『天空のFairy』 ~六甲高山植物園
『天空のFairy』
それは天空の妖精が暫し、翅を休めるために
舞い降りる雲上の楽園。
束の間の生を煌かせる、一瞬の出来事。
僕が君と出逢ったのは運命のイタズラ。
何故かって?
僕はその日も、ただ、ぼお~っとして
何とはなしに辺りを見回していただけだったから。
そして、君を見つけたんだ。
高原を吹き渡る、爽やかな風に
栗色の長い髪をなびかせて
小さな膝を抱えるようにして
君は身じろぎもせず、静かに佇んでいた。
「こんにちは」て、僕は囁いた。
きょとんと僕を見上げる君。
その円らな瞳を更に大きく見開いた。
瞳には僕の寂しさが映っていた。
「こんにちは。あなたには私が見えるの?」
「見えるよ。だって、今、君はここにいるじゃないか。」
「私は普通の人には見えないの。」
「えっ!?僕は普通の人だよ。」
「ううん。今、あなたの心はまっさらなんだわ。」
「まっさら?新しいっていうこと?」
「そう。生まれたての赤ちゃんみたいに・・・」
「そうかなあ。僕はただ、ぼお~っとしていただけで・・」
「きっと、今、高原を駆け抜けた風たちが、
あなたの心の中を掃除していったんだわ。」
「かもしれない。なんだか、心が軽くなったような気がしていたんだ。」
それから、僕たちの夢のような暮らしが始まった。
すべてを目覚めさせるような朝焼けや
すべてを眠りに誘うような夕焼けを
厳かな自然の営みとして
何度、繰り返したことだろう。
生きることの喜びと
生きることへの愛しさと
君と出逢えた幸せを
僕たちはゆっくりと噛みしめていた。
でも、いつかは山を降りなければならない。
きっと、君も一緒に来てくれるだろうと思っていた。
ある日、思い切って、こう切り出した。
「そろそろ、山を降りようと思うんだ。一緒に降りよう。」
「私は山を降りることができないの。」
そのとき、心の奥にある森がざわめいた気がした。
「町の暮らしもいいもんだよ。」
「下界では不信や憎悪が渦巻いているわ。」
「でも、便利な暮らしができるよ。」
「電気や石油がなければ暮らせないのでしょ?」
「・・・・・」
「ごめんなさい。もっと一緒にいたかったけれど、
もう時が来たのよ。
私にもあなたにも旅立つときが・・・」
君は僕の掌の中指をそっと抱きしめてくれた。
最後の優しさとして。
初めて出逢ったときのように
大きく見開いた瞳から
雫のような涙が溢れていた。
「ありがとう。何もかも。」
君は光る透明な翅を広げると
小さな身体に想い出を一杯、詰め込んで
風にのって旅立った。
一緒にどこまでも行きたかった。
一緒にいつまでも生きたかった。
君がいなくなっても
君がいたことは忘れない。
もちろん、君が幻想だったとは思わない。
~I don’t think you were phantom.~
(by あずき煮えた)
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