フィレンツェからバスに乗り、トスカーナ地方に広がる丘を越えてシエナにやってきた。(ちなみにバスのチケットを買うときは、「スィエナ」と発音しないといけないゾ)
城壁に囲まれているこじんまりした街だが、これでも中世には通商路の要所として発展した自治都市である。フィレンツェの赤味がかったレンガ色に対して、ここはくすんだ茶色に統一された美しい街だ。
街なかは狭い路地が入り組んでいて、車の姿をほとんど見ない。だからとても静かだ。ゆるやかな弧を描く街路は、建物に挟まれるように続いている。道の両脇に建物が建っているというよりは、逆に道の流れが長い時を経て建物を侵食し、深い谷底のせせらぎを作ったように感じられる。切り立った壁のような家の窓が道の左右、そして上に向って沢山ならんでおり、人々の気配に満ちている。この生活臭さが、私の生まれ育った下町の空気を思い出させる。
ローマはあまりにも大きい都会で、フィレンツェも車の多い観光都市だ。やはり中世の趣きを満喫するには、このぐらいの規模の街に滞在すべきだ。街全体が古美術品と言っても過言ではない。