私はまた寒気を感じましたね。しまったな、どうも風邪をひきそうだぞ、と思いました。大したことのない雨っていっても、案外肩の辺りがいつまでも湿ってたりするもんですからね。
「じゃあママさんは」
と私はここでなんか言わなきゃな、いろいろ話してくれたんだから、と思いましたよ。
「じゃあママさんは、二十年間、この店を開いてずっと小雨の降る晩を待ってたんだ」
ええ、と彼女は小さな声で答えました。
「でも待ったかいがありました。ようやくあの人が戻って来てくれたんですから」
びっくりしましたね、私は。慌てて周りを見回しましたが、もちろんこの店には私とママさんきりしかいません。そのとき地震が来たように全身がぐらぐらっときて、頭の中で何か殻みたいなものが割れた気がして、突然、思い出したんですよ、私は。鮮明に思い出したんです。私には二十年前、小雨の降る晩に、あの橋でふった女がいて、その女はそれから一ヶ月も経たない内に、同じあの橋から身を投げて、死んじまっていたことを。
「じゃあママさんは」
と私はここでなんか言わなきゃな、いろいろ話してくれたんだから、と思いましたよ。
「じゃあママさんは、二十年間、この店を開いてずっと小雨の降る晩を待ってたんだ」
ええ、と彼女は小さな声で答えました。
「でも待ったかいがありました。ようやくあの人が戻って来てくれたんですから」
びっくりしましたね、私は。慌てて周りを見回しましたが、もちろんこの店には私とママさんきりしかいません。そのとき地震が来たように全身がぐらぐらっときて、頭の中で何か殻みたいなものが割れた気がして、突然、思い出したんですよ、私は。鮮明に思い出したんです。私には二十年前、小雨の降る晩に、あの橋でふった女がいて、その女はそれから一ヶ月も経たない内に、同じあの橋から身を投げて、死んじまっていたことを。
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