もしかしたら、ラカンは自分の存在を掴みあぐねているのだろうか。幼い時の記憶をたぐり寄せ、己が人間なのか、犬なのか、それとも風のように転げまわり、吹き荒ぶものなのか、見極めきれずに呆然と日を送っているのかもしれない。
そんなことを考え始めると、桂木だって、自分がどんな存在なのか、不安になる。
両親はすでになく、兄弟もいないし、妻との間に子供を授からなかったし、その妻とも離婚している。ある時期 . . . 本文を読む
<二間半、二尺仕舞い、九本継ぎ>の名品は、下手な洋画などより気品があって、桂木の書斎の壁によく似合った。
友人を呼ぶでもなく、家族が来るでもない桂木一人だけの城は、几帳面な性格そのままに整理が行き届いていて、実に居心地がよかった。
そろそろ初夏の気配が色濃くなっている。風に運ばれてくる緑の匂いに、植物の旺盛な営みが感じられる。
あまりにもあからさまな生命の活動を、桂木は好んでいなかったが、 . . . 本文を読む