1日3食の全てが家内と2人だけ。
時には外食に出たくなる。
ところが、身近の外食店にも限りがある。
店の雰囲気や味に、新鮮味が感じられず、
ため息することしばしば・・。
お店にとって、「いつもの変わりなさ」を大事にするのは、
必要なことだと思う。
しかし、その店ならではの新メニューなど、
新しさへのチャレンジに気づくと、私はことのほか嬉しくなる。
2つを記す。
①
私より10歳も上の兄は、
今も魚料理専門の店で、忙しく立ち働いている。
年に数回、その店に顔を出すと、
10年前と何一つ変わらず、厨房のまな板を前に、
刺身包丁を握っている姿がある。
しかし、体力の衰えは仕方なく、
最近は、昼食時間帯は息子らに任せているらしい。
それでも、うまい魚への目利きは、
兄じゃなければダメなようで、
60歳になる息子を従えて、毎朝魚市場へ足を運んでいる。
先日、久々に顔を出すと、
「いいところに来た。
今日は、美味い刺身がある。
用意するから、待っていろ」。
相当自信があるらしく、兄の声には張りがあった。
カレイの煮付け定食と一緒に出てきたのは、
白身の刺身だった。
一切れを箸でつまんでみた。
身の締まり方や油のりに、見覚えがなかった。
不思議そうな顔の私を見て、
「食べてみれ。美味いから」。
またまた自信ありげな声だった。
半信半疑、わさび醤油を少しつけてから、味わう。
ややふっくらとしているが、歯ごたいのある身だった。
その上、咬めば咬むほど、品のある甘みが口の中で広がった。
白いご飯とよくマッチした。
「これは!」と、もう1切れを口に。
自信ありげな兄の態度に納得した。
皿にならぶ刺身を再確認すると、
奮発したのか10数切れが、整然と並んでいた。
嬉しくなった。
だから、勢いよく訊いた。
「これ美味いなあ。なんの刺身なの?」。
「なあ! 美味いべ。キンキだよ。
キンキの刺身!」。
皿の刺身をじっと見た。
キンキの刺身なんて、見るのも聞くのも
食べるのも初めてだった。
キンキは高級魚。
スーパーで、並んでいるのを見ることがある。
やや大きめなら5千円の値がつく。
お頭をつけたまま煮付けにするのが、定番料理だ。
じつに美味い。
それが、生のまま。刺身なのだ。
しかも、大きめの半身分が皿にもられて・・。
もう言葉は邪魔だった。
白いご飯を片手に、カレイの煮付けも十分美味しいが、
それよりもキンキの刺身に心奪われた。
ただ黙々と食べた。
食べ終えてから、兄に言った。
「すごく美味かったけど、
キンキが刺身で出てくるなんて、ビックリだよ」。
「3ヶ月くらい前になるかな。近くの回転寿司屋に行ったら、
キンキの握りがあってさ・・。
そこで俺も初めて生のキンキを食べてみたさ。
これはいけると思って、うちでも刺身でだすことにしたんだ」。
そう話しながらも、包丁を握る兄の手は休みなく動く。
立ち上がって、カウンター越しに手元をみると、
大ぶりのキンキが数匹、3枚に身おろしされていた。
「明日、予約が入っているから、
刺身で出してやろうと思ってさ」。
「それは、喜ぶよ!」。
お客さんの美味しそうな顔が、目に浮かんだ。
②
東京で勤務していた頃、
時々北海道ラーメンが食べたくなった。
そんな時に、何度か、
新橋駅近くにある『味の時計台』まで行った。
初めて当地を訪ねた時、
『味の時計台』伊達インター店があることを知った。
以来、自宅建築の打ち合わせに来るたびに、
昼食は、その店の味噌ラーメンにした。
これから先、この美味しさが身近にある。
それだけで嬉しかった。
移り住んでからは、懲りずによくその店でラーメンを食べた。
3年前になるだろうか。
その日も夕食をラーメンにしようと、
2人で『味の時計台』へ行った。
何を思ったのか。
その日の家内は、伊達インター店だけの特別メニューの一覧表を手にした。
