ジューンベリーに忘れ物

シンボルツリーはジューンベリー
どこかに沢山の忘れ物をしてきた気がして

シリーズ『届けたかったこと』  (2)

2016-02-12 14:39:35 | 教育
 『届けたかったこと』の第2話です。
 月曜の朝、わずか5分間ですが、
全校児童と全職員を前に話をしました。
 私が伝えたい想いを、そのお話に託してきました。

 なお、今回の骨子は、
大先輩・剛家正士先生著『かたりぐさ』からお借りしました。



   3 M君のよさ


 私が教えた子にM君という子がいました。
 今、M君はお家に置いてある薬、『置き薬』と言いますが、
そのセールスマンをしています。
 日本各地のお得意さんを回って、
いい薬をすすめたり、お客さんの注文に応じたりしています。
 どこの地方でも、お客さんはM君が来るのを、
いつも待っていてくれました。
 ですから、会社でもM君を大切にしています。
 今では、私よりはるかに高い給料を頂いているようです。

 さて、子どもの頃のM君ですが、
クラスの中で一番体が小さく、力も弱い子でした。
 運動もダメで、どんな勉強もビリの方でした。

 そんなM君でしたが、誰にもまねのできない、
素晴らしいところがありました。

 その一つは、いつもニコニコしていることです。
 子どもですから、いたずらをします。
いたずらをすれば、当然叱られます。
 しかし、叱られても、M君はニコニコしていました。

 「こら、M、お前、わかっているのか。」
 「ハイ。」とニコニコ。
 「叱られているのが、そんなにうれしいか。」
 「いいえ。」と、ニコニコ。
 「うれしいんだろう。笑っているじゃないか。」
 「いいえ。」
と、やはりニコニコしていました。

 そして、もう一つのいいところ。
それは、友だちにとても親切だったことです。

 例えば、友だちが消しゴムを忘れて困っている。
すると、スーッと、目の前に消しゴムがきます。M君です。
 机から鉛筆が落ちてころがります。
だまって拾って机の上に。見るとM君なんです。

 いつもニコニコしていて親切なM君だから、
ケンカなんてありません。

 M君は、体が小さくて、力も弱いので、
きっと、いじめられないように気をつけていたと思います。
 なので、そのうちに知らず知らず、誰よりもよく、
人の気持ちがわかるようになったのだと思います。

 M君は、高校を卒業すると、薬をあつかう会社に入りました。
会社の人たちはすぐに、
「M君、M君」と、いろんな仕事をたのみました。

 何をたのんでも、ニコニコと親切にていねいにやります。
誰からの頼まれごとでも、気軽にニコニコと手伝います。
 ですから、誰よりも早くたくさんの仕事を覚えました。

 社長さんは、そんなM君を見て、
セールスの方の仕事をしてもらうことにしました。
 M君が行くと、初めてのお客さんでも、
M君がすすめる品物を注文するようになりました。

 今日も、M君は日本のどこかで、お客さんと、
ニコニコと話し込んでいるだろうと思います。




   4 掃除は 誰がする

    (1) 空 気
 
 空気をきれいにするのは、誰なのかというお話をします。
 私たちは、少しの休みもなく空気を使って生きています。
息をしているのだから、当たり前です。
 私たちだけではなく、そこにいるウサギも、
そしてチョウチョウやトンボ、
それより小さな虫だって、空気を使って生きています。

 生き物だけではありません。
自動車やオートバイ、ストーブやガスコンロ。
みんな空気を使います。

 空気は使うと当然汚れます。
汚れた空気は、体の害になります。
 ですから、空気はその汚れを取ること、
掃除が必要になります。

 皆さんは、空気の掃除をしますか。
お家の方は、空気の掃除をしますか。
 確かに、保健室には空気をきれいにする機械があります。
でも、そんなもんで、
学校中の空気を掃除することができますか。
 地球中の空気を
全部きれいにすることができますか。
それは無理ですね。

 でも、空気の掃除をする者がいなくては、
空気は汚れる一方です。大変なことです。

 しかし、きっと空気の掃除をする者がいるんです。
誰だと思いますか。どこにいると思いますか。

 実は、校庭の周りにある木や草花、芝生が、
空気の掃除係なのです。
 学者の計算によると、1ヘクタールの広さ、
この学校の敷地のおおよそ同じ広さですが、
この広さいっぱいに、木を植えておくと、
1年間で70トンの空気をきれいにしてくれるそうです。
 70トンの空気がどれくらいの量なのか、
誰か調べてみるといいと思いますが、
 すごい量の空気をきれいにするんです。

 つまり、空気の掃除は、私たち人間ではなく、
植物がしているのです。
 大切に大切にしたいですね。



    (2) 心の汚れ

 先週は、空気の掃除は誰がするのか。
そんなお話をしました。今週も、そうじのお話です。

 さて、人間は誰でも失敗をします。
私も色々と失敗をしてきました。お家の方も失敗をします。
 みなさんはまだ小さいから、
私たち大人以上に沢山失敗をします。
それでいいんです。
 失敗するからこそ、人間なんだと私は思っています。

 さて、もう10年以上も前ですが、
私が担任した3年生の男の子に、K君という子がいました。

 ある日、4時間目の道徳の時間が終わって、
私が教室から出ると、
K君が小さな声で、「先生」と私を呼び止めました。

 私は、いつもと様子が違うK君を見て、
「どうしたの。」
と、訊きました。するともっと小さな声で
「ぼく、夜、ねむれないんです。」
と、今にも泣きだしそうになりました。

 「ねむれないのか。どうしたんだ。」
するとK君は、
「ぼく、万引きをしました。」
と、いうのです。
 これは、大変なことです。
私はK君をつれて、職員室に行きました。

 K君は、少しずつでしたが、話をしてくれました。
スーパーで、お気に入りの消しゴムや、
好きなキャラクターの描いてあるノートと
鉛筆をこっそり持ってきたんです。

 1人ではありません。友だち2人も一緒でした。
 K君に、その2人をよんできてもらい、話を聞きました。
3人のを合わせると、ノートなど30以上にもなりました。

 「悪いことをしたと思いますか。」
 「はい。」
 「スーパーへ、あやまりに行けますか。」
 「はい。」
 「お家の人に、自分のしたことを話せますか。」
 「はい、話せます。」

 もう、外は日が暮れかけていました。
私は、3人をつれて、一軒ずつ家をまわりました。

 K君の家が、一番近いので最初に行きました。
K君は自分のしたことをお母さんに話しました。
 お母さんは、はじめはビックリした顔をしていました。
その内に、怒りだしました。

 私は、お母さんに言いました。
 「怒らないでください。自分で悪いと気がついて、
自分で話したのです。許してやって下さい。
とてもつらかったと思います。
それでも、一生懸命、私に話したんです。
えらいと思います。」
 お母さんは、泣きながらうなずきました。

 翌日、3人をつれて、お家の方と一緒にスーパーに行きました。
盗んだ物を出しながら、一人一人ちゃんと謝りました。

 こうして3人は自分の心の汚れを、自分できれいにしたのです。





  真冬の小川 岸辺に氷の模様が 

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