人を動かす言葉
昨年、9条改憲を許さない6・15共同行動をめざして日比谷野外音楽堂に集った60年安保闘争時代の闘士たち。また、その心意気に賛同して参集したさまざまな世代の人びとの姿が各所でみられた。
そこに至るまでには、国会議事堂前の三週間余にわたる連続ハンストや抗議デモなどの力強い行動、インターネットでの呼びかけと活動報告など老兵たちが見せた情熱が大きな役割を担っていた。
映画は、志を同じくする6団体の連絡協議会を含めた活動の様子、老活動家夫妻へのインタビューなどを追い続け、それらを余さず記録したDVD『We命尽きるまで』となってわれわれの前に届けられた。
このドキュメンタリーのプロデューサー暮松栄さんは、当ブログの「どうぶつ・ティータイム(5)」で取り上げさせてもらった8チャンネル系テレビ番組ザ・ノンフィクションの『ダメ親父のラヴソング』でも構成・演出に携わっていて、異色の歌手クーペさんと幼い頃別れた娘さんとの再会までを粘り強く追い続けた感動の作品を残した方である。
監督の藤山顕一郎氏はもともと60年安保世代で今回の企画に熱い思いを抱いていたらしく、より若い世代のスタッフにも恵まれて老兵たちの尽きない情熱を画面に定着することができた。
9条改憲阻止の目的はこれらの共同行動・集会によって果たされたわけではないが、今年も来年もそして将来にわたって変わらない意志を継承し発展させるための第一歩となったことは間違いないだろう。
ただしアピールがそれなりの成果を挙げたことは確かだとしても、国民を啓蒙し大きなうねりを作り上げられるかどうかはまだ未知のままである。
とはいえ、このドキュメンタリー映画の真価は60年安保を闘い挫折した老兵たちの已むにやまれぬ行動を、湖面に投げ入れた一石として捉えた点にある。
東大安田講堂に象徴される実力行動で時の政府を震撼させた闘士たちが、さまざまな呼びかけに応じて続々と参集してくるさまは、いま国民が置かれている危うい立場を反射板のように照らし出している。
羽を奪われたまま声一つ上げられない現代の若者の目には、彼ら自身が遭遇するかもしれない戦争の悲惨さがどう映っているのだろうか。
このドキュメンタリーに登場するかつての闘士たちにオーヴァラップする形で、さまざまのニュース映像が流される。
あの60年安保の激しい闘争をどう評価するかは人さまざまであろうが、20年の獄中生活を経てなお「9条改憲阻止」を訴える者、支える妻も登場して、その表情に漂うある種の達観が観る者に感銘を与える場面もある。
元活動家の名前や所属団体などは映画を観てもらえばわかる。
列記するにはあまりにもたくさんの参加者で、あの時代を生きたものならばたちまち思い出せる猛者も少なくない。
いまなお意気軒昂な者、年月を経て素直に自身の胸中を吐露する者、お孫さんを連れて壇上に立ちニコニコと戦争の無益を訴える者、それぞれのスタイルで9条の改憲阻止をアピールする老兵たちの表情が印象的であった。
中でも心に残ったいくつかの言葉がある。
「もう昔のようには動けないのだから、これからは動かないことが一番の戦術だ」
連続ハンストを意識した言葉で笑いと共感を得ていた。
「60歳以上は(9条改憲に)反対するはず。若者にどうのという気はない」
若者たちに期待するのではなく、自分たちが行動することで何かが動くことを信じているのだろうか。
「(参加することで)われわれと国会の距離感を知ることができる」
憲法特別調査委員会では、安倍政権側の強行採決が行われた。
「(9条改憲が行われれば)国家が国民を縛る憲法になる」
戦争放棄を謳った現在の憲法9条のすばらしさを、如実に表現している。
こうしてDVDを観終わって感じたことがある。
それは、激しい言葉の持つ限界点と、むしろソフトと思われる言葉に秘められた力への予感である。
<私のお墓の前で泣かないでください。Do not stand at my grave and weep>
いま流行の『千の風になって』を引き合いに出すのもおかしなものだが、イメージのともなう言葉はより力を持つことを伝えたかった。
そこからの連想で、戦争を忌避し平和憲法の存続を願う母親たちの切実な祈りを想起させる方が、より多くの人びとの共感を呼ぶ気がする。
第二次世界大戦の傷跡を胸に秘めた遺族の中には、この歌を聴きながら無意識のうちに遠い戦地に散ったご子息の姿を眼裏に浮かべた人がいるように想う。
強引な結びつけと受け止められたら謝るしかないが、この映画のすばらしい出来映えによってもたらされた「ことば」の問題を、卑近な例を以って説明したかったのである。
皆様はどうお感じになるであろうか。
行動の大切さは老兵たちの姿からも伝わってきたが、一方で農業に勤しんでいる元闘士夫妻の述懐には、地に足の着いた生き方の輝きが感じられたことを付け加えておく。
貧しくても平時における生活の豊かさを実感することが、すなわち戦争拒否の思いを共有する出発点であることを、しみじみと感じさせてくれた。
これからのアピールには、言葉の訴求力も無視できないのだろうと手前勝手に思った次第である。
興味のある方は、ぜひ『We命尽きるまで』を手に入れて、感想をお寄せいただきたい。
詳細は、公式ホームページ「http://we-inochi:com」までお問い合わせください。
(終わり)
60年安保闘争は、いまや40数年前のことになってしまい、ともすると、いや、実際に風化してしまっているようです。しかし、憲法九条の改憲の動きは、粛々と進められているのが現状です。
その時期を捉えて、安保闘争時代を蘇らそうとしている製作者には敬意を表します。
そして、あの「千の風になって」を引き合いに出された当ブログに同感を禁じえません。
とにかく、できるだけ早くこの作品を鑑賞したいものです。
ぜひご覧になってください。