鈴木清順の「殺しの烙印」というDVDを見る。
独特の美意識が画面に充溢しているかれの映画は、か
なり魅力的なのだが、この白黒映画は、見落としてい
た。
宍戸錠主演の、殺し屋の物語だ。
印象からすると、ゴダールの「勝手にしやがれ」とメル
ビルのフィルムノワールものを足して2で割った感じだ。
そのまま、当時のフランス映画に置き換えても違和感が
無いくらい、才気ばしった(良い意味で)、洒落た映画
になっている。
当然のこと、本当らしいと言う意味のリアリティーは無
いが、他の小林旭もののような「嘘っぽさ」とは無縁の、
緊張感のある、映画としてはちゃんと成立っているもの
だ。
こんな映画を撮った、当時の鈴木清順の立場と言うもの
を想像すると、何だか可笑しい。
どう考えても、異端だ。
それと、こんな映画も撮れてしまえた、当時の映画界の
懐の深さ、寛容さにも感心する。
「変な映画」と言う烙印を押されるのは間違いない、の
だから。
それより実は、映画の始めのなんていうのか「タイト
ルロール」で良いのか?そこに見覚えのある名前を発
見したのだ。
製作者、所謂プロデューサーに「岩井金男」の名前が。
何を隠そう(結局隠してないが)、この岩井さんとは過
去に面識があったのだ。
面識があったというと、只知っていると言う程度なのだ
が、実際はそれ以上で、一緒に何度もマージャンをやっ
た間柄だ。
当時すでに引退していた岩井さんは、悠々自適の生活で
暇も一杯あった。
ある喫茶店の常連で、こちらもそこでバイトしていて、
何となく話が合いマージャンをやるようになったのだ。
年は親子以上に離れていたのだが、非常に話しやすく、
マージャンをやりながら冗談を飛ばし楽しく過ごした
ものだった。
はっきり言ってマージャンのテクニックはひどかったの
だが、負けない。
つまり勝負事においての、テクニック以上の何かを持っ
た人で、修羅場をくぐった勝負師とはこういう人のこ
とを言うのか、と周りの人間は納得したものだった。
たまに話の中に「渡が」とか「赤木圭一郎は」とか出
てきたが、こちらはそういう映画界の話をあまり聞こ
うともしなかった。
多分、そんな点も向こうからすると良かったのかもし
れない。
そう言えば、鈴木清順に関しては一度「いつも変な映画
ばかり撮って困るよ」などと言ったことがある。
今回の映画が、まさしくそれに当たるわけだ。
困るよと言った割には、しっかり製作者なんだから、
太っ腹な人だ。
たまに、どうしてるかと思うことがあるが(多分没し
てるだろうが)、こんなところで目にするとは、何だ
か無性に会いたくなった。