「たまには、違う物を食べてみる」と、
店オリジナルの『あんかけ焼きそば』を注文した。
北海道ラーメンの名店『味の時計台』で、
ラーメン以外のものを注文する。
そんな家内の思いつきに、私は納得がいかなかった。
特別メニューを提供する店も店だが、
どの味のラーメンも、飽きのこない美味しさだ。
客はその味を求めて、来店する。
店は『味の時計台』のラーメンに、
自信と誇りを持ってお客の提供すれば、それでいい。
『あんかけ焼きそば』なんて、私には邪道にしか思えなかった。
私は、変わらず味噌ラーメンを食べた。
当然、美味しいに決まっていた。
数が月して、再び、暖簾をくぐった。
「だって美味しいんだもの」と、
家内は、また『あんかけ焼きそば』を注文した。
周りのお客のオーダーが気になった。
『あんかけ焼きそば』は、かなりの人気だと知った。
邪道と思い続けた私は、その人気を無視した。
ところが、1年程前だったろうか。
「魔が差し!」。
その日、目指した中華料理店が休業していた。
急遽、その足で『味の時計台』に向かった。
邪道と思いつつも、そんないきさつが、
「同じ中華だ」と、家内と一緒の『あんかけ焼きそば』にさせた。
10数種類の具材が入ったその焼きそばは、
食べ進めるにつれ、『味の時計台』ならではのものだと気づいた。
名店のラーメンと変わらない美味しさに私は、十分満足した。
思い込んでいた「邪道」を、簡単に返上した。
今は、味噌ラーメンより『あんかけ焼きそば』を食べに、
『味の時計台』伊達インター店へ行く。
今年の春、その店の真っ赤な大看板がリニューアルされた。
見上げると、味噌ラーメンや醤油ラーメンが消え、
あんかけ焼きそばと餃子の文字が並んでいた。
その看板に私は納得した。
そして、それを見た方が、
私のように「邪道」と思わず来店することを祈った。
夏の花 ・ アジサイ
時には外食に出たくなる。
ところが、身近の外食店にも限りがある。
店の雰囲気や味に、新鮮味が感じられず、
ため息することしばしば・・。
お店にとって、「いつもの変わりなさ」を大事にするのは、
必要なことだと思う。
しかし、その店ならではの新メニューなど、
新しさへのチャレンジに気づくと、私はことのほか嬉しくなる。
2つを記す。
①
私より10歳も上の兄は、
今も魚料理専門の店で、忙しく立ち働いている。
年に数回、その店に顔を出すと、
10年前と何一つ変わらず、厨房のまな板を前に、
刺身包丁を握っている姿がある。
しかし、体力の衰えは仕方なく、
最近は、昼食時間帯は息子らに任せているらしい。
それでも、うまい魚への目利きは、
兄じゃなければダメなようで、
60歳になる息子を従えて、毎朝魚市場へ足を運んでいる。
先日、久々に顔を出すと、
「いいところに来た。
今日は、美味い刺身がある。
用意するから、待っていろ」。
相当自信があるらしく、兄の声には張りがあった。
カレイの煮付け定食と一緒に出てきたのは、
白身の刺身だった。
一切れを箸でつまんでみた。
身の締まり方や油のりに、見覚えがなかった。
不思議そうな顔の私を見て、
「食べてみれ。美味いから」。
またまた自信ありげな声だった。
半信半疑、わさび醤油を少しつけてから、味わう。
ややふっくらとしているが、歯ごたいのある身だった。
その上、咬めば咬むほど、品のある甘みが口の中で広がった。
白いご飯とよくマッチした。
「これは!」と、もう1切れを口に。
自信ありげな兄の態度に納得した。
皿にならぶ刺身を再確認すると、
奮発したのか10数切れが、整然と並んでいた。
嬉しくなった。
だから、勢いよく訊いた。
「これ美味いなあ。なんの刺身なの?」。
「なあ! 美味いべ。キンキだよ。
キンキの刺身!」。
皿の刺身をじっと見た。
キンキの刺身なんて、見るのも聞くのも
食べるのも初めてだった。
