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今回から群馬県の温泉を取り上げます。北毛の猿ヶ京温泉には、多くの旅館や日帰り入浴専用施設のほか、地元民向けの温泉浴場も数軒あり、わかりにくい立地(言い換えれば発見し甲斐のある立地)、鄙びた雰囲気、地元密着感、そしてお湯の良さなど、様々な要因が温泉ファンの心を惹きつけてやみません。今回はそんな地元民向け浴場のひとつである「猿ヶ京住民センター」を訪ねることにしました。
木造2階建ての1階が男女別の共同浴場、2階が集会所となっています。
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建物の目の前には猿ヶ京にいくつかある源泉の一つと思しき施設があります。住民センターのお風呂には、ここのお湯が引かれているのでしょうか。
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施設名が書かれた扁額の下、玄関引き戸の横には「関係者以外立入禁止」のプレートが掲示されていますが・・・
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中に入ると下足入れの柱に料金箱が括りつけられており、その下に「会員以外の方も入浴いただけます」と案内されていますので、地域住民以外でも利用可能であることがわかります。かく言う私も典型的な余所者ですので、300円を納めてから利用させていただきました。玄関入って左が女湯、右が男湯です。なお料金箱が括りつけられていることからもわかりますが、この施設は無人です。
脱衣室にはトイレ・扇風機・洗面台といった各種設備が用意されています(ロッカーは無いものの戸棚が設置されています)。地方の一般的な無人共同浴場の脱衣室は棚と男女共用のトイレがある程度で、設備面は必要最低限に抑えられているものですが、こちらの浴場はそうした通例に反し、室内も共同浴場にしてはそこそこ広い上、設備面がちょっと充実しています。しかも他の無人浴場では見られない設備は、実はこれだけではなかったのです。何があるのか、後程明らかに。
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高い天井と立派な梁や天井が目を惹く木造の浴室。共同浴場にしては豪華な造りですね。こんなお風呂に毎日入れる方が羨ましい限りです。上屋は木造の湯屋建築ですが、床や浴槽はメンテナンスしやすいタイル張り。程よく薄暗くて落ち着ける室内には、浴槽に落ちるお湯の音が響くばかり。実によい雰囲気。旅館顔負けの立派なお風呂です。
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先程、無人共同浴場のわりには設備面が充実していると申し上げましたが、その好例がこのシャワーではないかと思うのです。いや、単なるシャワーでしたらどんなお風呂にもありますし、それどころかこのお風呂はシャワーが一つしかないので、数だけで捉えると決して充実しているとは言えません。ではどこが凄いのか。
実は、このシャワーから出てくるお湯は湯沸かし器で温めているのです。脱衣室には湯沸かし器のスイッチが取り付けられていますので、勘が良い方でしたら入浴前にお気づきになるかと思います。湯量豊富な温泉地の共同浴場では、温泉のお湯をそのままカランへ接続させていますが、源泉温度が熱すぎる当地ではそれが難しいのか、カランやシャワーのお湯には湯沸かし器を使っています。とはいえ、限られた予算で運営せざるを得ない共同浴場なのに、イニシャル・ランニング両面のコストが嵩む湯沸かし器でシャワーのお湯を温めているのですから、驚くとともにちょっと心配してしまいます。気を遣い過ぎなのかもしれませんが、私のような余所者が使うのは忍びないので、湯船のお湯で掛け湯させていただきました。
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無色澄明で大変清らかなお湯が湛えられている湯船は(目測で)1.5m×2.5mの長方形。地元民向けの共同浴場にしては大きな浴槽です。ちょっと深めの造りなので肩までしっかり湯に浸かることができ、入り応えも十分。
なお湯口から注がれる温泉は大変熱いので、もし湯船が熱ければ、浴槽の向こう側にある水道の蛇口(ホース付)で適宜加水し温度調整しましょう。私が入っている時も、先客の地元のお爺さんから加水を勧められました。
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源泉から引かれたお湯は一旦壁に固定されている木の枡に注がれ、そこから浴槽へ供給されています。湯使いは純然たる掛け流し。湯船のお湯は大変フレッシュです。
使用源泉は共有の湯島泉で、ここのみならず、周辺の他施設にも引かれている当地の有力源泉です。見た目は大変綺麗な無色透明。お湯からは芒硝感や石膏感が得られ、匂いこそあまり嗅ぎ取れませんが、いかにも硫酸塩泉らしく、湯船へ入りしなには脛にピリッとした刺激が走り、肩まで浸かると腕などに引っかかる浴感が伝わってきます。そしてちょっとトロっとした感覚もあり、肌にしっとり染み入ります。まさに上毛らしいお湯であり、鮮度感を含め大変良いお湯です。
先程加水を勧めてくれたお爺さんは、その他にも「シャワーを使って良いですよ」とか「湯加減はどうですか」など、私にいろいろとお気遣い下さいました。こうした地元の方との触れ合いは共同浴場ならでは。本当にありがたく、お湯のみならず心まで温かくなります。そしてお爺さんはトド寝(※)をすすめてくれたので、私もケロリン桶を枕にしてトドを楽しませてもらいました。最高に気持ち良かった!
(※)トド寝:オーバーフローするお湯を浴びながら洗い場で横になること。広くて空いており、湯量豊富なお風呂でないと楽しめない入浴方法。青森県の温泉で多くみられる形態。
共有泉湯島
ナトリウム・カルシウム-硫酸塩温泉 55.5℃ pH7.6 蒸発残留物1.25g/kg 成分総計1.21g/kg
Na+:130mg, Ca++:218mg,
Cl-:100mg, SO4--:652mg,
H2SiO3:54.3mg,
(平成14年11月8日)
加水・加温・循環・消毒なし
群馬県利根郡みなかみ町猿ヶ京温泉
(施設の性質上、場所の特定は控えさせていただきます)
開館時間不明
300円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーなし
私の好み:★★★