経済なんでも研究会

激動する経済を斬新な視点で斬るブログ。学生さんの就職準備に最適、若手の営業マンが読めば、周囲の人と差が付きます。

賃上げ>物価高 は実現するのか (上)

2023-07-06 07:05:28 | 賃金
◇ 「実質賃金は年度内にプラス」説も出てきたが = 日経新聞の調査によると、ことしの賃上げ率は大企業が3.89%、中小企業でも3.57%に達した。この大企業の賃上げ率は昨年を1.54ポイント上回り、実に31年ぶりの大きさだという。その一方、ことし後半はモノやサービスの値上げが一巡。物価上昇率はしだいに低下する。したがって「賃上げ>物価高」の状態が実現、いわゆる実質賃金はプラスになる公算が大きいという見方が強まった。

この見方が正しければ、すべて「メデタシ、メデタシ」ということになる。働く人の購買力が増え、生活水準が向上する。消費が増えれば、経済全体が上向く。岸田首相が切望する‟経済の好循環”が、やっと始まるかもしれない。日経平均株価もそうした気流を先読みして、このところは上昇基調を続けている。だが実質賃金プラス説は期待先行、なんとも甘すぎるのではないだろうか。

まず賃上げの数字。大企業については経団連も3.91%という集計結果を出しており、そんなに大きい誤差はなさそうだ。しかし中小企業の賃上げ率は、どのようにして集計したのだろう。日本の中小企業は350万社もある。業種や規模や地域的特性も千差万別。とてもサンプル調査など出来そうにない。したがって中小企業の賃上げ率については、少なからぬ疑問が生じる。

中小企業に働く人は約3220万人。大企業のおよそ2.5倍に達する。だから賃上げが日本経済に及ぼす影響は、大企業よりも中小企業の方がずっと大きい。大企業で実質賃金がプラスになっても、過半数の中小企業でプラスにならなければ、経済の好循環は起こりえない。中小企業の6割強が法人税を払っていない。そんな会社を含めて中小企業全体の賃上げ率が3%を超えるとは、どうしても考えられないのだが。

                        (続きは明日)

        ≪5日の日経平均 = 下げ -83.82円≫

        ≪6日の日経平均は? 予想 = 下げ≫

賃上げ>物価高 は 藪の中

2023-03-10 07:34:05 | 賃金
◇ 1月の実質賃金は記録的な減少 = 実質賃金の減少率が、歴史的な水準にまで拡大した。厚生労働省が発表した1月の毎月勤労統計によると、1人当たりの現金給与総額は27万6857円で前年比0.8%の増加だった。しかし物価が5.1%も上昇したため、実質賃金は4.1%の減少となった。この減少率は14年5月と09年12月に、ほぼ並ぶ。14年は消費税の引き上げ、09年はリーマン・ショックの直後だった。

現金給与総額というのは名目賃金、つまり手取りの収入だ。しかし物価の高騰で、実際に買えるモノの数量は4%ほど減ってしまったわけである。さらに22年の統計をみても給与総額は2.0%増加しているが、やはり物価の上昇には追い付かず実質賃金は1.0%目減りした。それだけ日本人の生活水準は下がったとも言える。

政府はこうした状況を是正しようと、経済界に賃上げの実施を強く要請している。このため大企業のなかには、5%程度の賃上げを決めたところも出始めた。しかし中小企業の多くは1-2%程度の賃上げがやっと、賃上げできない企業が大半だ。したがって、働く人全部の賃金水準が物価上昇分を超えることは、どう考えても不可能に近い。

とすれば実質賃金をプラスにするためには、物価の上昇を抑えるしかない。そこで政府は電気・ガス料金や小麦の価格を引き下げるために、補助金を支出している。それも効果なしとは言わないが、いつまで続けられるのか。その一方で日銀は相変わらずゼロ金利に固執、円安が進んで輸入物価は再び上昇気味。政府には確固とした物価対策が、全く見受けられない。

        ≪9日の日経平均 = 上げ +178.96円≫

        ≪10日の日経平均は? 予想 = 下げ≫

10年間で1万2000円 : 給与の増加

2023-02-09 07:54:28 | 賃金
◇ これでは赤ん坊も増えないよ! = 厚生労働省は7日、22年の毎月勤労統計を発表した。それによると、月平均の現金給与総額は32万6157円。前年に比べて2.1%の増加だった。この増加率は31年ぶりの大きさ。コロナによる行動規制が解除され経済が正常化、このためボーナスなどの支給が増えた。しかし消費者物価が3%も上昇したことから、実質賃金は逆に0.9%の減少となってしまった。

一般労働者の給与総額は月平均42万9449円で、前年比2.3%の増加。パート労働者は10万2073円で2.6%の増加だった。パートの時間外労働が大きく伸びている。給与総額を業態別にみると、飲食サービス業が9.7%の増加で突出。運輸・郵便業も5.4%の増加だった。そうしたなかで、電気・ガス業だけが2.9%の減少となっている。

