経済なんでも研究会

激動する経済を斬新な視点で斬るブログ。学生さんの就職準備に最適、若手の営業マンが読めば、周囲の人と差が付きます。

パウエルFRB議長の イラ立ち

2023-03-14 07:38:56 | アメリカ
◇ 金融政策が行き詰まる恐れ = ついに金融機関の倒産が発生した。経営が行き詰まったのは、カリフォルニア州のシリコン・バレー銀行。総資産は約28兆円で、全米16位の規模。保有している国債などの値下がりで巨大な損失を被り、取り付け騒ぎにあって10日に倒産した。FRBの利上げで国債など債券の価格が急落、それが引き金となったのだから、金融引き締め政策の大きな副作用が出たことに間違いはない。

それより少し前の7日、パウエルFRB議長は議会で重大な発言をしていた。その内容は「インフレ圧力が想定を上回っているので、利上げペースを加速する用意がある」というもの。これで次回の利上げは0.5%になるという見方が強まり、株価は大幅に下落した。ただパウエル議長はイラ立ちを隠して「これから発表されるデータしだいだが」という条件を付けることも忘れはしなかった。

そこで10日発表の2月の雇用統計に、関係者の注目が集中した。ところが非農業雇用者は31万1000人の増加で予想を上回ったが、平均時給の伸びは前月比0.2%増に鈍化。景気の方向を示すデータにはならなかった。このため現在は、きょう14日に発表される2月の消費者物価に大きな関心が寄せられている。

もし物価の伸びが明確に鈍化していれば、銀行の倒産もあって、FRBは利上げのペースを加速する必要はない。だが仮に物価上昇の勢いが衰えなかったとしたら、FRBは0.5%の利上げに踏み切るべきなのか。そうした場合、さらなる銀行の倒産を誘発する危険はないのか。でも利上げを0.25%にとどめれば、インフレは収まらないかもしれない。こうして金融政策は袋小路に入り、行き詰まる危険性が高まってきた。パウエル議長がイラ立つのも、無理はない。

        ≪13日の日経平均 = 下げ -311.01円≫

        ≪14日の日経平均は? 予想 = 下げ≫

解りにくい アメリカ経済 (下)

2023-02-08 08:06:26 | アメリカ
◇ パウエルFRB議長にも解けないパズル = 商務省が発表した昨年12月の消費者物価は、前年比6.5%の上昇だった。6か月連続で上昇幅が縮小、市場はこれを好感して株価は上げた。ところが物価上昇が鈍化した最大の原因は、ガソリン代の値下がり。エネルギーと食料を除いたコア指数は5.7%の上昇で、まだ高い。しかもコア指数の上昇は、人件費の高騰によるところが大きい。雇用が予想以上に堅調なので、今後も高止まりしそうだ。インフレは収まると期待して、いいのかどうか。

FRBは昨年3月から、金融政策を引き締めに転じた。当時0.25%だった政策金利は、現在4.75%に上昇している。ところが債券市場では、金利の異常な状態が続く。2年もの国債の利回りが4.3%台なのに対して、本来ならそれを上回るはずの10年もの国債利回りが3.5%程度にとどまっている。これは‟逆イールド”と呼ばれ、景気後退の前触れ現象と考えられている。だが、この現象は長期にわたって続いているものの、これまで景気は後退していない。

株式市場の行動も、ある意味では異常だ。生産活動の減退や雇用状況の悪化など景気にマイナスの指標が発表されると、株価はしばしば上がる。これは景気が下降すると、FRBが引き締めの手綱を緩めるだろうと期待するためだ。ところがマイナス指標に対して、株価が下落することも少なくない。どちらに傾くかは、予測が難しい。金融を引き締めても株価が上がるようでは、FRBもなかなか手綱を緩めにくい。

経済を予測する場合、矛盾した現象に出会って判断に苦しむことは少なくない。だが、これほど多くの矛盾が同時に出現することは、きわめて珍しい。1つの矛盾を解いたとしても、逆に他の矛盾が拡大してしまう。だから全体の方角を見定めることが出来ない。おそらくパウエル議長をもってしても、これらのパズルは解けないのではないか。だからパウエル議長の発言は、いつも‟両面作戦”になる。どちらにも受け取れる内容となりがちで、これがまた問題を複雑にしていると言えるだろう。

        ≪7日の日経平均 = 下げ -8.18円≫

        ≪8日の日経平均は? 予想 = 下げ≫

解りにくい アメリカ経済 (上)

2023-02-07 08:18:53 | アメリカ
◇ 矛盾する事柄が多すぎる = 最近のアメリカ経済には、常識では理解できない事象が多すぎる。たとえばアップルやマイクロソフトなど巨大IT5社が、そろって10-12月期決算で減益。その結果、この5社だけでも5万人の従業員を解雇した。大手だけではなく、数多くある中小のIT企業でも、同様のことが起こっているに違いない。また金融機関や小売り業でも大量の人員整理が行われている。

