た・たむ!

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スキーとビール

2010年01月29日 | Weblog
 近所の男三人でスキーに行く。私は夕方から仕事だが、他二名は一日休暇を取っているので、私が車を運転し、二人は往路からビールを飲みながらスキー場に向かう。この企画は二年前にもあった。二人のうち一人は寿司屋の店主であり、私の兄貴分である。一人は去年還暦を迎えたので、どちらかというと「親分」である。彼ら二人を前にすると、私は喜んでハンドルを握るのである。

 ただし、二年前は確か帰路のみが車内宴会だったはずだが、と内心思いながら、次々と缶ビールを開けていく二人を横目でちらちら眺めていた。還暦氏は「滑る前はこのくらいで止めておく」と言って一リットルで止めたが、寿司屋氏は二リットルを胃袋に入れて、「何だか酔っぱらった」などと言っている。

 目的地のスキー場に着く。午前八時にして雲ひとつない。三月の陽気を思わせるほど晴れ渡っている。雪質も悪くないみたいである。それなのに、車から降りた二人はスキー靴も履かずに腕を組んでうなり始めた。やはり酔いが回ったか、と勘ぐったが、これだけコンディションがいいのだから、もう少し足を伸ばしてもっと大きなスキー場で滑ろうと言い出す。そもそもあなた方は滑れるのか、と心中いぶかしく思いながら、私は「喜んで」とハンドルを回し、別なスキー場に移動した。

 確かに、恵まれた一日であった。乾いて適度な硬さのある雪質は抜群であり、無風であり、青空はどこまでも青かった。「親分」によれば、ここ十五年で見たことがないと言う。十五年、という区切りの由来が聞きたかったが、黙って頷いておいた。

 天候や雪質以上に驚いたのは、二人の滑りであった。上手なのは二年前に知っていた。しかしあれだけのアルコールを胃袋に収めておきながら、風のように飛ばしていく。チャンピオンコースの急斜面をノンストップで滑走する。さらに何よりも驚いたのは、二人の飲みっぷりである。十時に休憩と言ってはまた缶ビールを空ける。六缶くらい空にしたら、こんな雪質の日は滅多にないからと、また滑りに行く。十二時になれば昼食と言って缶ビールを空ける。また滑る。結局、膝が笑うまで滑った。そして帰りの車の中ではもちろん宴会である。

 世代の違いか、個人の違いかはわからない。だがやはりスケールの違いというものを感じた。彼らは仕事も知っているが、遊び方も知っている。遊ぶということは、「とことん」でなければいけない。年齢などそこではまったく考慮の対象にならない。最も若い私が、もしハンドルキーパーの責務を解かれたら、彼らと同じように飲みかつ滑ることができたろうか。いや、到底できまい。そこまでの体力がない。その体力は、遊びに必要であり、同時に、仕事にも大いに役立つものなのだろうけれど。

 ほとんど正気を失うほど酔った彼らを個々の自宅に送り届け、最後に私の仕事場に戻って車内を点検すると、食べかけのチーズかまぼこが転がっているのに気付いた。その半分欠けたクリーム色のスティックを手にして、そうだ、昭和だ、と妙に得心した。




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