BSでやっていた「秋刀魚の味」を観る。テレビで小津映画をやってると、大体観てしまうのだが、今回もしっかりその轍を踏んだ。これは小津映画では特に感じるのだが、見る度に発見があるので、何度観ても常に新鮮な感覚を覚えるのだ。筋がどうのという観方はあまり意味を成さないのが小津映画の特徴でもあるし、情緒的に盛り上げる仕掛けもないので、ここで泣けという厭らしい意図を感じなくて済むのも嬉しい。これが遺作となったのだが、アルトマンにとっての「今宵フィッツジェラルド劇場で」のような遺作然とした雰囲気はない。それだったら「小早川家の秋」の方がふさわしい。本人はまだまだ撮るつもりだったのだと思う。
今回観て思ったのは、まず岩下志麻がいやに可愛いということであった。他でも感じることが多いのだが、小津映画に出てくる後に大女優と言われるような女優陣、皆さんいやに綺麗なのである(個人的な好みが大分反映されるが)。これも監督の美意識の表れではないだろうか。そして、その美意識が存分に発揮されていると思ったのが、息子夫婦(佐田啓二、岡田茉莉子が住んでるところ。にしても中井貴一は親父に似てきた)が暮らす、普通の団地の風景。布団が干してある団地が、何故これほどまでに美しいのか。そのモダンさに、コルビジェかと思ってしまった。室内もしかり。唯これは逆に、生活観が乏しい、リアリティがないという批判を受ける部分ともなりうる。ここは成瀬巳喜男と小津安二郎の映画の違いというところで理解するべきだろう。そもそも映画のリアリティって何だという話である。成瀬映画には成瀬の世界があり、小津映画には小津の世界があるのだ。夜の飲み屋街に、バーの看板の明かりが浮かび上がる様、或いは、駅のホームで電車を待つ姿、これだけでうーむこれが小津映画だと思えば良いのである。