こうした22年の結果を、コロナ前の19年と比べてみよう。給与総額の月平均は31万4054円。このうち一般労働者は40万4723円、パート労働者は9万6644円だった。この3年間はコロナに痛めつけられてはいたが、それでも給与総額は3545円。うち一般労働者は4246円、パート労働者は2308円増加した。しかし物価の上昇で、実質給与はほとんど増えていない。

こんどは10年前の13年と比べてみよう。この年の4月には政府・日銀による‟異次元緩和”が始まったから、超金融緩和時代に給与がどうなったかを知ることが出来る。13年の給与総額は月平均31万4054円。うち一般労働者は40万4723円、パート労働者は9万6644円だった。したがって給与総額は、この10年間で1万2103円増えたことになる。その増加率は3.8%。この間に物価も4%近く上昇したから、実質給与はほとんど増えていない。これでは出生率も上がらない。

        ≪8日の日経平均 = 下げ -79.01円≫

        ≪9日の日経平均は? 予想 = 下げ≫

韓国にも抜かれた 日本の賃金水準

2022-11-09 07:51:45 | 賃金
◇ 上がらない原因を究明すべし = 厚生労働省は8日、9月の毎月勤労統計を発表した。それによると、1人当たりの実質賃金は前年比1.3%の減少。これで6か月連続の減少となった。名目賃金である現金給与総額は27万5787円。前年比では2.1%増加したが、物価の上昇率がこれを上回ったため、実質賃金は目減りした。なお現金給与総額の内訳は、正社員が35万7039円、パート労働者が9万9939円だった。

日本の賃金水準は、過去30年間ほとんど上がっていない。こういう国は世界でも珍しい。OECD(経済協力開発機構)の調査によると、1991年の時点で日本の平均賃金は加盟国中13位だった。それが21年には24位にまで低落している。この順位はドルに換算した数字を比較しているので、最近の円安を考慮すると順位は28位にまで下がるという。

この間、多くの国の賃金水準が日本を追い越していった。最近ではお隣り韓国にも抜かれている。2001年の時点では、日本の方が2倍以上も高かった。平均賃金だけでなく、たとえば最低賃金も、韓国の方が高くなっている。韓国の最低賃金は時給9160ウォン(約962円)で、日本は961円。さらに大学卒の初任給でみても、両国の差はなくなっている。

こうした状況下で、岸田内閣は企業に対して、賃上げを要請するだけ。賃上げした企業を税制面で優遇する方針も打ち出したが、これも小手先の政策。なぜ、もっと踏み込んで「賃金が上がらない根本的な原因」を追究しようとしないのか。政府や日銀の政策に誤りはないのか。政府に「これは一大事だ」という認識がないから、そこまで突っ込めないのだろう。

        ≪8日の日経平均 = 上げ +344.47円≫

        ≪9日の日経平均は? 予想 = 下げ≫

最低賃金引き上げの 賭け (下)

2022-08-04 07:39:03 | 賃金
◇ 経済に及ぼす影響は予測不能 = 政府は安倍内閣の時代から「全国平均の時給1000円」を目指してきた。その意味では、今回の改定は一歩前進。だが国際的にみると、日本の最低賃金はまだまだ低い。たとえばドイツやフランスは1400円を超えている。またアメリカは州によってさまざまだが、カリフォルニア州は2000円に近い。中国や東南アジア諸国の賃金も上昇しており、出稼ぎに来る国としての日本の魅力は低下したといわれる。

最低賃金が上がれば、働く人が増えるかもしれない。所得の増加が消費の拡大につながり、景気は上向く。企業は人件費の増大を消化するため、生産性の向上にいっそう努力するだろう。その結果、設備投資も増える。こんなに、いいことはない--これが政府の思惑だろう。安倍元首相がしばしば口にした‟好循環”の始まりでもある。

だが時給の増加に対処するため、企業は労働時間の短縮を図るかもしれない。人員を減らすかもしれない。また結局は倒産してしまうかもしれない。そうなると働く人の数は減少し、所得も減ってしまう。その結果、景気は下降する。‟好循環”とは全く逆の現象が起きうるわけだ。現に韓国では18-19年に最低賃金を30%も引き上げた結果、失業者が急増してしまった。

雇用が増大して消費が増え、景気が上向く。その結果がさらに雇用を増やし、消費を拡大する。これが最善のケース。一方、物価が3.3%以上も上がって、最低賃金の上昇分を食い尽くす。これが最悪のケース。実際のケースは、この2つの間のどこかに落ち着くはずだ。その着地点を決めるのは、まずインフレの度合。さらにGDP成長率を、平均3%に近づけられるかどうかだろう。

        ≪3日の日経平均 = 上げ +147.17円≫

        ≪4日の日経平均は? 予想 = 上げ≫

Zenback

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