どうぶつ番外物語

手垢のつかないコトバと切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設20年目を疾走中。

『ヘラ鮒釣具店の犬』(4)

2006-01-03 15:34:15 | 短編小説
 先週の興奮は、体の隅々に痕跡を残していた。  四日ぶりに散歩に出ようとして、内耳のあたりでカサカサと音を立てるものがある。風を受けて左右に揺れる笹の葉が、花大根の風景に重なって視えた。それは、現実感に乏しい、もどかしいような眺めであった。  同じように、あのとき暗い家の奥から桂木を見ていた黒い犬の記憶も、なぜか希薄になっていた。ただ、それぞれの気配だけは残っている。紫の花と笹の葉ずれの音は同調し . . . 本文を読む
コメント