1コーラスを『ららら』で歌った後、彼は一瞬、何故か黙った。軽く咳払いをし、妙に楽しそうににやっとした。
息を深く吸い、再び彼は朗々と歌う。
「うらのはたけで ぽちが なくぅぅぅう」
は?
哀愁のメロディー。しかしそれにそぐわない歌詞。頭が混乱する。
「しょうじきじいさん ほったならぁぁあ」
眉根を寄せ、ごくごく真面目にロマンスグレーの伊達男は歌う。
「おおばんんー こばんがぁぁ . . . 本文を読む
気流を呼ぶ (1m×1m キャンバスに鉛筆)
わが心の旅
眼を開ければ光の視界があり
眼を閉じれば闇の瞑界がある
人の間では遊び心が動き
己の中にあっては、深い闇に深刻がはびこる
目を開ければ人があり
目を閉じれば己がいる
人の中で分かち合う喜びを得
己の中で孤独を恐れる
時にピエロとなり
時には迷いの人となる
時 . . . 本文を読む
扉を入ってすぐが『舞台』という感じなのだろう。覗くと、『舞台』を囲むように観客席風に木製のテーブルと椅子が並べられていた。飴色っぽい光沢の、年代物のテーブルセットだった。
中にいた観客は十数人ばかり。一瞥で年配者が多いのがわかったが、こちらへ愛想良く笑みを向ける顔色は明るく、それぞれ洒落っ気のありそうな年配者だった。
六四から七三で男性だったが、女性陣も皆、一筋縄ではいかない面構えの淑女 . . . 本文を読む