カミナリ
地球が生まれた日の話をしようか
あたりにはまだ陸も海もなく
地表を水蒸気が覆っていた
地球からは太陽も見えず暗闇だった
「光あれ」 はじめの言葉が発せられた
創世記にはそう記されている
分厚い水蒸気の隙間から光が漏れ
神は光を昼 闇を夜と名付けた
混沌の地表を下の海が占め
熱を帯びた水蒸気の層を上の海と呼んだ
気の遠くなる時間を費やして
原始地球は海と空に分けられた
地球の誕生に際して
海の中からくぐもる声が現れた
溶けたまま溺れるのは嫌だ
それは命の叫びだったかもしれない
遅々として進まない生物の進化
業を煮やした雷神が空の意志を海に伝えた
単細胞な奴らを分裂させよ
進化の原型はこうして形作られた
やがて進化の頂点に人類が据えられた
ホモ・サピエンスと呼ばれる種だ
神性と獣性を兼ね備えた厄介な代物は
雷神の意図に反して分裂気質を顕在化した
神学だ哲学だと言葉のレンガを積んでみたが
生物はとどのつまり雷神の末裔なのだ
太古の森へのノスタルジーに打ち震え
タワーを林立させることに何の意味があろう
分裂連鎖の小賢しき末裔たちよ
与えられた陸地は仮りそめの皮膚にすぎない
一皮剥けば地球創生時のカオスが滾り
地表を飛び交う原子が叛乱を起こすだろう
午睡から目覚め翳り来る気配を知る
夏の強烈な日差しが一転かき曇り
篠突く雨が真昼の幕を下ろす
生物は帳の内側でこの世の終焉を疑似体験する
地球はすでに爛熟しすぎている
雷神がぼそりと独りごちた
生物進化にももう飽き飽きした
中でもホモ・サピエンスは手に負えない
「光あれ」 はじめの言葉を発したものが倦み
「閉じよ」と天を仰いだ
収縮は核まで達し言葉を淘汰した
地球の失語症はすでに始まっている
自分などどちらにしても間もなく地上からいなくなるけれど、孫やそのずっと先の若者たちの世までおぞましい火など無縁でありますように。
いつだったかの夏の午後スコールのなかベトナムのとある町をずぶ濡れで歩いているとき、人影のない大通りを小さなバイクにまたがった黒い服の美女が私に何か大声で叫びながら猛スピードで追い抜いてていきました。
ベトナム語が分からないので何と言ったのかわかりませんが、なにか歓喜の声のように聞こえました。
スコールのカーテンのなか遠く去っていく後ろ姿・・・「まるで生命の塊のみたいだな」と見とれていました。
東京や大阪みたいな大都会では剥き出しの命の塊なんか見たことありませんが、人が自然と調和して生きている土地ではたまに見られることもあるようです。
ずぶ濡れで歩いている男性を見て、自分も濡れてバイクを走らせる黒い服の美女は興奮したのでしょうね。
まさに生命の塊・・・・共感の歓喜。
映画のワンシーンを見るようで、若返ったような気持ちになりました。
ありがとうございました。