どうぶつ番外物語

手垢のつかないコトバと切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設20年目を疾走中。

新むかしの詩集(3) 「旅」

2011-06-26 00:58:07 | ポエム
   商店街の三日月


      「旅」



  ながいこと佇ちつづけていたので

  一番列車の

  暗緑のシートを得た

  太古の海へ身をよこたえると

  凝ってしまった肩と腰が

  錘となった

  果てしない落下の感覚

  揺れる藻の

  祈りの蔭で

  「平和」に疲れて死んだ

  クラゲたちの

  淡い匂いを嗅いだ



  窓ガラスに虚無を穿ち

  海の寝所へ

  みのりなき叡智を撃ち込んだのは

  あなただったのですか

  十億年のむかし

  心臓を分かちあった

  それぞれの軌跡を描いて

  訣れた時から

  後悔は始まっている

  はげしく回帰を望む

  声は底知れぬ闇に木魂し

  ぼくに氷点下の輝きを増す



  機関士さん

  つれて行ってくれますね

  暁の冷気の中

  ぼくの命は

  割られた林檎のように

  痛々しい断面をさらしています

  せつなさに耐えられず

  すでに幾多の

  旅が試みられたが

  哀愁の青い水を反芻し

  衰え死んだ

  クラゲたちの話など

  聞きたくもありません



  地を這うものに故郷はない

  ためしにあなたも

  希求の炎を

  くべてみませんか

  レールの冷たい曲線が

  ヘッドライトの届かぬ

  先まで見えますよ




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2 コメント

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梅の湯商店街 (知恵熱おやじ)
2011-06-29 16:05:18
漆黒の中に梅の湯商店街のレトロっぽい街灯と三日月だけが浮かび上がる写真。

自分が一人ぽつんとそこに佇んでいるような気分にさせられる。なんかいいですね。
「梅の湯商店街」という響きも懐かしげだし。
返信する
まだ明らかでないものへ・・・・ (窪庭忠男)
2011-06-30 00:20:07

命名していただき、ありがとうございます。
「レトロっぽい街灯と三日月」を見上げる人の存在を、初めて意識させられました。
それが自分であれ、存在一般であれ、生きて在ることの感慨をあらためて認識いたしました。
返信する

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