キンキは高級魚。
スーパーで、並んでいるのを見ることがある。
やや大きめなら5千円の値がつく。
お頭をつけたまま煮付けにするのが、定番料理だ。
じつに美味い。
それが、生のまま。刺身なのだ。
しかも、大きめの半身分が皿にもられて・・。
もう言葉は邪魔だった。
白いご飯を片手に、カレイの煮付けも十分美味しいが、
それよりもキンキの刺身に心奪われた。
ただ黙々と食べた。
食べ終えてから、兄に言った。
「すごく美味かったけど、
キンキが刺身で出てくるなんて、ビックリだよ」。
「3ヶ月くらい前になるかな。近くの回転寿司屋に行ったら、
キンキの握りがあってさ・・。
そこで俺も初めて生のキンキを食べてみたさ。
これはいけると思って、うちでも刺身でだすことにしたんだ」。
そう話しながらも、包丁を握る兄の手は休みなく動く。
立ち上がって、カウンター越しに手元をみると、
大ぶりのキンキが数匹、3枚に身おろしされていた。
「明日、予約が入っているから、
刺身で出してやろうと思ってさ」。
「それは、喜ぶよ!」。
お客さんの美味しそうな顔が、目に浮かんだ。
②
東京で勤務していた頃、
時々北海道ラーメンが食べたくなった。
そんな時に、何度か、
新橋駅近くにある『味の時計台』まで行った。
初めて当地を訪ねた時、
『味の時計台』伊達インター店があることを知った。
以来、自宅建築の打ち合わせに来るたびに、
昼食は、その店の味噌ラーメンにした。
これから先、この美味しさが身近にある。
それだけで嬉しかった。
移り住んでからは、懲りずによくその店でラーメンを食べた。
3年前になるだろうか。
その日も夕食をラーメンにしようと、
2人で『味の時計台』へ行った。
何を思ったのか。
その日の家内は、伊達インター店だけの特別メニューの一覧表を手にした。
「たまには、違う物を食べてみる」と、
店オリジナルの『あんかけ焼きそば』を注文した。
北海道ラーメンの名店『味の時計台』で、
ラーメン以外のものを注文する。
そんな家内の思いつきに、私は納得がいかなかった。
特別メニューを提供する店も店だが、
どの味のラーメンも、飽きのこない美味しさだ。
客はその味を求めて、来店する。
店は『味の時計台』のラーメンに、
自信と誇りを持ってお客の提供すれば、それでいい。
『あんかけ焼きそば』なんて、私には邪道にしか思えなかった。
私は、変わらず味噌ラーメンを食べた。
当然、美味しいに決まっていた。
数が月して、再び、暖簾をくぐった。
「だって美味しいんだもの」と、
家内は、また『あんかけ焼きそば』を注文した。
周りのお客のオーダーが気になった。
『あんかけ焼きそば』は、かなりの人気だと知った。
邪道と思い続けた私は、その人気を無視した。
ところが、1年程前だったろうか。
「魔が差し!」。
その日、目指した中華料理店が休業していた。
急遽、その足で『味の時計台』に向かった。
邪道と思いつつも、そんないきさつが、
「同じ中華だ」と、家内と一緒の『あんかけ焼きそば』にさせた。
10数種類の具材が入ったその焼きそばは、
食べ進めるにつれ、『味の時計台』ならではのものだと気づいた。
名店のラーメンと変わらない美味しさに私は、十分満足した。
思い込んでいた「邪道」を、簡単に返上した。
今は、味噌ラーメンより『あんかけ焼きそば』を食べに、
『味の時計台』伊達インター店へ行く。
今年の春、その店の真っ赤な大看板がリニューアルされた。
見上げると、味噌ラーメンや醤油ラーメンが消え、
あんかけ焼きそばと餃子の文字が並んでいた。
その看板に私は納得した。
そして、それを見た方が、
私のように「邪道」と思わず来店することを祈った。
夏の花 ・ アジサイ
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