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マネキン1「ねえ、あたしたち、いつまでこうやって外を眺めてなきゃいけないの」
マネキン2「知らないわよ」
マネキン1「もううんざりなんだけど。こんなさびれた街のダサい格好の人たちをずっと眺めていたら、気が狂いそうだわ」
マネキン2「勝手に気が狂いなさいよ」
マネキン1「ねえ」
マネキン2「うるさいわね。ただでさえミンクのコート着せられて暑苦しくてしょうがないのよ。あんたの愚痴なんか聞いてたらこっちがいかれそうだわ」
マネキン1「あたしだってカシミア着せられてんのよ。ねえ、こんな季節外れの服いつまで着てなきゃいけないの」
マネキン2「仕方ないじゃない。このビルが取り壊されるまででしょ」
マネキン1「どうしてそんなに待たなきゃいけないのよ。夕方ちょっと着替えさせてくれれば済む話じゃない」
マネキン2「やだ、あんたもしかしてまだ気付いてないの」
マネキン1「え、何が」
マネキン2「うちの店、とっくの昔に潰れてんのよ」
マネキン1「え! うそ!」
マネキン2「やだ、前も話したじゃない。あんた、マネキン程度の脳みそしかないから困るわね。うちの社長、経営破たんで十年も前に店の後始末もせずに夜逃げしたのよ」
マネキン1「そうなの? うそ、聞いてないわ。だから年中同じ服着せられてるの?」
マネキン2「あんたがダサいって言った街の人たち、彼らが着てる服の方が、最近のトレンドなのよ。あたしたちはバブルの名残り。今じゃ誰もこんな肩パットの入った服なんか着てないでしょ」
マネキン1「うそ。うそ。じゃああたしたち、誰も来るはずのない店で、何年もずっとこうして外を眺めながら、誰かが来るのを待ってたわけ?」
マネキン2「そういうこと」
マネキン1「うそ。ショック。あたし、自殺したくなる」
マネキン2「自殺できてたら、十年前にあたしがしてるわよ。できないからいつまでもこうしてアホみたいに飾られてんじゃない。あたしたちはこうして、エレガントなポーズのままで、街がどんどんさびれていくのを、一番さびれた場所から見守り続けるってわけ」
マネキン1「どうして? どうして街はさびれちゃったの? 昔はもっとにぎわってたじゃない」
マネキン2「知らないわよ、動ける人たちのやることなんて。動けるんだから何でもできそうな感じがするけど、どうだろ。へたに動けるから、みんなこの街を出て行っちゃうんじゃない」
マネキン1「動ける人たちもそんなに脳みそがないのね」
マネキン2「そうよ。そういうことよ。ようやくわかってきたみたいね。ときどきあたしたちの方を見てさ、なつかしそうな顔して去っていく人いるでしょ。何がそんなに忙しいんだか知らないけど、ちょっと立ち止まるくらいがせいぜいで、昔に戻ることは勇気がなくてできないみたいね」
マネキン1「そっかあ、それと比べたら、あたしたちもそんなに不幸じゃないわね」
マネキン2「そう思ったら、そのこと、しっかりあんたのちっぽけな脳みそに叩き込んでおきなさい。忘れたころにまた思い出さしてあげるわ」
マネキン1「あーあ、あたし、昔はもっと美人だったわ」
マネキン2「今と大して変わんないから安心しなさい。あたしたちは幸福な方よ。動ける人たちは、昔の暮らしに戻りたくない癖に、容姿だけは昔に戻りたくてしょうがないんだから」
マネキン1「動ける人たちって、ほんとにお馬鹿さんばかりなのね」
マネキン2「あたしたちはそのお馬鹿さんたちを真似て作られたのよ」
マネキン1「じゃあやっぱり不幸だわ」
マネキン2「不幸で結構。動けないだけまだましよ」
マネキン1「そうなのかも」
マネキン2「そういうこと」
(おわり)
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