「私は────私は、あの女に、笛森志穂という女に用があったのだ。あなたにはない」
天空で風が鳴る。
「笛森志穂はお前が見える」
「そうだ。まさにそうなのだ」
「お前の声も聞ける」
「そうなのだ。どうしてなんだ。そこが知りたい。どうして彼女は私を見聞きできるんだ」
一呼吸分の間があった。
「お前が笛森志穂の前に姿を現し、声を発したからだ」
「そんなことがあるものか。では、どうして他の者には見えない。聞こえない」
「お前が他の者には姿を現さないし声を発しないからだ」
私は髪を掻き毟った。「それでは答えにならん」
「答えだ」
巨岩が転がるような声。私は三歩分退いた。
「答えです。確かに、おそらく、答えでしょう。いやしかし────私だって、私だって出来ればみんなの前に姿を現したいと思っている。声を掛けたいと思っている。声なんぞ、何遍も掛けてみた。だが聞こえないんだ。聞こえない。彼らには。目の前に立ちはだかっても、まばたき一つしてくれない」
「見える者もいる」
「だから、笛森志穂という女は例外だ。いや、美咲も。美咲は瞬間的に私を見た。一瞬だが見えたようだ・・・う・・・五岐という警部はさっき、私の手を、ひょっとして首筋に感じたかもしれん」
鬼はまるで、私がもう自分で答えを見つけたかのように黙っていた。
「どうしてなんだ。だから。え? 答えてくれ。そこに立っているのは答えてくれるためなんじゃないのか。私は彼らの前に立ち、声をかけた。私は何度も私を発信しようとしてきた。それを受け取れる者と、受け取れない者がいるのはなぜだ」
(つづく)
天空で風が鳴る。
「笛森志穂はお前が見える」
「そうだ。まさにそうなのだ」
「お前の声も聞ける」
「そうなのだ。どうしてなんだ。そこが知りたい。どうして彼女は私を見聞きできるんだ」
一呼吸分の間があった。
「お前が笛森志穂の前に姿を現し、声を発したからだ」
「そんなことがあるものか。では、どうして他の者には見えない。聞こえない」
「お前が他の者には姿を現さないし声を発しないからだ」
私は髪を掻き毟った。「それでは答えにならん」
「答えだ」
巨岩が転がるような声。私は三歩分退いた。
「答えです。確かに、おそらく、答えでしょう。いやしかし────私だって、私だって出来ればみんなの前に姿を現したいと思っている。声を掛けたいと思っている。声なんぞ、何遍も掛けてみた。だが聞こえないんだ。聞こえない。彼らには。目の前に立ちはだかっても、まばたき一つしてくれない」
「見える者もいる」
「だから、笛森志穂という女は例外だ。いや、美咲も。美咲は瞬間的に私を見た。一瞬だが見えたようだ・・・う・・・五岐という警部はさっき、私の手を、ひょっとして首筋に感じたかもしれん」
鬼はまるで、私がもう自分で答えを見つけたかのように黙っていた。
「どうしてなんだ。だから。え? 答えてくれ。そこに立っているのは答えてくれるためなんじゃないのか。私は彼らの前に立ち、声をかけた。私は何度も私を発信しようとしてきた。それを受け取れる者と、受け取れない者がいるのはなぜだ」
(つづく)
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