ところが1月の雇用統計では、非農業雇用者が51万7000人も増加した。これは予想の3倍という信じられない数字。失業率も3.4%と54年ぶりの水準に低下した。コロナ規制が解除されて宿泊や飲食サービスの雇用が増大したためだというが、IT技術者の多くがサービス業に移行したとは考えにくい。いったい、アメリカの雇用状況は強いのか弱いのか。

商務省が発表した昨年10-12月期のGDP速報によると、実質成長率は年率で2.9%だった。コロナ規制の解除もあって、2四半期連続のプラス成長。アメリカの景気は底堅いという見方が強まった。しかし中身をみると、GDPを押し上げた半分の要因は在庫の増加。それだけモノが売れなくなってきているので、景気には注意信号が灯ったという見方も出ている。

FRBによる金融引き締めの効果が表われて、景気は間もなく後退期に入る。しかし後退の深さは浅いと予測する専門家は、少なくない。ところがIMF(国際通貨基金)は23年の世界経済見通しで、アメリカの成長率を1.0%から1.4%に上方修正した。この2つの観測は、どうも矛盾しているように思われる。はたして、どちらが正しいのか。まだまだ、ある。

                         (続きは明日)

        ≪6日の日経平均 = 上げ +184.19円≫
  
        ≪7日の日経平均は 予想 = 下げ≫

バイデン大統領の 巧妙な経済戦略 (下)

2023-01-06 07:59:03 | アメリカ
◇ 中国も顔負けの国家による介入 = かつてトランプ前大統領は中国の国有企業に対する補助金政策を強く批判、制裁措置として中国製品に対する輸入関税を何度も引き上げた。これにはトランプ流の脅しと毒舌を伴ったことから、世界中に波風を巻き起こしたことは記憶に新しい。ところがバイデン大統領が成立させた2つの法律は、国による企業に対する補助金の支給という点では、中国と全く変わらない。それをバイデン氏は何の波風も立てることなく、見事に実現してしまった。

またトランプ前大統領は、ことあるごとに「アメリカ・ファースト」を口にした。同盟国ではあってもヨーロッパ諸国や日本より、アメリカの国益を優先するという思想で、これも世界中で物議をかもした。だがバイデン大統領の2法も、完全な「アメリカ・ファースト」である。しかも外国企業まで巻き込んだ「アメリカ・ファースト」だ。バイデン氏はこれも物議をかもすことなく、手中にしてしまった。

表立った波乱や物議は全くない。しかしアメリカで操業する海外の半導体メーカー、EVメーカーが大問題を抱え込んだことは確かだ。おそらくは水面下で、いろいろ画策しているのだろう。だが日本のメーカーについては、いまのところ何の動きも伝わってこない。また日本政府は、どう考えているのか。これもニュースは皆無と言っていい。

中国のように、国家が絶対的な権力を持っている社会主義国。そんな国が権力を行使して、産業を支援する。それに打ち克つためには、自由経済国も国が主導して企業を強くしなければならない。そんな考え方が必要な時代になったのか。バイデン流の手法を見ていると、そんな気もする。さて、日本政府はどう考えているのだろうか。

        ≪5日の日経平均 = 上げ +103.94円≫

        ≪6日の日経平均は? 予想 = 下げ≫

バイデン大統領の 巧妙な経済戦略 (上)

2023-01-05 07:32:12 | アメリカ
◇ 半導体とEVに全力を集中 = そのときはあまり感じなくても、あとになってみるとその物凄さにびっくりすることがある。バイデン政権が昨年8月、あっという間に成立させた2つの法律がそれ。1つは「半導体支援法」、もう1つは「インフレ抑制法」だ。前者は「中国に負けないため」、後者は「インフレに負けないため」を前面に押し出したことで、共和党もあっさり賛成。マスコミも「中国とインフレに勝つための法律」という解説を流していた。

「半導体支援法」は、半導体の国内製造に527億ドル(約6兆8500億円)の補助金を出すことが主柱。いま世界の半導体製造能力をみると、アメリカのシェアは12%で、中国の15%より少ない。このシェアを広げると同時に、最先端の半導体を開発。それを中国へは輸出しないことが目的だ。この補助金はアメリカ国内で製造する外国企業にも適用される。ただ今後10年間、その外国企業は中国での生産規模拡大や製品のアップグレードをしないことが条件となっている。

「インフレ抑制法」は総額600億ドル(約7兆8000億円)、再生可能エネルギーとEV(電気自動車)の普及促進を目的としている。このうちEVには1台7500ドル(約97万5000円)の補助金を出す大盤振る舞い。外国車にも適用するが、24年までに最終組み立てをアメリカ・カナダ・メキシコの北米3国で行い、電池部品の50%以上もこの3か国で生産されることが条件だ。

要するにバイデン大統領の戦略は「半導体とEVの生産で、アメリカが世界一になること」を目標としている。これにより中国はもちろん、台湾や韓国あるいは日本を圧倒的に凌駕する経済大国の再建を目指しているわけだ。アメリカも財政事情は苦しいが、そんななかでも半導体とEVを選択して、一気に巻き返そうという気概がはっきりと見えてくる。

                    (続きは明日)

        ≪4日の日経平均 = 下げ -377.64円≫

        ≪5日の日経平均は? 予想 = 上げ≫   

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