侘助
茶ァなど嗜む身分じゃねえが
垣根に紛れ咲く一重の椿にゃ気をひかれる
侘助やい
おいらはお前ほどシャイじゃないが
植木職人の親方として
生垣づくりの作法は心得ているよ
お屋敷の仕事を請け負って二十年
垣根の全部が椿じゃつまらねえと言ったんだ
シラカシの渋さはいいよ
飽きも来ねえし品もある
だけどちったァ飾りが欲しいじゃねえか
地味さの中にきらり輝くものがよォ
侘助やい
おまえは真っ白な真珠だ
奥さまの首に春を招く小粒の真珠
海の匂いと鎮守の森を記憶する椿の仲間
艶葉樹(ツヤバキ)変じて椿と気取るのもいいが
潮騒に聞き耳立てる純朴さが似合っている
はるばる海峡を越えてきた一重の種族
太郎冠者とも縁つづきの役者志望・・・・
ひと差し舞ってみよと所望され
「御前にィい」と罷り出る
奥ゆかしい所作を愛でられて
お前は舞台の隅に据えられる
侘助やい
おいらの気持ちを汲んだかい
目立たぬように目立つのだ
寂しげに見せて華やかであれ
狂言役者の末裔らしく
トトンと床を打って白足袋の底を見せるのだ
そう思っていると、この小さなツバキが愛らしく感じられました。
そういうのも〔窪庭ワールド〕と言うのでしょうか?
連鎖的に物語を紡ぎだす手腕には感嘆しました。
まるでそれは手品を見させてもらっているような。
侘助のルーツについてはいろいろ言われていますが、日本古来の椿とはちがう種のようです。
おっしゃる通り本当に「小柄で可愛い花」ですね。
ふだん見掛けることも少ないせいか、画像も思ったより少なかったです。
やっと出合ったのがこれ・・・・。侘びを尊ぶ茶席とか、芸能にぴったりだと思いました。
タイトルに転換ミスがありました。
気をつけているのですが、ときどきやらかすんです。
植木職人の密かなる矜持が侘助の簡素な美しさに共感するとき
「・・やい」とつい人に語りかけるかのように、「やい」がつく。
俺とお前と似たもの同志でちょっと晴れがましいようなうれしいような。
なあ、侘助やい。聞こえているかい。
「・・やい」の一言・・・日本語の豊かさだなあー。
侘助に語りかける親方の心情から、無意識に「・・・・やい」と表しましたが、云われてみると日本語に秘められた可能性は想像を超えたものなのですね。
カタカナ表記にはそれなりの意味もあるのでしょうが、我々はだんだん日本語の豊かさを失い、薄っぺらくなっていくような気がします。
表意文字のすばらしさ、古典に駆使される懸け言葉等の奥深い表現法は、外国語と並行して学ばせるべきなのですが・・・・。
浮世絵的な運命? そうなる前に日本語が消滅しないことを祈るばかりです。
いろいろ気づかせていただき、ありがとうございました。