、歌謡歌手として初めて歌舞伎座でのリサイタルを果たす。歌舞伎座の関係者からは、「歌謡歌手なんぞに舞台に立てれては、汚れる。どうしても立つなら床板を削りなおしてもらおう」という声が上がった。
それにしても、リンゴの花を近くで見ると美しい。肉厚な花びらがはなやかな蕊を囲んで、とって食べたいようないとおしさである。